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手を差し伸べるひと、離れていくひと Part-1

「スワローちゃん、今日は1人かい? 大丈夫?」

「ええ」と私は頷いた。「大丈夫よ。コセアおばさん」


 私はぎゅっと籠を持つ手に力を入れた。じりじりと日が差す夏。屋内市場とは言え、こんな日に黒いワンピースを着ているから気になるのかも。うーん、とエプロンの裾を摘んだ。


「今日は本を買いに来たの」

「おや、じゃあうちのお客じゃないのかい、今日は?」とコセアおばさんはガハハと笑った。「本屋なら向かい側にあるよ」

「ありがとう、コセアおばさん。私、本屋に行ったことがなかったから」

「おや、賢そうな顔をしているのに? わかった。プレゼントだね?」

「ええ、いつもは贈られることが多かったの。それじゃあ、また」と私は手を振った。

「あ、待って。スワローちゃん、いつも一緒に来ているおばあさんは……」


 コセアおばさんの言葉に私は石畳に視線を落とした。


「亡くなったの」

「そうかい……。寂しくなるねぇ」

「それじゃ、また今度」とワンピースの裾を摘んだ。


 春から夏に移ろうという時だからかしら。屋内の市場にはそんなに人がいない。人とぶつかりそうになるのは外。内の方には……、庶民はいなくて、大店の商人の娘さん達がチラホラといるくらい。小説を片手にフラフラとしている。本屋はいくつかある。クン、と顔を動かした。私と同じくらいの女の子が本屋から出てきた。薔薇の香りのする本屋だ。そこに入るとモンパル夫人が書いたという小説が平積みされていた。ゴーディラックから輸入された小説もある。私は肩を竦め、表紙に百合が描かれた小説を取った。お祖母様の言う「ゴーディラックの低俗な本」なんぞ買わないわ。会計を済ませると、背後から誰かが肩に手を掛けた。私はくると振り返った。


「あ、ピートルにいさま」と私は従兄に笑いかけた。「もう帰る時間?」

「ああ、早く帰るよ。また、風邪を引いたら困るだろう」

「この間治ったばかりだから、すぐには引かないわよ」と私は肩を竦めた。


 でもピートルにいさまに従い帰ることにした。馬車に乗り、家に着いた。馬車から降りると私は馬車を見た。ピートルにいさまは馬車から軽く身を乗り出した。


「それでは、ジョセフィン。僕は帰るから。もうしばらくすればローズマリーが来るからね」

「護衛役、ありがとう。ピートルにいさま」と私はおどけてお辞儀した。「気をつけてお帰りくださいな!」


 ピートルにいさまは笑った。それから悲しげな笑顔で私の頭を撫でた。


「また明日来るから」とピートルにいさまは手を振った。


 馬車は去っていった。玄関で待機しているマーラを見た。私は帽子を取り、家の中に入った。2階に行き、何気なくお祖母様の部屋のドアを開けた。シンとした空気が心を満たした。ああ。家具に布が掛けられている。暖かな緑の壁紙。こっくりとした時の刻まれたベッド。壁に飾られたイエス様の絵。空っぽの部屋、空の椅子を見る時、祖母は亡くなったのだと思い知らされる。暖炉の上の花瓶に目を向けた時、持っていた籠が手から落ちた。お祖母様が最後に活けた花はもう枯れていた。


「ふぐ、えぐ、ひぇっく……」


 私は布を取り払い、椅子に顔を埋めた。

 なんで、もう? お祖母様、なんで?

 そんな言葉ばかりが浮かぶ。なんで亡くなったの? 知ってる。お祖母様だってお年だった。お祖母様には30過ぎたピートルという孫もいるお年なのだ。おかしいことなんて1つもない。椅子にしとしとと涙が染み込んでいく。


 コンコンコン。

 

 ノックの音に私は顔を上げた。


「お嬢様、モンテルス辺境伯のご子息様がいらしゃっています」とドア越しにマーラの声がした。

「イーリアス様が?」


 私はゴシゴシと目を拭った。


「お会いするわ。イーリアス様は客室にお通しして」と私はドアを開けた。「カタリナを呼んで。着替えを手伝ってもらいたいの」

「お着替えの必要はないかと」とマーラが引き攣った笑みを浮かべた。

「あ、そっか」


 そもそも喪服だったね。私はエプロンだけ取った。喪中だから着飾る手間だけは省ける。


「ねえ、マーラ。カタリナを呼んできて」


 お祖母様の部屋から出て、自分の部屋に入った。ドレッサーの前に立ち、髪からリボンを取った。ゴシゴシとお下げを解した。カタリナに頼んで、髪を整えてもらった。侯爵令嬢らしく髪をふんわりと下ろして、黒いリボンをつけた髪型だ。

