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転生魔王の配信生活  作者: 白神 怜司
第三章 『魔王軍』始動
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予想外な提案




《――皆様ご機嫌よう。エフィール・ルオネットですわ》


『きたあああぁぁぁ!』

『草』

『猫被んなw』

『映像が綺麗なせいで清楚に見える』

『俺の知ってるエフィと違うw』


 ブラックアウトした室内、スポットライトを浴びて画面に映ったエフィが映し出され、その見た目に相応しい、清楚な女性さながらに挨拶。

 結果としてコメントに返ってきたのは視聴者たちの感動のコメントが2割、あとは猫を被ってるだのコレジャナイ感がひどいだの、言いたい放題言われていて笑えてしまう。


 あ、エフィの微笑みが引き攣った。


《あー、もうっ! せっかくそれっぽくやってるんだから黙れーっ!》


『いつもの』

『これだよ、これこれ』

『猫被り崩壊RTAかな??』

『はえーよ、もっと耐えろw』


「確かに早いね」


「あの方はこういう視聴者との掛け合いが盛り上がるタイプなので、計算通りかもしれませんが……」


「タイトルコールとか諸々やるまでは耐えるって話だったけどね」


 フォローを入れていたレイネも、さすがにその事実を耳にして押し黙る。

 うん、舞台裏を知ってしまうとそうなるよね。


 それにしても、やっぱり魔道具を使ったカメラの映像は凄いね。

 エフィが清楚モードを完全に解除して姿勢を崩した事さえ、通常の3D配信であっても見て取れるものだけれど、魔道具で映した映像だと余計によく分かる。


 私も配信中にそういう風に見せないように気をつけておかなくちゃ。

 普通の3Dなら誤魔化せていた表情とかが、魔道具を使うと隠せないもんね。


《――あー、ほら。スタッフさんからカンペで『せめてタイトルコールはちゃんとやれ』って言われちゃったじゃん! お前らのせいだからな!》


『草草草』

『冤罪です』

『どう考えても自業自得』

『ここまでが定番』


《はいはい。あー、んんっ! ――スゥー……。皆さん、大変おまたせしました。新技術によるお披露目配信を始めたいと思います!》


『待ってた!』

『きちゃあああああぁぁぁ!』

『一期生全員おる!』

『すご! みんなマジでクオリティやば!』


 エフィの宣言と共にエフィだけを抜いていたスポットライトが消えて、照明がスタジオ内を照らし出した。

 トークスタジオを意識したかのようなセットと巨大なモニターが置かれていて、司会席と雛壇に分かれていて、雛壇にはジェムプロの一期生の4名が座って手を振っていた。


「おや、先日の商談に出ていた残りの御二人はいないようですね」


「リオとスーは一期生じゃないからね。ジェムプロの一期生は彼女たちみたいだね。私も名前までは知らないけど」


「なるほど、そういう事でしたか」


 見覚えはあるけど名前とかどういう配信なのかとか、そういう情報は私も持ち合わせていなかったりするんだよね。

 自分が直接関わらない相手でしかないからね。

 エフィやリオ、スーは『OFA VtuberCUP』で一緒に行動したからしっかりと調べたりはしたけど。


 それにしても凄いね。

 ユズ姉さん曰く、今回の配信のために急遽イベント会社に話を持ちかけて用意したらしいスタジオ。

 かなりシンプルな造りではあるけれど、主役はジェムプロのVtuber達であるおかげで違和感もないし。


 ちなみに彼女たちの衣装だけれど、ジェムプロのリアルイベントで等身大の衣装を作ってマネキンに着せて展示したりという事も行っていたので、今日はその衣装を本人達が着ているらしい。

