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転生魔王の配信生活  作者: 白神 怜司
幕間 小話集
111/201

閑話 小話:大手事務所を支える楪の独白




《――という訳で、今回の企画内容発表! こちら、デデン! 『ジェムプロ 柔軟性テスト』ー!》


『おぉぉ、これはww』

『懐かしき地獄企画のニオイがプンプンしやがる!』

『懐かしの試行錯誤の時代、再び!?』

『おいやめろ、コメ欄のせいで電車の中でニヤけちまったじゃねぇかw』


 私――滝 楪――が見守る中、企画説明を行うエフィの姿とその発表に加速するコメント欄に、ついつい笑いが込み上がってくる。


 懐かしいわね。

 まだジェムプロが――いえ、Vtuber業界そのものの黎明期とも言えた、あの時代。

 生放送と言えば実写が当然だったあの時代に、2D、3D技術によって動くモデルを使った配信を行ったところ、その技術に驚く人もいれば、心無い言葉を投げつける人も多くいた。


 そんな中、心が折れそうになりながらも、モデルだからこそできるような動きや、リアルに負けないような動きをどうにか演出できないかといった試行錯誤を続けていた時期がある。

 古参の視聴者ならば知っているであろう、数々の地獄企画(・・・・)は、当時の活動の爪痕でもあり、ちょっとした黒歴……けふん、若気の至り、といったところかしらね。


 たまに振り返り配信をしたりして、悶絶するものね、あの子たち……。

 あれ、実は当時の私も「きっとウケる」とか思ったりもしたものだから、地味にダメージくるのよね……。


 まあ、それは一旦置いておくとして。


 私の姉、大女優である滝 紅葉。

 そんな姉がある日突然妊娠して、父親の名前も明かされないまま生まれた凛音ちゃん。

 彼女がVtuberとしてデビューして半年弱。

 個人勢ではなかなか有り得ない、チャンネル登録者数にして脅威の百万人超え――今はもう120万人になりそう――という、異例の存在。


 個人勢Vtuber――異界の魔王、ヴェルチェラ・メリシス。


 そんな彼女と、どこで知り合ったのか今では一緒に暮らしているメイドのレイネさんこと、日本の華族とも言えるような由緒ある家の出身者。

 さらに最近では、ロココちゃんという見た目小学生ぐらいの幼女まで連れて、すでに個人勢でありながら箱であるかのように活動している、私の姪っ子。


 あの子たちによって発表された新たな技術は、文字通り世界に衝撃を与えた。

 実際、最近ではテレビの取材やら映像技術、カメラ技術で有名な大手の会社からも何やらアポイントメントを取りたいと連絡が来ているらしい。しかも国内外問わず、世界各国から、だそうだ。


 まあ、凛音ちゃんはそれらに応じる気はないらしいけど。

 配信の中でそういったオファーに対して「煩わしいからやめよ。受ける気などさらさらない。指を咥えて続報でも待っておれ」と堂々と言い放ったもの。


 ……あの子、ホントにVtuberになって怖いものがなくなりでもしたのかしら。


 あんなこと言ったら、普通は炎上確定。

 ただでさえ新技術の提供者ということでチャンネル登録者数が激増していて、Vtuberとしての凛音ちゃんの在り方というものをいまいち理解していない視聴者が多いというのに、あまりにも堂々とそう言い放ってみせた。


 当然ながら凛音ちゃんを、ヴェルチェラ・メリシスをよく分かっていない視聴者たちが騒いだせいで小火(ボヤ)が起こりかけもしたけれど、ファンによって完全に消火された。


 ――曰く、「陛下は元々ああだからw 調子に乗ってるとか、エアプ並の噛みつき乙」だの。

 ――曰く、「お前みたいなのがゴチャゴチャ言って、陛下が技術貸与を辞めることになったらどうすんの? その損失を考えろよ」だの。

 ――曰く、「陛下に異を唱えるとか言語道断」だの。


 ……最後のは信者か何かかしらね。

 ま、まあ、それに加えて多くのVtuberからも擁護するような〝お気持ち〟のモノロジーが飛んでいたしね。

 その裏に「ここで味方アピールしておけば新技術の機材を借りやすくなるかも」なんていう打算もあったんでしょうけれど……。


 私から言わせれば、その考えは甘すぎるし、そもそも相手が悪いわ。

 だって、凛音ちゃんは最初から炎上しようがなんだろうが、そんなものに痛痒を感じないというか、特に何も思わないもの。

 擁護したからって「じゃあお礼に貸与を優先しましょう」とはならないわね。


 もっとも、私もネットで叩かれる事に病んでしまっていないか、ちょっと心配だったから様子を見に行ったけど。


 ……あの子ってば友達とショッピングしたり海水浴に出かけたり――写真見せてもらったけど、なんかすっごい海綺麗だった――、夏休みを謳歌していて、炎上がどうとかなんて無関係と言いたげに過ごしていたのよね……。


