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転生魔王の配信生活  作者: 白神 怜司
第三章 『魔王軍』始動
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第三章 エピローグ




 突然現れた神を名乗る少年(ルオ)とその従者(ユキ)


 私とレイネをこの世界に転生させたという上位の神は、その地位には似つかわしくない人間臭い言動が目立っていた。けれど、間違いなく有した力は私よりも遥かに大きく、これまでに見たこともない程の何か(・・)を感じさせた。


 そんな存在が突然現れて、しかも転移門なんてものまで置いていって消え去った後。

 私はベッドに突っ伏して、レイネも疲れた様子だったので椅子に座ってもらって脱力していた。


「……疲れた……」


 私がぼやいてみれば、レイネもまた力なく頷いた。


 あの神とその従者が持つ力は、とてつもないものだった。

 以前、私が持つ力の多少の漏れで、この世界の妖魔、悪霊と呼べるような存在が消失するなんて話があったけれど、まさにアレと立場が逆転していたんじゃないかって気分。

 私とレイネもまたあの二人……二柱の力に常に押さえつけられていた。膝を屈し、頭を垂れてもなお耐え難い、目には見えない圧力のようなものが確かに存在していた。


 特に、あの従者の方。

 私が何か喋る度にむっとした様子で力が僅かに漏れ出していたんだよね……。

 レイネが、私に対して不遜な喋り方をしている相手がいる時に見せるような、そんな力の発露に非常に似ていた。


 ……かと言って私が畏まって喋ってしまえば、レイネの態度も頑なになっただろうしね。


 齢17にして中間管理職よろしく板挟みにあった気分だったよ。

 なお、そこに前世の年齢は加算しない。


「……お嬢様」


「んぁ~~……?」


「……私は、かつて前世の世界においても神族との戦いに参加し、対等に戦えていたと自負しております。お嬢様に至っては、正面からの戦いでは圧倒してもおかしくない程でした」


「そうだねぇ……」


「……ですが、先程のあの二柱には……」


「むりむり、むーりー。あれは私たちが――というより、誰かにどうこうできるような存在(モノ)じゃないよ~」


 ベッドの上からひらひらと手を振って答えてみせれば、レイネもまた納得したように苦笑を浮かべた。

 その様子から察するに、レイネもそうだと理解していた、というところかな。

 ベッドで寝返りを打って天井を見上げつつ、改めて続けた。


「……神族のさらに上位存在がいるっていうのは、私も知ってたんだよね」


「そ、そうなのですか?」


「うん。ほら、私は前世で人界と魔界を断絶させるために色々動くことになったでしょ。その時に神族の上位存在に会ったことがあるんだよ。転生するための条件を確認する、とかなんとか言われてさ。あの神も凄まじい力を持っていたけれど、当時の私はその神の底を見通した上で、凄まじい力を持っている、なんて評価ができた」


 かつて魔王であった頃に出会った上位の神。

 その存在の力を垣間見た時、私は「もしも戦いになれば良くて相打ち」という評価を下した。要するに、命を(なげう)ってようやく、という評価だ。


 魔族と人族の争いは激化していて、場合によっては「魔族を消失させる」なんて決断になるかもしれないと、そう思っていたからね。

 だから、そんな決断に落ち着くぐらいならば、場合によってはそんな戦いすら辞さない気持ちでいた。


 もっとも、杞憂に終わった訳だけど。


「……でもね、さっきのあの二柱は、私程度じゃ評価できない。評価っていうのは、全てを見て初めてできるものだからね。文字通り、あの二柱は格が違ったよ」


「……いるのですね、お嬢様であっても手が届かない存在というものは」


「そりゃいるよ。そもそも、魔王であった頃から今に至るまで、確かに私は強かったかもしれないけど、敵がいないとか何もかもに手が届くとか、そこまでは思ってもいなかったしね」


「……そうなのですね……」


「うん。――ま、別に私はそれでいいと思ってるよ」


「え……?」


 レイネのことだから、きっとあの二柱に届かなかった己が不甲斐ないとか、そんなことを思っているのか落胆しているレイネに顔を向けて、私は笑った。


「目標もなく、自尊心を満たすためだけの強さを求めて、それが手に入ったところで、今度はそれを見せつけたがるようになるだけ。理由をつけて戦う理由を求めた、かつての魔族の荒くれ者たちがそうだったようにね」


 手にした何かを誇示するには、活躍の場がなくてはならない。

 力を手にしたのなら、それを誇示できる戦いの場を求めるようになってしまう。

 この世界ならエンターテイメントとして受け入れられているし、活躍の場はあるかもしれないけれど、あの世界にはそんなものはなかった。


 必然、力を誇示するなら戦いを求め、戦いが行われれば殺し合うことになる。

 そんな世界だった。


「守りたいと思えるものを守れるだけの力さえあったなら、それでいいんだよ、私は。だからレイネたちを守れた。それで満足」


「……私は……、私こそが、お守りしたいと考えていました」


「あはは、何言ってるの。レイネたちが、臣下のみんなが、私に不足していたものを補ってくれていたじゃないの。だからこそ、魔界を守れたんだよ」


 インフラがどうの、暮らしがどうの、保障がどうの。

 国を国として運営していくにあたって必要なことは非常に多い。

 でも、私はそこまで細かく考えたりっていうのは苦手だったし、王族としての威厳がどうのとかなんて考えもなかった。

 ただ平和を求めて力を振るって、魔界の最強という象徴になっただけだし、有り体に言えば、バラバラだったものを強引にぎゅっと纏めただけに過ぎないと思っている。


 それを国として支え、発展させるために尽力してくれたのは、他ならぬ臣下の皆で、そんな臣下を纏めてくれて、私を支えてくれたレイネたちだから。


「今だってそうだよ。この世界での私なんて、本質的にはただの女子高生に過ぎない。できることなんてたかが知れてるんだよ。万能でも、完璧でもないよ。レイネに支えられているから自由にできているんだもの」


