先輩としゃっくり
「お前マジ許さんからな……」
先輩は顔真っ赤で涙目で息も絶え絶え瀕死の状態。
「すいません。なんか指が勝手に動いちゃったもんで……」
あたしも似たようなもんだけど、まだダメージは少ない。
「呪ってやるからな……覚悟しとけよ……」
と血走った目で祟られた。
――――
さて、今日のご飯は何かな~。
うん。この匂いは期待できる予感……。
野性的なかぐわしい香りに鼻をひくつかせながら意気揚々階段を下りてみると、
「うぇーい。お肉~♪♪♪」
今日のご飯はステーキ。しかもでっかい。もう見ただけでよだれが垂れちゃう。
なんかお母さんがスーパーの福引きで当てたとのこと。ツイてるぅ。
こんなの我慢できない。席に着くなり、
「いただきます」と、でっかいお肉をでっかく切って口に頬張った。
うひ~~~~噛むたびに香ばしい脂の汁が溢れてきちゃってもうたまらん!
肉を貪っては米でリセットし、もぐもぐばくばく、ひたすら飯をかっ食らった。
そうしてぺろりとお肉を平らげ、お代わりのご飯も最後の一口を飲み込むと、
「ごちそうさま~。」
ふ~たらふく食ったぞい。満腹満腹。満足満足。
食洗器に食器を入れると、また階段を上がっていったんだけど、これはさすがに食べすぎたかもしれない。体が上下に揺れるたびに胃の中のものが逆流してきそう。
でもせっかくのお肉を戻すわけにはいかない。
うっぷうっぷと手すりにつかまってなんとかよじ登り、ベッドの上に足を投げ出して座ると、スマホをいじりながらお腹が落ち着くのを待った。
――――
さて~、そろそろお風呂入るかぁ。
小一時間ほどだらだらしていたらお腹の圧迫感や気持ち悪さもだいぶ緩和されてきた。
ふい~。極楽極楽。
柑橘系の香りにしたいい感じのお湯に浸かって体の疲れを癒す。
って言ってもなんというか、今日はグミ食べながらスマホいじって、太いお肉食べてスマホいじって、疲れるようなことなんもしてないっていうか、怠惰の極みだったんだけど。
まあでも体育のバレーボールでバスケ部ちゃんとサッカー部ちゃんと一緒に相手のチームをボコボコにしてやったっていうのがあったから、一応は体を動かしたかな。
まあ今日はだらだらしてたらいろんなものに勝っちゃうっていう幸せな日だったよ。
お肉も最高においしかったし……ってまだ込み上げてくるな……。
頭をわしゃわしゃ洗ってるときに下向いたらそんな感じになったので、体をなるべく前かがみにならないように気を付けた。
ふい~、いいお風呂だった。
火照った体を冷ますため、いつもお風呂の後は牛乳。水分補給大事。
ということでコップの牛乳をんごんご一気飲みしたんだけど……。
「ひっく」
なぜだか今日はしゃっくりが出てきてしまった。
冷たいものを一気に飲むとしゃっくりが出ることがあったし、今日もそれだな。
まあそのうち止まるだろうと、またひっくひっく言いながらベッドでスマホいじってたんだけど、それが全然止まる様子がない。
しゃっくり百回で死ぬとか言う都市伝説があるけど、それが本当だったらもう三回は死んでるんじゃないかなってぐらい時間経ってんのにまだ止まんない。
ちょっと不安になってきたけど、時間も遅いしもう寝なきゃだしということで、歯磨きをすることに。
洗面所で壁にもたれながら歯磨きを始めたんだけど、しゃこしゃこ歯ブラシの音の間に、
「ひっく」
が周期的に割って入ってくる。
――しかし――
なんなんだろうなあ、全然止まらんなあと思いながら、奥歯を磨くためにちょっと歯ブラシを奥に突っ込んだら、
「おえ~~~」
さらにその最中、
「ひっく」
瞬間、歯ブラシを口にくわえたまま前にブっ倒れてしまった。
息が!!!!!!!!!!!!!!!!
横隔膜がつった。
息を吸おうとしても胸も喉も動かない。呼吸という生命維持のための最も重要な、そして最も簡単な運動を行うことが不可能になった。
しゃっくりとおえーが重なるとそうなるらしい。今そうなってる。
歯磨きのおえーはお腹いっぱいの時、ごくまれに出ることがあるんだけど、まさかこのタイミングとは。
「はひっはひっ」と逆にわずかな息が漏れていくだけで、どうしても空気を取り込むことができない。陸で溺れているような状態。
だから助けを呼ぼうにも声も出ないし、何もできずにいる間、窒息に苦しむだけで、血中の酸素が失われていく。
段々視界が遠く曖昧になってゆくなか、最後浮かんできたのは、あくびで死んだ先輩の悪霊のような顔だった。
で、なんかあたし死亡。南無。
まさかしゃっくりで死んじゃうとはね。