 部屋を出た。ホールを見下ろし、客室のある方を見た。手すりを撫でながら階段を降りた。客室に入った。


「こんにちは。イーリアス様」

「今日は突然やってきてしまい申し訳ございません」とイーリアス様は立ち上がりお辞儀をした。


 お手本みたいなお辞儀。

 私もお辞儀を返した。しんとしている。これが喪の空気なんだ。重苦しいだろうなぁ、イーリアス様も。

 イーリアス様は突然、私に近づいた。


「ジョセフィン嬢、少し庭園でお話しませんか?」

「ええ、イーリアス様。私も屋内から出たいと思っていたところでしたの」


 イーリアス様は優しく微笑み掛けてくださった。彼は私に手を伸ばした。私は首を傾げながら、彼の手を取った。イーリアス様は私の手をご自分の肘に掛けた。ああ、エスコートか!


「大人の女性みたい」と私は小さく呟いた。

「2年半経てばあなたも大人ですよ」とイーリアス様は歩き始めた。


 2年半で私も大人になるの? ぞっとした。伺うようにイーリアス様を見た。イーリアス様は立派な大人だわ。だけど、私はまだ子どもみたいな気分よ。現に私は12歳だもの。そもそも手袋を部屋に忘れてきたもん。

 庭園に出ると花の香りが、眩い太陽が私の世界を満たした。石畳の上を歩きながら私はマーガレットに手を伸ばした。マーガレットがたくさん咲いている。マーガレットに、ポピーにちょんちょんと触れながら歩く。


「世界って綺麗ですね。イーリアス様」

「そうですね。時には悲しさも理不尽さもありますが……」


 馬車が止まる音がした。私は玄関の方向を見た。

 

「今度は一体どなたかしら? お客様は基本的に本邸へいらっしゃるのに」


 イーリアス様は気まずそうに目を動かした。私はあ、と呟いた。イーリアスの肘に掛かる、私の手に力が入った。


「そう言えばイーリアス様はどうしてわざわざ別邸までいらしてくださったのですか?」

「喪に服す方を訪ねるのは古今東西変わらぬ礼儀ですよ、ラングレッド嬢。もちろん、本邸には伺いましたがあなたがいらっしゃらなかったので」


 え、と私はイーリアス様を見上げた。イーリアス様は眉尻を少し下げて微笑んでいた。


「あなたがおひとりだと思ったからです」


 私は目を見開いた。心にじわと何か温かいものが広がった。

 

 イーリアス様は慌てたように「お祖母様を亡くされたばかりのあなたがおひとりなのは寂しいだろうと考えただけで、不純な動機などはございません。ご安心ください」と丁寧に付け足した。

「知ってます」と私は笑ってしまった。


 優しい人だ。本当に。

 笑っているうちに涙が出た。イーリアス様は私の目を優しく拭ってくださった。

 

「それはそうと、あなたのお祖母様が天に帰られた後、なぜ、あなたは1人別邸でお過ごしなのですか?」


 私はイーリアス様のエスコートからそっと離れた。屈んで白い薔薇を摘んだ。トゲが指に刺さった。傷はできなかった。


「ヴィアの両親が私を引き取る、と葬式の後から言い出していまして……。話し合いに決着がつくまで伯父様が本邸の方に私の部屋を準備できないって仰っていて」

「それはそれは……。落ち着く間もありませんね」

「お父様とお母様はどうして急に私を育てたくなったのかしら?」


 イーリアス様が口を開きかけた時、ローズマリーが視界の端に飛び込んできた。


「スワロー!」とローズマリーが走ってきた。


 腕を広げたがローズマリーはイーリアスに気づき足を止めた。ローズマリーはサッとお辞儀をした。


「こんにちは。ジョセフィンの従妹のローズマリー・ド・ラングレッドです」

 イーリアス様は「こんにちは。モンテルス辺境伯の長男イーリアスと申します。あなた達のお祖母様のお葬式でお目にかかりましたね」と腰を曲げた。

 ローズマリーは「逢引中だった? スワロー」とくるっと私を見た。


 私がイーリアス様を見ると、ちょうど彼も私を見た。目が合った。

 

 「違います!」と私たちの声が1つになった。


 ローズマリーがケタケタと笑い転げた。イーリアス様の眉間に少しだけ皺が寄っている。なんだかおかしくって私も笑ってしまった。


 3人でお茶した後、イーリアス様は帰っていかれた。私とローズマリーは腕を組んで屋敷に戻った。お祖母様の部屋の前でローズマリーが怯むように足が止まった。お祖母様の部屋の中から人の気配もないのだ。1週間経った今も慣れず違和感を抱く時がある。私の部屋に入るとローズマリーはソファに飛び込んだ。


