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転生魔王の配信生活  作者: 白神 怜司
幕間 小話集
112/201

閑話 小話:赤スパで殴るのは一流Vリスナーの流儀




「今日も魔王城からこんばんは、じゃな」


《待ってた!》

《陛下ありがとー!》

《ジェムプロ配信見た!》

《クロクロも見たよー!》


 配信開始と同時に凄まじい勢いで流れるコメントの数々。

 ただの『雑談枠』として立ち上げた枠だというのに、同時視聴者数も相変わらず3万人近くいるという不思議な状況。

 最近はもうこの数字を見ても、「あぁ、今日も多いなぁ」ぐらいの感想にしかならない辺り、私の感覚もだいぶ麻痺してきた。


 新技術カメラこと魔道具の貸与。

 ついにジェムプロだけじゃなく、あの『OFA VtuberCUP』で関わりのあった、Vtuber事務所の業界大手、『CLOCK ROCK』ことクロクロにも貸与し、昨日クロクロの新技術配信が終わったところだったりする。


 ちなみに、クロクロとの交渉に私は参加しなかった。

 レイネがピッチリとスーツを着こなし、今後商談を任せるという部下になる人を連れて行ったからね。


 ともあれ、クロクロのライブは凄まじく、最近ではテレビニュースでもジェムプロの新技術配信映像を取り上げて騒いでいる事もあってか、同時視聴者数は20万人に届いていた。

 おかげでコメント欄がバグったのか、途中で動かなくなってしまうというハプニングも起きていたみたいだけどね。


「うむ、妾が発表した新技術の影響もあって、試行錯誤をしてくれたジェムプロ、そして昨夜のクロクロのライブもだいぶ盛り上がっておったようで何よりじゃな」


『ホント凄かった! 陛下マジ感謝!』

『マジでアレどうなってんだw』

『普通にリアルのアイドルと同じような衣装の揺れとか、髪の揺れとか』

『俺の推しに貸与はよ!』


 概ね届いているコメントは感謝の言葉。

 次いで新技術に関する驚嘆の声、そして相変わらずの要望コメント、かな。


「よいよい。感謝は素直に受け取るが、舞台に立っておったのはジェムプロ、そしてクロクロの面々じゃからの。いちいち妾に感謝などせんでも良い」


『誇ってもいいと思うが』

『器の違いを見せつけていくぅ!』

『うるせぇ、感謝させろ! ¥50,000』

『あの技術は誇っていいと思う ¥3,000』


「ぬぁぁぁっ!? やめんか、バカタレ共! スパチャなんぞ妾に投げるならライブやら配信やらを頑張ったクロクロやジェムプロに投げれば良かろう!」


『うんうん、そうだね ¥50,000』

『お金で殴り、慌てふためく推しの姿、プライスレス ¥50,000』

『技術者、クリエイターに敬意を払うのは当然 ¥10,000』

『コメ欄真っ赤で草 ¥33,333』


 最初の赤スパ――1万円以上になると赤い枠で表示され、それを赤スパと言う――を皮切りに、堰を切ったようにスパチャが飛ぶ飛ぶ。


 うーん、Vtuber文化あるあるというか……。

 視聴者数の多さもあいまって、次々に投下される赤スパのせいで『札束で殴る』を地でいくんだよね。

 収益管理はレイネに任せているけれど、なんか新技術お披露目以降、収益が凄い額になってるらしいし。


 まあ、動画サイトの中抜きで抜かれる金額と、レイネ主導で設立された『魔王軍』っていう会社の収益になってるから、全部が全部ポケットに入ってくる訳ではないけどね。


 基本的に、私のところに入ってきている収益はほぼ全てが『魔王軍』の初期投資費用に流れている。

 レイネの生家である篠宮家に借りたままという訳にもいかないし。

 もっとも、レイネは私に献上したつもりだったらしいけれど、収益があるのだからそうはいかない。


「まったく、言うても止まらんではないか。とにかく、今日は雑談枠じゃからの。適当にバブル――匿名質問受付アプリ――に届いた質問でも割りながらくっちゃべっていこうかの。じゃから、アレじゃぞ。そのまま赤スパ投げておっても反応できんからの? 分かったな?」


『わがった! ¥10,000』

『はーい! ¥25,250』

『新技術の話じゃないんだね、了解 ¥10,000』

『止まる気配がねぇなw ¥30,000』


「……貴様らホントに止まらんではないか……」


『ジト目助かる ¥11,111』

『止まるんじゃねぇぞ……っ! ¥50,000』

『だが断る! ¥50,000』

『ちょいちょいネタ大喜利化してね?w ¥10,000』


 こ、こいつら……。


 いや、嬉しいんだよ、ホントに。

 たださ、やっぱお金ってギブアンドテイクで成り立つ訳でさ。

 私としては今日は何かイベントとかしてる訳でもないんだから、それなのに大量に赤スパを投げられるって、罪悪感というか、さぁ……!


「……はあ、まったく。いや、本当にありがたいのは確かなんじゃがの。活動資金にする事を考えれば、必然、資金はあるに越した事はないからの」


『せやろ?? ¥50,000』

『ここで投げれば新技術貸与が早まると聞いて ¥50,000』

『お、クレカ2枚目いっとく? ¥50,000』

『家賃ですが、私の心のオアシスの賃料にします! ¥50,000』


「アホかーーっ! 飲み会のハシゴみたいにクレカ何枚も使うでない! 別に今日投げなければいけないという訳でもないんじゃぞ! あと家賃を投げるでないわー!」


『陛下が焦ってるとかレア記念 ¥50,000』

『へへへ、これが見たかったんだぁッ! ¥50,000』

『やめたげてよぉ! 私の残高はもうゼロよっ!? ¥50,000』

『これちょっとした伝説じゃね? ちょっと便乗しますね ¥50,000』


「ぐぬぬ……っ、レイネ!」


「はい」


「スパチャの受付を止めよ!」


「残念ながら、そうはまいりません」


「何故じゃ!?」


「陛下、我々としても技術を無償で提供できる訳ではありません。先程も陛下ご自身が申し上げました通り、我々には資金が必要です。故に、もう少し愉悦……げふん、厚意としていただけるというのであれば、そこに否やなどありません」


「……お主、いま愉悦と言わんかったか?」


 じろり、と睨めつけるように目を向けてみせれば、レイネはカメラの向こう側でぐっと親指を立ててみせた。

 いや、盛り上がっているのは間違いないけど、違う、そうじゃないんだよ。


「ぷひゃ、ぷくくく……っ! い、言っていたの聞こえておりましたでございまする……!」


「ロココさん、何か?」


「ぴぃっ!? な、なななななんでもございません!」

 

『泣き顔ロココちゃん助かる ¥50,000』

『カメラナイス過ぎて草 ¥10,000』

『ちくわ大明神 ¥50,000』

『おい誰だ、ちくわ大明神って言ったの ¥30,000』


 ……ダメだ、止まらない……。





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