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転生魔王の配信生活  作者: 白神 怜司
第三章 『魔王軍』始動
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【配信】陽キャと陰キャの陛下持論




「――ふああぁぁぁ……。ん? あぁ、よく来たな、臣下ども」


『初手あくびは草』

『挨拶が雑ゥ!?』

『無理しないで!』

『待ってましたー!!』

『相変わらずの映像技術だな』

『すげー、生でコレか』


 配信開始と同時についついあくびが出てしまった。


 いや、それにしても凄い視聴者数だね。

 同時接続人数も、以前までの配信からは考えられない4万人オーバーという、大手の箱に所属するVtuberのイベント配信のような数値を叩き出していた。


 まあ、あの魔道具の発表からチャンネル登録者数も80万人超えたしね……。

 というか、もうすぐ90届きそう。


 もっとも、そこに今の私が緊張しているかと言えば、そうでもない。


 朝からショッピングにお昼から夕方まで海水浴と、体力をこれでもかというレベルで削る行事を終えての今に至るので、今すぐにでも眠れる程度に疲れているのだ。

 元々今の私が緊張する事はないだろうけど、今はもはやそれどころじゃない。


「いや、すまぬ。ちょいと友人たちと遊んでおってな。夕方まで海水浴に興じておった」


『JKの海水浴……!』

『陽キャやんけ』

『海水浴ってだけで陽キャ扱いなのか』

『もしかして男子もいたり?』


「ぬ、男子? なんでそんな事を聞きたがるんじゃ? 妾が誰とどう遊ぼうが、貴様らには関係あるまいに」


『それはそう』

『ユニコーン涙目』

『これはいたな!?』

『陛下が恋人キャラは解釈違いも甚だしいだろ』


 ユニコーン……あぁ、ガチ恋勢の事だっけ。

 Vtuberとか女性配信者に男の存在があったりしたら、凄まじい勢いで大騒ぎするっていう噂の。


 ユニコーンね……前世の世界でユニコーンって言えば、ドリル状の角を突き出して突進してくる危険生物でしかなかったけどね。

 なんかこっちの世界では妙に神聖な魔物扱いされてるというか、特別な魔物みたいに有名な魔物ではあるけど、向こうの世界じゃ「馬に角が生えて頭悪くなったのがユニコーン」とか言われてたんだよね。