「そうだ、スワロー。お父様から手紙を預かったわ」

「伯父様から? ありがとう、ローズマリー」


 私は薔薇をテーブルに置き、手紙にサッと目を通した。手紙をテーブルに置き私は窓から軒下を見た。私の窓のすぐ上にツバメの巣があるから。ツバメはちょうど不在だった。雛がぴいぴいと鳴いている。

 私はくるりと窓から離れ自分の部屋を見渡した。寒くないように、とお祖母様が設えてくれた部屋だった。部屋中を満たすのは淡いピンク。ベッドにはふわふわのウサギや熊のぬいぐるみ。クッションの置かれた椅子が3脚。暖炉の上にあるイエス様の話を聞くマリアの絵を見つめた。この部屋とは、私が今までの人生を過ごしてきたこのお屋敷ともお別れだ。

 テーブルの上の薔薇を取り、ドアノブに手を掛けた。小説を読んでいたローズマリーが動いた。


「スワロー! どこに行くの? 1人にしないでよ!」

「ちょっとお祖母様のお部屋にこの薔薇を活けに行くの。すぐに戻るわ」と私は部屋を出た。


 お祖母様の部屋に入ると私は息を吸った。もうお祖母様の匂いは残っていない。暖炉の上の花瓶に軽く息を吹きかけ埃を払った。枯れた花は私の胸ポケットに仕舞い、花瓶には白い薔薇を挿した。

 壁に飾られた絵を一瞥し、私は部屋を出ようとドアの前に立った。けれど背中に燦々と日の光が当たった。私は振り返り、ワンピースの裾を摘み軽く腰を屈め、片足を引いた。顔を上げた。ほんの一週間前までお祖母様が寝起きしていた部屋だった。微笑んで見せてドアノブを捻った。駆けて部屋から出た。頬から涙が飛び出していった。バタンとドアを閉じた。


「ローズマリー! 来週こそピクニックに行かない!?」


 

 1ヶ月後、ヴィアの家から迎えの馬車が来た。馬車に乗り、20分も経つと茶色の木造の建物ばかりだった街から、白塗りの庭園を中心とした街に入った。窓に掛かるカーテンの隙間からお辞儀する男性が見えた。パッとカーテンを捲った。綺麗な青いジャケットを着た人だった。みると彼以外にも数人お辞儀する男女がいた。この馬車に向かってお辞儀をしている。私に気づくと「あれはどなた?」と囁き合う声が聞こえた。

 身を乗り出せば馬車の行く先には王宮があった。新聞や号外で見た王宮があった。王宮を平民街から守るように貴族の館が立ち並んでいる。

 やがて大きな館の前で馬車が停まった。王宮の向かいにある、2番目に大きな白い壁のお屋敷。玄関で執事らしき人が待っていた。ドキドキしながら私は馬車の扉を開け、ぴょんと飛び降りた。執事らしき方が汚いものを見た時のように顔を顰めた。


 私は首を傾げながら「はじめまして。ジョセフィンです」と軽く膝を曲げた。

「お初にお目にかかります。私はヴィア公爵家の執事であるアハズエイヤ・ド・ホッヒヴィンターと申します。それから、家臣にお辞儀などなさらぬようお気をつけください」とひんやりと挨拶と注意をされた。「ご案内しましょう、お嬢様」


 夏だからちょうどいい声ね。私の荷物を従者の方が運んでいる。私はホッセヴィンターさんに着いてお屋敷の敷居を跨いだ。コツンと大理石の音が響いた。ホッセヴィンターさんがチラと振り返った。ホッセヴィンターさんは音も立ててないのに。コツとかあるのかな?

 階段を上りながら私は両手をこっそりと後ろに回した。ポケットに突っ込んでいた手袋を出して、サッとはめた。視線を感じて階下を振り返るとメイドたちが台所から、部屋からこちらを見ていた。長い廊下を歩いたあと、ホッセヴィンターさんはある部屋のドアをノックした。


「ホッセヴィンターです。旦那様、ジョセフィンお嬢様がいらっしゃいました」

「入れ」と簡潔な言葉がドアの向こうから返ってきた。


 ホッセヴィンターさんはドアを開いた。部屋――書斎――には50くらいの男性とお母様がいた。ホッセヴィンターさんは私を軽く前に押し出して、退室してしまった。男性の方は重苦しい空気を放っていて私は思わずお辞儀した。実の親だから再会の挨拶? お父様と会うのは生まれた時以来だから……。ズンと肩に掛かる空気が重くなる。


