表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生魔王の配信生活  作者: 白神 怜司
第四章 手を伸ばした先に待つもの
115/201

私たちの現状




 前世の記憶を思い出したと言っても、何もこの16年とちょっとを生きた私が消える訳じゃない。

 記憶の比重で言えば、それはまあ前世の記憶の方が強いのは間違いないけど、それでも今の私は滝 凛音という日本生まれ日本育ちの華の女子高生であって、ただそんな私の前世が魔王であって、その記憶や力が生きている――そういう感覚だし、そういう風に在ろうと決めている。


 まあ、多少は変わったと思うけどね。

 引っ込み思案で、埋没して隠れるように萎縮していた過去の私は、前世を思い出したおかげですっかりと消えてしまった訳だから。


 それはともかく。

 お母さんとユズ姉さんに伝えるべきことは、前世の記憶云々ではない。

 いや、前世の記憶がある、なんて言われたって困惑するのはお母さんたちだからね。

 私がそれを伝えたからって「前世の記憶があるって言ったよね?」とでも言わんばかりに自由に、好き勝手に振る舞うための免罪符のように扱うつもりは一切ないし。


 あくまでも伝えるべきは、魔力と魔法という存在のみ。

 その力の関係でレイネと出会い、レイネに魔法を教わる事になった、という話にする予定だったりする。


 私がまだ前世の記憶を思い出す前から、ずっとずっと私に寄り添い、助けてくれていたあの二人に対して、隠し事をしていたくない、というのも私の中には確かにあるんだけど、だからって何でもかんでも言えばいいってものじゃないからね。


「魔力に魔法。この世界でそんな事を言えば、あっという間に痛い子を見るような目を向けられそうだよね」


「実践しなければ、そうもなるかと」


 眠っている力が云々をどれだけ口にしたって、結局目に見えるものじゃないなら、他人から見ればないのと一緒だしね。

 だからこそ、私とレイネはお母さんとユズ姉さんに魔法を実際に見せるつもりだ。

 この前、トモとかユイカ、それにこのみんを相手にしたように。


 もっとも、今はまだ朝。

 リビングに移動して朝食もぐもぐ中。

 二人が揃うのは夕方以降になるし、ちょっとばかり時間もあるんだよね。


「そういえば、魔道具カメラの生産はどう?」


「魔道人形を利用した量産体制の確立に向けて動いております」


「おー、そうなんだ。あの島に生産工場建てたんだっけ?」


「はい、地下に」


「あ、そうなの? てっきり地上に建てているのかと思いきや、地下なんだね。結界もあるから上空からも見えたりしないはずだけど?」


「景観の問題です」


「あ、はい」


 魔王城があって、少し離れたところに工場みたいなのがあったら……うん、確かになんか夢が壊れるというか、テーマパークっぽいというか……なんかこう、いきなり現実を突き付けられたような気分になるかも。


「テーマパークとかでも周りが現代人な服装だし、日本人ばっかりだったりすると没入感減るもんね」


「……そう、ですね……?」


「いや、うん、なんでもない」


 レイネにはいまいち伝わらなかったらしい。

 私だけなのかな、そういうの。

 こう、世界に浸りきれない感じ……。


「そういえば、ロココちゃんはどうしてるの?」


「魔王城で現代文化に興味を持って色々と勉強をしてもらっています」


「あ、そうなんだ」


「はい。配信上で神使であることなどを言わないようにしてもらう為にも、何かと学んでおいてもらった方が良いと思いますので」


「あー……、それはまあ、確かにねぇ……」


 フォークに突き立てたサラダをぱくりとしつつ、ロココちゃんの性質を考えてみる。

 あの子、私の事がどうしても怖いというか、苦手というか。レイネがいないと私から逃げちゃうんだよね。

 私が怖いというより、私の魔力の片鱗が怖いということらしいんだけどね。

 そんな訳で、私は配信の時以外は少し距離を置くようにしていたりする。


「ある程度勉強が落ち着いたら、あの子にも専用の配信チャンネルを作るっていうのもありかもね。会社的に何か問題あったりする?」


「いえ、凛音お嬢様が活動する事を前提にしておりますので、Vtuber事務所として活動できるようにタレント事業についても登記はしておりますので、問題はないかと」


「おー、さすが。というか、その登記って必要なの?」


「基本的にはやってはいけないという前提になっていますが、法令上罰則があるという訳ではありません。ただ、会社としての信用上は登記しているに越した事はない、というところでしょうか」