 さすがにそれは言わないでおくけど。


 ともあれ、コメントにもあったけど私にガチ恋はないでしょ。

 そういう系の甘えるような声も出さないし、そもそもそういう類の勘違いをさせるような発言すら一切してないし。

 もっと相手選んだ方がいいよ。


「まあユニコーンなんぞどうでも良いが、実際男はおらんかったぞ。華のJK4人組でキャッキャしておったし」


『てぇてぇ』

『アオハルっすわ』

『その光景を遠くから見ていたいわ』

『変態おって草』


「いや、確かに華のJKが水着で遊ぶ姿を遠くから見ているとか、それは変態って言われてもフォローできぬぞ? ただの不審者としか思えん」


『辛辣だが正論ww』

『そらそうよw』

『違うんだ、芸術的な絵画を観るような、そんな気分で言ってるんだ。決して下心があった訳じゃないんだ』

『めっちゃ早口で言ってそうで笑うわ、そんなん』


「もっとも、貴様らどころか、そもそも誰かに見られる事はないがの。家が所有しておる島にあるプライベートビーチじゃし、他に誰もおらぬからの」


『は????』

『家が所有するぷらいべーとびーち????』

『え、何それ』

『うわぁ、やっぱ陛下、超金持ちのご令嬢じゃん』


 正確にはレイネ、というかレイネの実家である篠宮家の所有だけどね。

 一応配信上では私が所有している、という体裁で発言する方向で話しているんだよ。

 メイドと魔王なのに、メイドの方が圧倒的にお金持ちって違和感酷いから。


「――そもそも、陛下の肌を有象無象の目が届く場所に晒すなど、私が許しません」


『ふぁっ!?』

『いきなり出てきたな、クールメイドさん』

『なんか影が人形になって出てくるとか、やっぱ他のV配信とクオリティ違うわ』

『なんだろう、メイドさんの目がマジっぽい』

『これはてぇ……てぇ……?』


 私の斜め後ろ、足元の影から浮かび上がるように姿を見せたレイネにコメントが再び加速していく。


 他のV配信と違うのは当たり前だと思う。

 だって今の演出じゃなくて自前だもの。

 合成とかCG処理とかでもなんでもないからね。


「レイネ、今さらっと妾が普通のプールとか行くの禁じられた気がするんじゃが?」


「無論でございます」


「初耳なんじゃが??」


「あのような格好を有象無象に見せるぐらいであれば、私がいっそその場にいる者たちの目を潰します。ついでにアレも機能不全程度に潰し――」


「――こらこら、やめい。発言がアウトじゃ」


『ひぇっ』

『ひゅんってなったわ』

『声のトーンがマジなんよ』

『陛下、一般客のいるプールと海には絶対来ないでください』


 いや、普通のプールに行きたいって訳じゃないからいいんだけどさ。

 好き好んで人がいっぱいいる海やプールに行きたい訳でもないし、船で何時間とかかかる訳でもないし、移動するのも手間じゃないから。


 コメントはコメントで盛り上がっていて、私にそういう場所に行かないでってネタでのってくれてる人もいるのだろう。

 でも、実際これ、レイネは本気だよね……。

 魔力がざわざわしてるし、割と殺意乗せてるし。


「失礼しました。それよりも、陛下。そろそろ発表なさってはいかがでしょう?」


「ん? 早すぎんか?」


「本日はお疲れのご様子ですし、早めに切り上げた方が良いと判断いたしました」


『お、なになに?』

『発表って、ついにこの技術を貸与するのが決まったとか?』

『問い合わせたいのに窓口がないって嘆いてる企業もあったなぁ』

『正式な専用HPとか作ってくれてるとか??』


 発表、という単語を口にした途端にとめどなく流れるコメントの数々。

 やっぱりというか、案の定、この魔道具を用いた配信は私が思っている以上に大きな反響を生み出しているらしい。


「ふむ……。まあ、長々と喋って発表を待たせるのも本意ではないとは言え、さすがに短すぎるからの。また溜まっておったバブルでも読んで、30分になったら発表といこうかの」


「かしこまりました」


『疲れてるなら無理しなくてもいいのよ?』

『こんな技術を発表したんだし、配信外でも忙しいだろうな』

『まあ今日は海水浴していたらしいけど』

『たまの休日ぐらい遊ばせてやるべきだろ。まだ学生だぞ、本人曰く』


 何やらコメントが盛り上がってるようだけれど、そちらには触れずにバブル――匿名型のメッセージサービスを起動して、集まっている質問やら何やらをざっと目を通していく。


 うーん、なんかこう、構文みたいなのもなかなかあるね。

 あとは縦読みとか。

 それにたまに混ざってるアンチコメントも。

 レイネが魔力を練り始めてるから、アンチコメントについてはご愁傷様だけど。


「んでは1つめじゃな。『ぶっちゃけ陛下の家ってどれぐらいお金持ちなの?』と。うーむ、これについては妾はよく分からんな。一般的な家庭よりは確かにお金もあるやもしれんが、それは親のお金じゃしの」


『小金持ちってこと?』

『親のお金って言えるあたり偉いと思う。だいたい子供の間って親の力や財力を自分のものと勘違いするし』

『あー、いるね、家が金持ちだからって調子乗ってるヤツ』

『ラノベとかアニメで見るよね、バカ貴族とか』


 だって、お母さんがどれぐらい稼いでいるかなんて私も知らないしね。

 芸能人としてかなり稼いでいるのは事実だろうけれどさ。


 あとは、そうだね。

 ラノベとかアニメを混同されても困るけど、少なからず勘違いする人間っていうのは確かにいるだろうね。


 前世じゃホントにバカ貴族とかもいたし。

 あとほら、トモの時の男の家とか、まさにそのパターンだったし。


「続いてー……む? これはある意味タイムリーというか。ほい、『夏と言えば水着で海水浴とか夏祭りとか、陽キャ系イベントあるけど、陛下はそういう陽キャイベント好き?』とな。さっきのコメントでも似たようなコメントがあった気がするのう」