「はじめまして! ジョセフィン・デボラ・アメデアと申します!」とつい声が大きくなってしまった声で最善を尽くした。

「私はお前の父であるケイレブだ」とホッセヴィンターさんよりひんやりする声だ。「会うのはお前の洗礼式以来であるな、ジョセフィン」


 そうなんだ。そんな昔のことを覚えていてくれる人なんだ。持つ雰囲気が重い人だけど、素敵なお父様なのかも。

 私は頭を上げて微笑んだ。お母様が花を見た女の子のような笑みを浮かべた。なぜか赤い唇が目に残った。


「ジョセフィン、お久しぶりね。3年前に会ったことを覚えていますか?」

「はい、覚えています」と私は笑った。「お久しぶりです、お母様」


 お父様はなぜかフンと鼻で笑った。私は不思議に思いながらお父様を見つめた。お母様は私の腰に腕を回して抱き寄せてくれた。私の背はお母様の顎を少し超えたあたりだった。お母様はお祖母様より少し身長が高いのね。1人頷いているとお母様は不思議そうに眉根に皺を寄せた。お父様は机から書類を取った。何の書類かしらん?


「エリザベス」とお父様はお母様に目を向けた。「ジョセフィンを部屋に連れて行け」

「かしこまりました。失礼いたします」とお母様は優雅にお辞儀をした。

「ジョセフィン。公爵の娘として恥ずかしくない言動を心がけるようにしなさい」とお父様は書類に目を向けた。


 私は肩を竦め、お母様に着いてお父様の書斎を出た。お母様は踊るように階段を上った。私は少し駆け足だった。6つの部屋の前を通り、7つ目の部屋に入った。淡いピンクが目に入った瞬間、私は足を止めた。お母様は私の横を通り部屋に入った。

 淡いピンクの部屋。壁紙のボーダーにはお御伽話の場面が描かれているように見える。ベッドにはクマのぬいぐるみ。暖炉の上には……うん?

 私は首を傾げた。ドアから離れ暖炉に近づいた。

 暖炉の上には私が赤ちゃんだったころの肖像画があった。座れるようになって、少し大きめのボールに手を掛けている絵だった。


「どうかしら? ジョセフィン」と少しそわそわしているようにお母様が私の肩に手を掛けた。

「とても、とても可愛いです。お祖母様の家にあった私の部屋にも似ていて暮らしやすそうです」

「あなたの部屋については私がお兄様に聞いたものよ。突然住む部屋が変わったら嫌でしょう? それに私はあなたの好みも分からないのよ」

「ベネディクト伯父様に聞いたんですか?」

「ええ、もちろん」


 私は目を見開いた。そして、お母様をぎゅっと抱きしめた。ふんわりと薔薇の香りがした。お母様が優しい手つきで私の髪を撫でた。


「あなたの髪も真っ直ぐなのね」


 お母様の言葉に少し見上げた。お母様の髪は結い上げられていたから金髪だということ以外なにも分からなかった。

 お母様は突然、体を離した。


「そうだわ。ジョセフィン、クローゼットを見てみなさい。義姉様に聞いたからサイズはあっているはずよ」


 私は頷いて、クローゼットを開けてみた。思わず口が開いてしまった。


「白い……」

「ええ、白よ。素敵でしょう? あなたはせっかく綺麗な顔をしているのに、喪中だからと黒ばかり着ていては……たった半年のこととは言え勿体ないわ」


 言葉が出なかった。喪服で黒以外に白や灰を着る人がいることは知っていた。

 私はゆっくりと振り返った。お母様は楽しそうな顔をしていた。けれど、少しずつ失望したように顔色が沈んでいった。


「喜んでくれると思ったのに……。どうして?」

「私、明るい色を着たくないの」

「どうして? 確かにお母様が亡くなってからひと月だけど、あなたはもう少し明るい色を着るべきよ」


 私はぎゅっと手を握って俯いた。腹の底で何かがふつふつとしている。お祖母様なら……。お母様は私の両肩に白い手を置いた。


「確かに黒も似合っているけれど……、それは少し大人びて見えるわ。可愛くいられるのは子どもの頃だけなのよ、ジョセフィン」


 私はお母様の手を軽く振り払った。窓に近づいて外を見た。お祖母ならお母様の言葉になんて返すの?


