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転生魔王の配信生活  作者: 白神 怜司
第三章 『魔王軍』始動
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置き土産




「まあ、そこまで深く考えなくていいよ。僕としては、単純にキミ達が魔石を手に入れて、魔法という技術を世に知らしめていってくれればそれでいい。それだけで人類に選択肢が増えると考えているだけだからね。とは言え、別にそっちを優先してほしいとか、絶対やってほしいとは思ってもいないんだ」


 あくまでも軽い調子で、本当に気にも留めていない様子で、(ルオ)はそんな言葉を私たちに投げかけてきた。


「……いや、さすがに人類が滅ぶなどと言われれば、悠長に構えておれんのじゃが?」


「そうかい? 実際、人間は悠長に構えているじゃないか。すでにその片鱗が露呈しているのに」


「片鱗、じゃと?」


「うん。ちらっとこの世界の情報を参照してみたけど、世界各地で徐々に動き始めているじゃないか」


 世界各地で動き始めている……?

 うーん、そうは言われても……なんて考えて、最近のニュースを思い浮かべてみて、それに私も気が付いた。


「……ッ、それはまさか……」


「うん、正解。人類同士の大きな争い。アレが大きくなり次第、人類は滅亡するよ。他ならぬ人間の手によって、ね」


 そう言われて、私もレイネも思わず言葉を失った。


 確かに、最近は国内紛争やら何やらで世界的に不安定な動きが大きくなりつつある。

 国と国での論争も激化しているとも言えるし、どこかの国とどこかの国が手を組んだかのように結託して大国に抗う、なんて動きを伝えるニュースも増えている気がする。


 ただ、そんな動きはやっぱり遠い国の出来事。

 対岸の火事を眺めるかのような代物でしかなかった。

 実際、この国からは遠い国の出来事であるように思えたし、映像越しのものでしかないのだから。


「キミ達が力を振るってこの世界を統一してくれると言うのなら、まあ回避はできるだろうけどね。そんな気はあるかい?」


「いや、皆無じゃな」


「だろうね。ま、それはそれとして、神々としてはこれを完全に放置するという訳にもいかなくてね。特に、現代科学の力によって世界規模で大戦が引き起こされようものなら、〝世界〟に影響を与えかねないと判断しているんだ」


「〝世界〟に……?」


「うん、そうだね。人類にはあるだろう? たかが人間の戦争で使われかねない、環境すらも破壊してしまうような厄介な兵器が、さ」


「……核兵器、じゃな」


 口を衝いて出た言葉に、ルオが頷いた。


 人類が滅ぶ。

 確かにそんな話は与太話程度ではあったけれど、私も聞いたことがある。

 もしも世界で大規模な、それこそ世界大戦とも言えるようなものが起こった場合、どこかの国が核兵器を使った瞬間、それに対抗、報復するかのように核兵器が次々と投下され、人類が滅亡する、なんて話を。


 核兵器がもたらす影響は、何もその一撃の大きさだけじゃない。

 放射能による環境汚染。

 有名な話ではチェルノブイリ原発事故なんかも挙げられるけれど、核兵器の場合、あれほどの影響は出ないんだっけ。


 いずれにせよ、ろくな兵器ではないのは間違いないけどね。


「あんなものがあちこちでばら撒かれる事になれば、その影響は〝世界〟に及んでしまう。知っているかい? 様々な生命が生まれた〝世界〟は神々にとっても貴重なんだ。そんな貴重なモノをたかが一種族に破壊されるとなれば、さすがに神々も黙っていない。そうなるぐらいなら、いっそ介入してしまおう、というのが神々の意思だ」


「それは、お主が人類を滅ぼす、というような形かの?」


「それもできなくはないけど、違うね。いっそそんな兵器を消し去り、人間を強引に新しいステージに引き上げてしまおう、という方針さ。それこそ、核兵器なんて代物がなくても生活も豊かになり、かつ〝世界〟に影響を与えない力を得られるように、ね」


「……なるほどのう。それこそが、先程言っていた劇的な変化とやら、じゃな」


「そういう事だね。神々――というか、僕が介入するとなると、人類のほぼ半分ぐらいは命を落としかねないほどの急激な変化を与える形になってしまう。その点、キミ達が魔石を持ち帰り、ゆっくりと魔法を浸透させて世界を変えていってくれるならば、急激な変化は訪れずに済むかもしれない。だから、キミ達にとっても、キミ達の世界にとっても、僕が転移門を渡して支援するという流れは、そう悪いものじゃないのさ」


「……ふぅむ……」


 ――悪い話ではない、か。

 それが一通りの話を聞いてみて、私が抱いた感想だった。


 言われてみれば確かに納得できなくもない。

 ルオが嘘をついて私を騙している可能性については……そんな事をするメリットもないだろう、と思う。

 レイネや私ですらあっさりと屠ってしまえるような相手だしね。

 そんな力があるのなら、私たちをわざわざ騙したりせず、脅して黙らせる、或いは物理的な意味で黙らせるなんて方法を取れるような存在だもの。


「ちなみに、お主の言う、急激な変化を与える形というのはどういうものか聞かせてもらっても良いかの?」


「以前他の世界でもやったんだけど、世界にダンジョンを実装して、同時に魔力を世界に浸透させて魔法を使えるようにする、かな。あとは、ついでにステータスやスキルなんてものを与えるけれど、兵器や銃器なんかは土にするし、作れなくする。ある意味、キミ達の以前いた世界に近くなるんじゃないかな?」