「私に、ですか?」


「うん、そうだよ。レイネがいなかったら、新技術として魔道具を使おうなんて思わなかった。島を使って魔王城を作る、なんてこともしなかった。多分、トモやユイカ、このみんに魔法を教えようともしなかったんじゃないかな。レイネがいてくれて、本当に良かったよ。……さすがに会社がどうのとかレンタル事業とかスタジオ経営とか、そこまで手を広げまくるとは思ってなかったし、予想外ではあるけど。それでも、レイネのおかげで、今はすごく楽しいことになってるなって思うもの」


 本当に、そう思う。

 レイネがいなかったら、記憶を取り戻したとは言ってもせいぜいが一般的な女子高生に擬態して生活するだけで、こんなに色々なものには手を伸ばすこともなかっただろうな、って。


「それとも、完璧で完全な私じゃないとダメ? レイネは私から離れても色々できると思うし、無理に一緒にいなくてもいいとは思う――」


「――そ、そんなことはありませんっ! お嬢様は私が支えます!」


「……ぷっ、くくく……っ、そんな慌てて否定しなくてもいいのに」


「そっ、それはお嬢様がおかしなことを言うからです!」


 ついつい込み上がってくる笑いを噛み殺しきれずに漏れ出てしまったせいで、からかわれたと気が付いたらしいレイネが耳を赤くしてそっぽを向いてしまった。

 私の視線が向けられていることに気が付いているのか、じぃっとそんな姿を見つめているとぷるぷると僅かに身体を震わせているのが見て取れる。


 しばらくそうしていたかと思えば、レイネは咳払いをして意識を切り替えたのか、まだほんのりと耳を赤くしたままではあるものの澄ました表情を浮かべてこちらに向き直った。


「――冗談はさて置き、お嬢様」


「ん?」


「ダンジョンの配信については本当に行うのですか?」


「んー、しばらくはしないよ。魔石を取りに行くぐらいはするだろうけど、ダンジョン配信なんてやったら騒動になるのは間違いないからね」


 バズり目的でやれば、まあ話題性はあるとは思う。

 何せダンジョンと言えば、ファンタジー系ラノベなんかの定番だからね。


 ただ、Vtuberからフル3DCGを使ったアニメーションに変わったのか、なんて騒ぎ方をされたりもするだろうし、何よりユズ姉さんとかジェムプロはもちろん、今後撮影機器を貸与した人々にどう説明すればいいのかっていう問題も出てくる。

 実際に戦っているんだ、なんて思われても説明がつかなくなるしね。


 私としては、魔力や魔法といったものをこの世界に広めるのは、まだまだ難しいと思っている。それこそ、少しずつ浸透させていかない限りは新たな争いの種にしかならない、と。


 ジェムプロに撮影機器を与えていなくて、かつレンタル事業なんてものをやっていないのであれば配信しても良かったかもしれないけど……うん。やっぱり今の状況で配信で流すなんて論外だ。


「かしこまりました。では、当面『魔王軍』は当初の予定通り、機器とスタジオのレンタルのみを中心に行っていく、ということでよろしいですね?」


「うん、そうだねー……――ん? ねぇ、ちょっと待って?」


「はい、なんでしょうか?」


「いや、今なんか変な単語が聞こえた気がするんだけど?」


「変な単語、でしょうか?」


「うん、魔王軍とかなんとか。レイネが言い間違えたとか、私が聞き間違えただけなら別にいいんだけど、なんで魔王軍なんて単語が聞こえたんだろ……」


 さっきまでやって来ていた神やら何やらがいたせいで、ついつい前世を思い出してそう言ってしまった、とかなのかな。

 そんなことを考えていたら、レイネがきょとんとした顔で私を見つめたまま、小首を傾げてみせた。


「いえ、間違いではありませんが?」


「え?」


「登記した社名が『魔王軍』ですので、間違いではありません」


「……え?」


「凛音様が代表である組織と言えば、これしかありませんでしたので」


「…………マジ?」


「無論です。社名が『魔王軍』です」


「……ダサッ!?」


 衝撃の事実を告げられた、夏の一幕だった。








お読みくださりありがとうございます。

これにて第三章は終了、第四章に向けて進んでいきます。


ブクマや評価、いいねなどありがとうございます。大変励みとなっております。

誤字報告もかなり助かっています。

「見直したはずなのになんで見逃すんだろ?」ってなる時もありますが。笑


私事で色々と大変な時期を挟んでいたのですが、そちらも落ち着いてきつつあるので、今後も無理のないペースで投稿してまいりますので、引き続きお楽しみいただけると幸いですm


これからも応援よろしくお願いしますっ!

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