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4月12日(3) 天使再びの巻

「げ、『一匹狼』」


 美鈴と一緒にフードコードでラーメンを食べていたら、クラスメイトである『一匹狼』と遭遇してしまった。


「人の顔を見て、"げ"はないでしょ、"げ"は」


 そう言いながら、彼女はハンバーガーが乗ったお盆を俺達の隣の席に置く。


「そりゃ、顔を合わせる度に喧嘩売られてたら、げの1つや2つ出てくるわ。むしろ、げが1つで済んだ事にお礼を言って欲しい。げが3つ並んでたら墓場で運動会する事になってたぞ、俺ら」


「そんなんで妖怪にならないっつうの。で、あんたこんな所で何して……」


 一匹狼はラーメンを食べている美鈴の姿を視野に入れると、ジト目で俺を睨みつける。


「なるほど、児ポか」


 ポケットからスマホを取り出す。


「待て待て待て、結論を下すのはまだ早い。俺は金髪爆乳外国人が好きなんだ。お前らみたいななだらかな丘を性的な目で見た事ない」


「なるほど、喧嘩売ってんのね。買ってやるわ。だから、さっさと表出ろ」


 一匹狼──発育レベル中学生レベル──は昼飯を食べる事を忘れ、今にも殴りかかりそうな勢いで俺を睨みつける。

 俺はラーメンの麺をズルズル啜りながら、彼女の挑発に乗る。


「ズル〜ズル〜ズルルルル〜ズズルルルルル〜 (良いだろう、今日は本気でやってやんよ)」


「ごめん、何言ってんのかさっぱり分からない」 


「ズルルルル〜ズルルルル〜ズルルルル? (お兄ちゃん、亀吉の水槽忘れていない?)」


「ズルルルルズルルルル。ズル、ズルルルル? (あー、ちょっと忘れかけてた。一匹狼、そんな訳だ。決闘は後日で良いか?)」


「ごめん、ナチュラルに啜り音で会話するのヤメてくれる?ついていけないから」


 一匹狼が俺と美鈴に突っ込みの声を上げたその時。

 

 窓ガラスの割れた音が店内に鳴り響いた。


「きゃっ!?」


 一匹狼の短い悲鳴は周囲の絶叫に掻き消されてしまう。

 同時に外から圧迫感に似た威圧を感じ取った。この気配は前にも感じた事がある。


「ズルルルル!? (何が起きたの!?)」


「ズルルルルズズルルルルル……! (この気配、まさか……美鈴、早くここから逃げろ……!)」


「あんたら、結構余裕あるわね!?」


 ラーメンを食べながら緊迫感溢れる会話をしていると、またもや一匹狼に突っ込まれてしまう。

 この気配に覚えがある俺はラーメンを食べる手を止めると、一匹狼に美鈴を押し付けた。


「一匹狼!美鈴を連れて、急いでここから離れてくれ!!美鈴、こいつから決して離れるな!!俺はちょっと行ってくるから!!」


「頼むって……あんた、どこ行くのよ!?」


「え、えーっと……トイレ!!」


「トイレ行く雰囲気じゃなさそうだけど!?ねえ、あんた、ちょ、待ちなさい!!」


 一匹狼の叫び声を背中で浴びながら、俺は急いで建物の屋上へ移動する。

 屋上はちょっとした遊園地になっていた。

 周囲を見渡す。

 小さなメリーゴーランドに小さなゴーカート場に小さな観覧車。

 人の気配は一切感じ取れない。

 恐らくここにいた人達は非難したのだろう。

 俺は小さなメリーゴーランドの屋根の上に跳び乗ると、外から感じ取った気配を目で探す。

 高い場所から新神駅周辺を見渡すが、見えるのは逃げ惑う人々のみ。

 異常の元凶は何処にも見当たらなかった。

 新神駅前にある大通りを見る。

 数十台の車が炎上していた。

 周囲の建物の窓も割れており、アスファルトは見るも無残に引き裂かれている。

 まるで台風が通り過ぎた後みたいだった。

 どれ程の怪我人が出ているのか、パッと見た程度では把握できない。


(早く事態を収束させないと、もっと被害が──)


 近くにいるであろう"奴"の姿を探す。

 瞬間、背後から物凄い殺意を感じ取った。

 物凄いスピードで迫って来る何かを躱すため、俺は急いでメリーゴーランドの上から飛び降りる。

 地面に着地した瞬間、俺が乗っていたメリーゴーランドは縦に真っ二つになった。

 一瞬で次の攻撃を理解した俺は全速力でこの場から離れる。

 すると、音もなく小さな観覧車は俺目掛けて倒れ込んだ。

 襲いかかる鉄塊を紙一重で躱す。

 すると、小さなゴーカート場に放置されていたゴーカート数台が何の前触れもなく宙に浮かび始めた。

 あんな無数の鉄塊を闇雲に避けたら、下にいる人達に危害が及んでしまう。

 そう判断した俺は別の建物に移る事も下の階に移動する事なく、正々堂々正攻法で鉄の流星群を躱す事を選択する。

 矢の如く撃ち出された遊戯用の小型自動車は容赦無く屋上の遊具を粉々にした。

 先月までの俺なら、この攻撃を躱し切るのは不可能だっただろう。

 だが、ガイア神や魔女の攻撃と比べると、この程度の攻撃、大した事はない。

 籠手を使わなくても十分躱し切れる。

 降り注ぐ鉄塊を最低限最小限の動きで躱す。

 だが、次の攻撃だけは容易に回避する事はできなかった。

 砂埃に紛れて放たれる斬撃波(かまいたち)