『陽キャ系イベント……確かにw』

『確かに、陰の者は水着とか買わない』

『そもそもプライベートビーチって時点で陽キャとも違う気がする』

『あー、陽キャというかJKならギャルとか?』

『今の時代にギャルっているの? ちな俺の学生時は大量にいたが』


 さすがに私もギャルらしいギャルって言われてもピンと来ないんだよなぁ。

 今の時代にいるのかどうかって言われると、ちょっと断言できない。

 それっぽいメイクというか、キラキラしたメイクをしている系の子はいるけれど、いかにもギャルって感じでもないし。


「ふむ……。妾はどっちであろうな。そも、陽キャだの陰キャだの、ただ向いている方向性が違うだけであろう」


『方向性?』

『陽キャは俺らとは別の生き物だよ』

『陽キャってだけで目がやられる』

『次元が違うもの』


「いや、陽キャに対する偏見が過ぎるであろうよ。ちなみに、妾は不良と中二病は同じものじゃと思っておる」


『つまり、俺は不良だった……!?』

『まあ、良だったとは思わんがw』

『ある意味中二病も不良ではあるわなw』

『なるほど』


「いや、そうではないんじゃが。妾が言う不良とは、まあ要するにチンピラじゃな。ああいった連中は、周囲の迷惑だのなんだのを考えず、己の成長に合わせて得た万能感に酔い痴れて暴れたがる。要するに、エネルギーを外に向けた訳じゃ。一方、中二病はそうした万能感を内へと向けて、己の特別感を演出したがるという訳じゃろ。どちらも誇示する方向を極端にしただけであって、原因というか、本質は同じ。十代中盤、つまりは成長期に合わせてエネルギーを持て余した結果、という訳じゃ」


『あー、言われてみればそれもそうかも』

『外に向けたか内に向けたかって事か』

『お互い大人になって黒歴史になるのも一緒だな』

『それはそうだがw』


 どちらも黒歴史……うん、それはそうかもしれないね。

 いや、まあ中二病は卒業するのに、不良側はいい歳してまでやってるような人もいるけど。

 分別つく年齢になってまでやってるのは、こう、なかなかに痛々しいものがあるよね。


「そうした不良程ではないが、外に向けるエネルギーを交流や行動に移すようになったのが、いわゆる陽キャじゃな。〝どうにかなる〟という万能感から物事を浅く考え、シンプルに行動に繋げてしまうタイプの者じゃ。一方で陰キャとは、多少なりとも痛みを知る者がなりやすい。人付き合いで傷ついた経験があったり、そういった臆病な方向に考えやすくなっていく。こうなったらどうしよう、こう思われたらどうしよう、とな」


『あるある過ぎて笑う』

『考えちゃうよな、普通に』

『嫌われたりして居心地悪くなってもイヤだし』

『つまり陽キャは浅慮、陰キャの方が思慮深いと』


「言い方一つであろうよ。ここからは極端な例を挙げるが、確かに陽キャは浅慮とも言えるやもしれぬが、陽キャは度胸がある、怖いものがないとも言える。故にコミュ強と呼ばれたりもする訳じゃな。しかし裏を返せば視野が狭いとも言える。あるいは、自分にしか興味がないとも言えるかもしれん。周りの影響よりも自分の感情、行動だけを最優先にしておるようなものじゃからの」


『解析が深くてビビるんだが』

『なんか陽キャって存在が理解できたかもしれん』

『確かに、言われてみるとそうかも』

『陛下、本当にJKなのか?? 俺より大人なんだが??』


「一方で陰キャは、周囲に目を向け過ぎて己を蔑ろにする。その方が楽じゃからの。わざわざぶつかり合うよりも、一歩引いてしまった方がエネルギーを使わずに済む、と考えるようになり、敢えて相手の出方を注視するようになる。それは一見すればエネルギーを使っていないように見えるが、神経を尖らせているとも言えるかの。結果、凄まじく疲労してしまうのであろう。故に他人と関わり合う事に忌避感を抱くようになり、個の気楽さを知り、他人に興味を抱かなくなり、人付き合いが面倒で排他的な性質となっていく。それ故に、対人で何をどうすれば良いのかも分からなくなってコミュ障になっていく、という訳じゃ」


『ぐうの音も出ない正論で草』

『我慢した方が楽なのは間違いない』

『他人と会うの疲れるんだよなw』

『一番疲れるのが他人と一緒に過ごすことだから』


 まあ、記憶を取り戻す前の私は内側にばかり目を向けていたから、紛れもなく陰キャだったけどね。


 目立ちたくない、触れて欲しくない、関わり合いになってほしくない。

 そういう気持ちを抱いて、それらがマイナスな感情と知っているからこそ、段々と自分で自分を嫌いになっていって。

 そんな自分を曝け出す事になるのがイヤで、他人とのコミュニケーションが怖くなっていくという悪循環が確かに私にもあった。


 まあ、今の私はそういう気持ちはさらさらないけどね。


「ま、それはともかく、妾は陽キャ系だの陰キャ系だので区別しておらん。が、プライベートビーチでもなければ参加もせんかったであろうな。という訳で、陽キャ系イベントには不参加、ただしアオハルはしておる、という事じゃな!」


『それな』

『そうきたかw』

『一番バランスいいw』

『俺らはアオハルどころか灰春だしなw』






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