表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
科学×魔法で世界最強! 〜高校生科学者は異世界魔法を科学で進化させるようです〜  作者: 難波一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/70

第24話 「並列処理《マルチタスク》」

王宮の訓練場。


ここ最近、研究室ではなく、この場所が召喚勇者・九条迅くじょうじんの“研究フィールド”になりつつあった。


それもそのはず——彼は今、単なる研究ではなく、実践的な魔力運用の最適化に取り組んでいた。


今日も訓練場の一角で、九条迅は真剣な表情で、何やら考え込んでいる。しかし、その両手は(せわ)しなく動き続けている。


そのすぐそばでは、リディアとロドリゲスが興味深そうに彼を見つめていた。



「……えーっと、今の状況を整理すると、」



ロドリゲスが指を折りながら言う。



「勇者殿は、魔力循環トレーニングをしながら、同時に魔法理論の研究をしながら、同時に新たな魔力制御の試行錯誤をしながら、さらに新しい魔法の詠唱短縮の実験までしておる、ということじゃな?」


「……ええ、つまりそういうことね。」


リディアが呆れたようにため息をつく。



目の前の迅は、呼吸を整えながら魔力を体内で巡らせつつ、片手でメモを取りながら、もう片手で呪文の詠唱パターンを素早く指でなぞっている。


その間、目は魔道書を追い、口元は小さく数式を呟きながら思考を巡らせていた。


まるで人間のやることとは思えない。

むしろこれは「一つの肉体に集約された複数の人間が、同時に別々の作業をこなしている」 そんな異様な光景だった。



「……ねぇ、迅?」


リディアが恐る恐る声をかける。


「ん? なんだ?」


迅はメモを書きながら片手間に答える。


「一つ聞いてもいいかしら?」


「おう、何でも聞けよ。」


「今、何してるの?」


「んー、そうだな……」


迅は一度メモから顔を上げると、淡々と答えた。


「まず、魔力循環トレーニングを継続しながら、魔法を詠唱する際の魔力の流れを分析してるだろ?」


「う、うん……」


「で、さっきのデータを元に、より効率的な詠唱短縮のパターンをいくつか考案して、それを魔法の発動形式の変化に応用できるか試してるんだよ。」


「……なるほど? いや、やっぱりなるほどじゃないわ!!」


リディアが思わず声を荒げる。


「普通そんなに色々なこと、同時にできるわけないでしょう!? それも全部、頭をフル回転させて処理しないといけない作業よ!?」


「うーん……?」


迅は不思議そうに首を傾げた。


「別に、誰だって飯食いながら本読んだりするだろ。それと同じだ。」


「……いや、絶対違う。」


リディアの表情が引きつる。


「そうじゃなくて! あなたは今、“魔力制御の訓練”と“魔法理論の解析”と“新技術の開発”を同時にやってるのよ!? そんなの普通、並列処理できるわけ——」


「できるけど?」


「……」


「……」


リディアとロドリゲスが無言で顔を見合わせた。

この男は、本気で自分の異常性に気付いていないらしい。


「……お主、もしかして今までそうやって生きてきたのか?」


ロドリゲスが信じられないような顔で尋ねる。


「ん? 当たり前だろ。だって、1日はたった24時間しかねぇんだぜ?」


迅は当然のように言ってのける。


「俺はガキの頃からこんな感じだったぞ? 飯食いながら読書するし、筋トレしながら論文読む。風呂入りながら数学の問題解くし、授業聞きながら他の科目の予習するしな。」


「……」


「……」


リディアとロドリゲスは、しばらくの間、何か言おうとしたが——言葉を失った。


(この男、真性の天才……いや、もはや異常だ……)


リディアが思わずため息をつく。


「ふぅ……まあ、いいわ。とりあえず、そんな怪物じみた才能があるなら、研究の効率は確かに上がるでしょうけど……」


「それだけじゃないぜ?」


迅がニヤリと笑う。


「この並列処理の力があれば、魔力操作の最適化もできるはずだ。」


「……つまり?」


「俺は今、魔力の流れを“二重”に操作してる。」


「なっ……!?」


リディアの目が大きく見開かれる。


「ほら、普通の魔法士ってさ、魔法を使う時は“一つの魔力の流れ”に集中するだろ?」


「……ええ、そうね。魔法の発動は、意識の焦点を一つに絞ることで安定するのだから。」


「でも俺は違う。」


迅が指を立てて、スッと円を描くように動かす。


「俺は、一方で魔力循環トレーニングを維持しながら、もう一方で詠唱のための魔力操作を並行して行うことができる。」


「……嘘でしょ。」


リディアが信じられないという顔をする。


「それ、普通なら“魔力の暴走”を引き起こすわ! 魔力を二重に動かそうとしたら、魔力の流れが暴走して制御不能にな——」


「まあ、普通はそうだろうな。」


迅はあっさりと頷く。


「でも、魔力の流れを制御する“意識”の方を最適化すれば、並列処理も可能になるんだよ。」


「……」


「要するに、俺は“右手で絵を描きながら、左手で違う文字を書く”みたいなことをしてるわけだ。」


「……そんなこと、人間にできるの?」


「できるけど?」


再び、絶句するリディアとロドリゲス。


(やっぱり、こいつは普通じゃない……)


リディアは改めて、目の前の男をまじまじと見つめた。


最初はただの“異世界人”かと思っていたが、この男は違う次元の生き物なのではないかとすら思えてきた。


そして——

この常識を破壊する男が、自分の“知的好奇心”をこれほどまでに刺激してくることに、リディアはまた気づいてしまった。


「……ふふっ。」


「ん? 何笑ってんだ?」


「いいえ。やっぱり、あなたといると飽きないなって思っただけよ。」


「そりゃあ良かった。」


迅がニヤリと笑う。


だが、その裏でリディアは思っていた。


(……なんだろう、この感覚。)


(この人と一緒にいると、私の世界がどんどん広がっていく……)


その胸の高鳴りの正体に、彼女はまだ気付いていなかった——。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