 ……あの海、すっごく行きたいわ……。

 だって透明度が凄いんだもの。


 レイネさんの実家の所有している島らしいけど、どうも凛音ちゃんに自由に使わせてくれているらしいのよね。信じ難い話だけど。

 ただまあ、凛音ちゃんも連れて行ってくれるって言ってたし……。

 お盆休みが楽しみ。


 まあ、ウチはVtuber事務所なだけあって、世間のお休みはウチにとっては企画の集大成を配信するっていうスケジュールになりがちだし、一般的なお盆休みシーズンは仕事に追われているけれど。

 特に今年はリアルイベントでも色々動いているから……。

 準備期間が一番忙しいのよね、ホント……。つまり、今が。




 ――――閑話休題(それはともかく)




 凛音ちゃんが貸与してくれた、新技術を利用したカメラ。

 ウチのタレントとコラボを経験した事もあり、業界でも最大手と言ってもおかしくない事務所であること。

 それに加えて、自分で言うのもなんだけど、叔母である私を信頼してくれているという部分もあるからこそ、どこよりも先に新技術を貸与してくれている。


 実のところ、これにはメリットは当然あるけれど、デメリットもある。


 メリットは言うまでもないけれど、新技術を利用して視聴者の満足度を高められることね。

 凛音ちゃんのところにあちこちからオファーが飛ぶ、注目されている新技術だもの。

 同時視聴者数は二桁万人まで膨れていて、コメントには外国語も散見されるものね。


 デメリットは、他のVtuber事務所によって、この新技術を使ってどこまでの事を、どれほどやれるのかというモニター的な意味でも見られてしまうという点ね。

 さすがにそのまま企画をコピーするような真似をすれば視聴者から大ブーイング、なんて事態を招きかねないから、多少は捻ったものになるでしょうけれど。


 それでも、新技術ならばどこまで、何ができるのか。

 そういった情報を収集されてしまうのは間違いないものね。


 そういった事情を呑み込んでも、余りあるメリットではある。

 この技術の先駆者は間違いなく凛音ちゃんだけど、箱として企画ができるジェムプロだからこそ、箱としての先駆者の地位を確立するために。


 幸い、ウチは昔から地獄企画が定番……えぇ、何せ今でも地獄企画をやらかす子がいるしね。

 エフィとか……エフィとか。


 ほら、新技術で表情がしっかりと見えるでしょう?

 あれが数々の地獄企画を打ち出し、ダダ滑りしようがなんだろうが心が折れず、笑い話にしてしまう歴戦の勇士の姿よ。

 新技術によって、これまでのモデルよりもハッキリくっきり表情が読み取れるようになった今だからこそ、視聴者も分かるでしょう。


 面構えが、違うわ。


 …………いや、ホントなんであの子、平気な顔してるのかしら。

 参加者として今日の放送に呼ばれた後ろの子たち、明らかに表情引き攣っててコメント欄すごい事になってるのに。


 私とてあの子たちの胃に多大な負担をかけているのは理解しているけれど、それでもそれが面白いと評価されるのが、ジェムプロの配信よ。

 数字がそれを物語っているからこそ、エフィの地獄企画を通してあげる事ができるんだし、あの子たちもそれを承知しているからこそ参加しているんだけれどね。


 8月の中旬――来週末には、Vtuber事務所として私たちジェムプロと業界で双璧をなしていると言っても過言ではない、大手事務所であるクロクロにもこの新技術カメラが貸与されるらしい。


 それまでにどこまでできるか。


 ウチのタレントも、リアルイベントで忙しい中であっても、過密スケジュールをどうにか調整して新技術配信を増やしてくれると言っている。

 むしろやりたくてしょうがない、というのが本心みたいだしね。

 私も協力は惜しまないわ。


 ただでさえ忙しいのに頑張ってくれるみんなのためにも、私も頑張らないと。


 ……地獄企画対策の胃薬とかは常備しておいてあげるからね!







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