「ふーん、めんどくさ」


「こちらの世界は向こうの世界に比べて手続きが必要なものは圧倒的に多いですから。私も専門家を篠宮家から紹介されて依頼しているだけですが、それだけでもかなりの手間がありますので、実際に手続きまで行うとなると手間は多い印象です」


「あれも届け出、これも届け出、みたいな感じ? うぇ~~……」


 お役所の手続きとかって面倒だし、実際、私の記憶にある手続きも無駄に時間ばっかりかかった印象だけど、会社の設立とか届け出とか、もっと大変そう。専門家の人じゃないと分からない謎ルールとかありそうだし。

 レイネがいてくれて良かった、ホント。


「せっかくですし、簡単に進捗をお伝えしましょうか?」


「うん、一応聞いとく」


「畏まりました。まず、魔道具の初期モデル制作は魔道人形が少しずつ学習していますが、量産に至るには時間をかける予定です」


「ん、そうなの? なんで?」


「魔力や魔法をこの世界に浸透させるには、それなりに時間をかけた方が良いと判断しています。しかしその一方で、お嬢様の配信が話題となり、注目度が凄まじい現状です。今の段階で手を広げられるほど、こちらの体制が整っておりません。今の段階で現代科学とは全く異なるアプローチによって実現していると知られて騒動となってしまうと、対応が後手後手に回る可能性がありますので」


「なーる。その辺りの塩梅は私には分からないから任せるよ」


 世間の動きだとか、この世界だとどういう動きになるだとか、私にはさっぱりだ。

 まあ、前世の世界だと大手の商会とかが小さい規模の商会に嫌がらせをしたり、買収しようとしたりだったりっていう騒動が起こったっていう報告はあったし、そういう類の横槍が入るかもしれない、って事ぐらいは想像できるけど。


「続いて、スタジオについてですが、こちらは早ければ今年の冬――順当にいけば12月にはオープンできるかと」


「お、意外と早いね。てっきり来年の春とか夏とか、それぐらいまでかかるかなって思ってたんだけど」


「基礎工事等は行われている倉庫を利用していますので、舞台の作成と搬入、組み立てというスケジュールのみになります。妥当なところ、というところでしょうか」


「ほへー、そうなんだ」


 ざっくりとしたイメージしかなかったけれど、それなら意外と早くレンタルとかもできるかもしれない。


「となると、ジェムプロとクロクロにはスタジオレンタルについて話を通しておいた方がいいかも?」


「はい。現在、完成イメージ図を用いたプレゼン用の資料、及びいくつかデモ映像も作成を進めております」


「何それ見たい」


「完成次第、サンプルをお見せいたします。ともあれ、営業には篠宮家から選抜されたスタッフが行いますので、凛音お嬢様に動いていただく必要はございませんが」


「あ、うん。それはお願い」


 相手がユズ姉さんならともかく、と言いたいところだけれど、商談なんて私にはできないしね。

 だいたい、今までだってVtuber関係で外に出ている時の商談はレイネ任せだもの、私にできる気がしない。


 魔王モードで話す事もできなくはないけど……海外ならともかく、敬語やら謙譲語やら多種多様な物言いの使い分けを求められる日本であの口調で商談なんてしたら。


 ……干されそう。

 もしくは、ネットに書き込まれて炎上とか。


「当然の事でございます。もともと、こちらで全て引き受ける事を前提に話を進めたのは私ですから」


「そうは言ってくれるけど、なんだかんだで幅が広がったのは事実だし、やってもらって当たり前という風に思うのも、なんか違うからね。ありがとう、レイネ」


「……はい」


 少しくすぐったそうに身を捩りながらも頷いてくれるレイネにニヨニヨしつつ、朝食を食べ終え、夜までは軽くピアノを弾いたりサムネイル作り、SNSでちょくちょく投稿したり。


 なんやかんやと忙しく過ごしている内に、約束の時間がやってきた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