「ジョセフィン」


 お母様の言葉はまだ続きそうだった。

 

 私はぎゅっと目を瞑り「もうやめてよ!」と叫んだ。「半年くらい黒を着ていたっていいでしょ!?」

「ジョセフィン」

「もうやめて! 黙って」


 ドンドン、ドン。

 足を踏み鳴らした。

 熱くなった涙が溢れた。


 お母様は「とんだ、癇癪持ちなのね。あなたは」と嫌そうに眉間に皺を寄せた。


 そのままお母様はクルリと部屋を出ていってしまった。私はへなへなと崩れ落ちた。クローゼットの中に掛かる白い華やかなワンピース。見たくない。立ち上がり、クローゼットを閉じた。もう一度部屋をぐるりと見渡した。ベッドに倒れ込んだ。うぅ。

 ふと顔を上げると目の前に熊のぬいぐるみがあった。抱きしめて眠った。



 コンコンコン。


 うん?

 響くノックの音に顔を上げた。気がつくと部屋が暗くなっていた。部屋の隅でろうそくが点いていた。誰かが毛布を掛けてくれていた。起き上がって私はドアを開けた。

 ドアの向こうには眉を釣り上げてサンドイッチを持った栗色の髪の若い女性と、ワクワクしているように笑う鳶色の髪の少女がいた。


「相手を確認もせずにドアを開けてはだめじゃないの、ジョセフィン」と栗色の女性。

「だれ?」と私は顔を引き攣らせた。

「私はドーリーマ-ルビマ。あなたの姉の1人」と鳶色の髪の少女。「13歳。ねえ、あなた……」

「私はミリアマネ。私もあなたの姉で15歳」とサンドイッチを私に渡してくれた。「あなた、寝ていて晩御飯を食べていないでしょ、あなた。12歳でご飯を抜くのは成長に差し支えるから持ってきたの」

「ありがとう。あの、ドーリーマ姉さまの名前って本名?」と私は首を傾げた。

「本名よ。悲しいことに」とドーリーマ姉さまは肩を竦めた。「それより廊下での立ち話もアレだから部屋に入れてくれる?」

「ええ」


 私は姉様を2人部屋に招き入れた。ミリアマネ姉様はテーブルについた。


「ジョセフィン。あなた、お母様と喧嘩したの?」

「喧嘩?」


 ミリアマネ姉様の質問に私はカァと顔が熱くなった。頭に血が上る。ぎゅっと顔を顰め、抑えた。神様がカインに言っていたことを思い出すんだ、ジョセフィン。

 私は深く息を吐いた。


 「喧嘩なんてしてないわ、ミリアマネ姉様。喪服ついての意見が違っただけよ」


 私の言葉にミリアマネ姉様は訝しむように片眉を上げた。ドーリーマ姉様は椅子に掛けて私の部屋を観察している。けれど顔を上げた。


「確かにジョセフィンだけ黒い喪服を着ているものね。お母様が嫌がりそう」

「どうしてお祖母様が亡くなったのに着飾ることができるのかしら?」

「綺麗な服を着れば気持ちが明るくなるからだと思うわ」とドーリーマ姉様は頬杖をついた。


 うーん、と私はテーブルの方を見た。サンドイッチが乗せられている。私はベッドの下からスツールを蹴り出した。少し低いけどスツールに掛けた。


「私には分からないわ。どうして綺麗な服を着ると気持ちが明るくなる人もいるのか分からないの」


 ドーリーマ姉様が何か言おうとしたように口を開きかけた。


 ギーン、ガーン、ガーン。

 壁時計が鳴った。


「あら、こんな時間なのね」とミリアマネ姉様は立った。「ドーリーマ、お部屋へ戻りましょう」

「そんな〜」とドーリーマ姉様は嫌そうに立ち上がった。「おやすみなさい、ジョセフィン。明日、私の部屋でお茶会をしましょう。そうね、10時にどうかしら?」

「ええ! ぜひ。おやすみなさい」と私は姉様たちに笑いかけた。

「おやすみなさい。ジョセフィン」とミリアマネ姉様はドーリーマ姉様を連れ部屋から出た。


 私はハァと息を吐いた。カタリナが入ってきた。カタリナはカーテンを閉めた。そしてお風呂に入れてくれた。引っ越してきた後のお風呂は最高だった。

 ラングレッドの家から持ってきた黒いネグリジェを着た。うん、やっぱり黒の方がしっくりと来る。お祖母様が亡くなってからまだひと月なのよ。

 ベッドに腰掛け聖書を読んだ。今夜は詩篇だった。「ヒソプの枝で拭ってください」「雪よりも白くなるように」か。私はクローゼットに目を向けた。

 そして布団を被り眠りについた。布団からは薔薇の香りがした。

書きたいとこまで書けなかった!!!

次回で書きたいとこまで書きたい!

そしたら求婚エピソードを書ける!

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