「……ステータスやらスキル、なんてものはなかったがの」


「ラノベとかで見たことあるでしょ?」


「……まあ、それは分かるんじゃがのう……」


 実際、この世界がそういう世界に変わる、みたいなラノベはあるしね。

 神がそれを知ってるっていうのは違和感あるけどさ。

 あ、でも神なら知っていて当然とも言えるのかも。


「しかしその程度ならば、人類の半分も命を落とさないのではないかの?」


「うん? あぁ、何も人間だけにそれをするつもりはないよ? 野生の動物たちも強化する事になるからね。兵器に頼っていた人間と、人間に追いやられていた野生の動物たちの、新たな縄張り争いが始まるんじゃないかな?」


「……それは……」


「魔力やステータスが与えられて、獣たちは知恵を得る。そうして、自分たちを追い詰めているのが人間だと理解した時、どう思うだろうね?」


「……なるほどのう。報復とまではいかずとも、人間を相手に奪おうと考える獣が出てきてもおかしくはない訳じゃな。そうなった時、身体能力や肉体的な強度では優れているとは言えない人類は、それを補う兵器、武器をなくしておる。なるほど、人類は追いやられる訳じゃな」


 戦い、命の奪い合いというものが遠く離れた現代人が、そんな獣たちを相手に武器も持たずに立ち向かえるかと言えば、まあ難しいだろうね。


 でも、もしもそうやって、たとえば野生の猪とか熊とかが強さを得て、積極的に人間の生活圏を脅かすようになった時、今も問題になっている動物愛護がどうのと騒ぎ立てる人たちはどうなるんだろう。

 手のひらくるっといくのか、ちょっと気になる。


「それに、ダンジョンを生んだ時点で魔物を放出したりもするかな。人間同士で争う暇なんて与えないように、ね」


「……それはまた、被害がさらに増えそうじゃの」


「その点、キミが魔石を持って帰ってそっちのメイドさんの家で研究して、新たなエネルギー源として世界へと発表できれば、限りある資源に新たな要素が加わって世界を相手に取引だってできるようになる。そうしてうまく世界をコントロールしながら魔力や魔法を浸透させてくれれば、そんな強引な方法は取らないよ。その動きに合わせて、核やら〝世界〟に悪影響なものは土に戻させてもらうけど、ね」


「……レイネよ。お主の家で動く事はできるのかの?」


「……やろうと思えば、確かに可能かと。篠宮家はこの国の名のある家柄ですし、コネを通じて国の首脳部へと働きかける事も、難しくはありませんね」


 ……確かに、レイネの話を聞く限りできなくはないんだろうけどさ。




 ――――それにしても、さ。




 私とレイネの魂をこの世界に運んだのもまたルオだと言う話。

 私はともかく、レイネをわざわざ国とのパイプを持った篠宮家とやらに転生させた事も考えると、全て狙い通りというか、最初からこうなる(・・・・)ように仕向けていた気もするんだよね……。


 まして、ライトノベルやアニメといったサブカルチャーに対して、世界的に見ても理解度の高い日本という国だし。

 日本人なら魔力やら魔法なんかにも比較的早く順応しそうだし、受け入れてもらいやすい国ではある。特にそういうサブカル好きな層は大歓喜だろうし。


 なーんか、手のひらの上で最初から転がされていた、と思ってしまうのは穿ち過ぎというものでもなさそうだなぁ、って。


 おもわずじとりとした目を向けてしまうものの、当の本人はしれっとレイネに紅茶のおかわりを貰って微笑んでいるし、その従者らしいユキと呼ばれた少女も座ったまま目を閉じて微動だにしないけれど。


「……はあ、やれやれ。妾とレイネを運んできた、その当時からそのつもりであったということじゃな?」


「場合によっては、というところだったけどね。思ったよりも動きが活発だったんだよね。気を悪くしたかい?」


「……なに、構わぬ。ただ、間に合わずとも妾の知ったことではないぞ。たとえ間に合わなかったとしても、守るべき相手は妾とレイネで守れるしのう」


「うん、僕はどっちでもいいからね。気にせずやってくれればいいよ」


 そんな事を言ったところで、ルオが椅子から立ち上がり、部屋の隅に手を翳した。


 そうして出てきたのは、重厚な石造りの扉。

 観音開きとなるであろう扉の左右には後ろ足で立った獅子の模様が彫られていて、扉の切れ目となる中央には宝玉のような紫色の宝石が嵌め込まれていた。


「この宝玉に魔力を流してくれれば扉は開く。ダンジョンの外には出られないようにさせてもらうけど、いいね?」


「あの世界がどうなったか気にもなるが、妾やレイネはすでにいない世界じゃしの。表に出るつもりもない」


「うん、なら良かった。向こうからは転移魔法でこっちに帰れるようにしておいたから。あとは自由に使うといいよ」


「うむ、感謝する」


 そこまで言うと、ユキと呼ばれた少女がルオの近くへと歩み寄っていく。

 ルオがトンと足の先で床を叩くと二人の足元に魔法陣が浮かび上がり、光を放って二人を包んでいった。


「――じゃ、お茶ごちそうさま。もう会う事はないだろうし、元気で」


「うむ。妾とレイネをこの世界へと連れてきてくれたこと。そして、今回の転移門のこと、感謝する」


「気にしなくていいよ。――あ、そうそう。ダンジョンの中、配信していいよ」


 たった一言を言い残して、ルオとユキと呼ばれた少女は光に包まれて消えていった。




 …………いや、ダンジョンの中を配信していいって、どうしろっていうのさ……。







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