 攻撃を視認した瞬間、俺は強引に身体を捻る事で攻撃を回避した。

 斬撃波が右脇腹の皮をほんの少しだけ掠める。

 擦り傷を負った事実に安心するのも束の間、頭上から太陽と見間違うくらい熱を帯びた火球が俺の身体を押し潰す勢いで飛来して来た。

 先程の斬撃波を強引に躱した所為で、動きがワンテンポ遅くなってしまう。

 避け切れないと判断した俺は一か八か右の拳で飛んでくる火球を受け止めた。

 瞬時に右の腕に纏わり付いたアイギスの籠手が魔法でできた火球を退ける。

 そして、俺の不意を突くように放たれた背後からの斬撃波を右の籠手で弾き飛ばした。

 並外れた敵意と殺気により、ようやく俺は敵の狙いを理解する。


(こいつ、最初から俺を狙って──!?)


 最初から俺という人間を脅威として認識している敵を俺はよく知っている。

 1柱はガイア神。

 もう1柱は天使ラファエル。

 今感じている敵の気配はガイア神と天使ラファエルとよく似ている。

 きっと俺の勘が正しければ、今俺を襲っている敵も神か天使の類だろう。

 やはり、俺が危惧していた通り、神や天使といった災害級の教育はこの地に点在していた。

 その事実に俺は冷や汗を垂れ流す。


(奴はどこに……!?)


 周囲を見渡す。

 気配はすれど、姿は見えず。

 近くにいる。

 なのに、居場所を特定する事ができない。


(もしかして、姿を消してんのか!?)


 いや、姿を消しているだけじゃない。

 前後左右、俺を取り囲むように放たれる威圧感が俺の感覚を狂わせているのだ。


「何が何だが分からねえが、とりあえず、こうだ!!」


 魔女騒動で身につけた電磁力──魔法限定によみ作用する──を発動する。

 右の籠手から放たれた白雷は物凄い勢いで俺の周囲にいた4つの気配を吸い寄せる。

 そして、吸い寄せた何かを右の籠手で破壊しようと試みた。

 パイプオルガンの音色みたいな絶叫が屋上に響き渡る。

 人のものとは思えない声に驚いた俺は一瞬だけ動きを止めてしまった。

 その隙に吸い寄せた4つの気配は力尽くで白雷の引力から逃れ、俺から距離を取ると、透明化を解除し始める。

 中空に現れたのは舞妓さんみたいに真っ白な顔をした女4人。

 小麦粉の中に突っ込んだような体色をしており、背中には蝉のような翅がついている。

 魔女騒動の時に現れた天使と比べると、彼等は人間に近く、生物味を感じた。


「やっぱ、天使だったか……!」


 俺が右の拳を改めて握り締めている内に4人の女達は虚な目をしたまま、1つになってしまう。

 女達は自らの身体を粘土のように捏ねくり回すと、不定形の肉塊になってしまった。

 空に浮かぶ塊を籠手の力で引き寄せようと試みる。

 しかし、幾ら電磁力で引きつけても、奴は中空に留まり続けた。

 力が作用していない訳ではない。

 ただ籠手の力よりも奴の踏み留まる力の方が上なだけ。

 ただ、それだけの理由で俺の引力は無効化された。

 俺が必死になって天使を引っ張っている間に、奴は不細工な翅を生やし始める。

 そして、突如何の前触れもなく肉塊を掻き分け現れた8つの目は恐怖と殺意を瞳に込めると、俺の姿を視認した。


「……なんか、もう、慣れてきたな」


 魔法使いや神様と遭遇して早半月。

 度重なる異能と異形との喧嘩により、俺は何処からどう見ても化物である奴を見ても、全く動じなかった。

 先月までは、こういうのを見たら動揺していた筈なのに。

 慣れって恐ろしいなあと思いながら、中空に佇む肉塊と向かい合う。


 そして、俺は息を短く吐き出すと、宙に浮かぶ天使目掛けて走り出した。



 いつも読んでくれて本当にありがとうございます。

 こないだPV1万突破したばかりなのにPV2万突破が現実味を帯びてきました。 

 みなさんが読んでくれているお陰です。

 厚く厚くお礼を申し上げます。

 明日の更新は12時と13時に予定しております。

 金曜日の更新は12時と13時と14時、21時、22時と23時を予定しております。

 また、新章人狼騒動編は27日土曜日0時頃から投稿します。

 土曜日は3話分投稿しますので、具体的な時間が決まり次第、最新話の後書きかTwitter(@Yomogi89892)でお知らせ致します。

 これからもよろしくお願い致します。

 

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