 おかげでコメントも初期衣装だのなんだのと盛り上がっているみたいだし、実際にイベントで衣装を見た人なんかもいて、感動しているらしいコメントも散見される。


「へぇー、構成面白いね。さすが大手って感じ」


 それぞれ自己紹介をするタレントが前に出てきて、魔道具を使った配信ならではの服や髪の揺らめきを余すことなく伝えながらの挨拶。その度にコメント欄が爆速で流れていく。


 さすが同時視聴者数、18万人……。

 コメントのスピードが尋常じゃない。


「んー、凄い注目度だね。これはレンタル事業は早めに本格化しないと大変な事になりそうだね……」


「ご安心ください。すでにそれなりの数を揃えておりますし、Vtuber事務所向けの営業人員も篠宮のツテを使って確保しております。研修が終わり次第、すぐにでも動けるかと」


「おぉ……、さすがレイネ」


 無表情ながらにちょっと得意げな感じのドヤ顔を浮かべてみせるレイネに苦笑しつつ、配信を見ながら私も中断していた配信用サムネ作りを続行。

 ロココちゃん用の表情もいくつか素材用に撮らせてもらっていたのだけど、その中でロココちゃんにゲームをやらせる配信を準備中。


 こうやって鼻上あたりから額の部分を暗い色にして、涙目にして、と……。

 サムネは小さくなっちゃうし、フォントを見やすい感じにしておかなくちゃいけないから、インクというか液というか、そういうのが垂れたようなもの、かすれているようなものは使わない。


《――という訳で、二期生のみんなー! 聞こえるー!?》


 スピーカーから聞こえてきたエフィの声に、配信画面に顔を向けると、ワイプ表示されたジェムプロ二期生が映し出され、画面が分割されてリオとその同期達が映った。


『二期生きた!』

『これもしかして全員出るのでは!?』

『すげー!』

『おおぉぉ! ケモミミ動いてる!』


「あー、なるほどね。一箇所だとカメラの魔法対象人数に限界があるからこうして分けて中継みたいに繋いだって事なんだね。やるなぁ」


 さすがジェムプロ。

 誕生日ライブなんかでもカメラワークや切り替えなんかもプロ級だったりするけれど、こういう部分でも対応しきってみせるあたり、裏方を支えるスタッフの技術も高いし、応用もうまく仕掛けてくる訳だね。


「ねえ、レイネ。幻影対象をもっと増やす方法ってあるかな?」


「できなくはないですが、カメラそのものは小さいものを箱で囲えばいいとして、代わりに箱そのものを大きくして中に大きめの魔法陣を仕込む事になりますね。それに、魔力消費量も増えてしまいます。外部から魔力を供給できる存在がいない限り、配信時間が極端に短くなってしまうかと」


「あー、そういう感じかぁ……」


 現在の魔道具カメラの幻影魔法対象人数は、単純に言えば魔力量と撮影時間のバランスから設定されているものだ。

 魔法陣には直接魔力を注ぎ込んでいて、その許容量の限界が今の撮影可能人数と時間を維持している訳だけど、対象を一人増やすだけでも魔力消費量は跳ね上がる。


 前世、魔王として生きていたあの世界ならば、外部から魔力を供給するという方法も取れたし、そもそも魔法陣に特殊な塗料を塗布して許容量を増やす事だってできたんだけどね……。


「うーん……、まさかあっちの世界にこんな形で未練が生まれるとは」


「未練、ですか?」


「うん。魔石が欲しいなって。あー、この世界にもダンジョンとかあったら、さくっとダンジョンの深層に行って大きな魔石とか取ってくるのに」


 魔物の核となる魔石。

 蓄積された魔力が凝縮し、魔物の核とも言えるその存在は、いわば魔法における外部バッテリーのような役割を果たしてくれる。

 野生の魔物をいちいち探さなくても、ダンジョンという異常魔力空間ならば大きな魔石を持った魔物とかも現れるし、集めるには事欠かないんだけどなぁ。


「……そういう事であれば、行ってみますか?」


「ん?」


 椅子の背もたれに上体を預けて「んあー」と声を洩らしていた私にかけられた、謎の提案。

 その真意が分からず目をぱちくりさせて立っていたレイネに声をかけると、レイネは特に変わらない様子で続けた。






「私と陛下が生きていた、あの世界へ。渡る事ができるのではないかと思いまして」






 ……なんですと?





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