4月9日(18)<壊し損ねた天使>の巻
隣町に到着した俺と四季咲は隣町唯一のコンビニに向かう。
理由は俺が思いっきりゲロを吐いたからだ。
原因は至って明瞭。
食べ過ぎ及び食後すぐに激しい運動をしたから。
お陰様で口の中がゲロでやばい。
さっさと女子校に行って、魔女を殴り飛ばしたいのだが、今は俺の体調が悪過ぎてそれどころじゃない。
一刻でも早く胃腸薬とか飲んで体調を楽にしたいのだ。
「ほら、もっとお茶を飲みたまえ。ちょっとは楽になるぞ」
口元を覆い隠しながら夜の町を歩く俺を見て、隣を歩く四季咲はお母さんみたいに俺の体調を心配してくれる。
母性がヤバみだった。
彼女からお茶を受け取り、口の中に広がる臭いを和らげる。
それでも吐き気は収まらなかった。
『もしもし、僕だ。調査結果の件で知らせたい事がある』
耳に嵌めていたワイヤレスイヤホンから啓太郎の声が聞こえて来る。
「あー、啓太郎か。どうした?」
『やけに具合悪そうだな、どうした?』
「おにぎりの食い過ぎでゲロ吐いた」
『何で自ら不利な状況に陥ってんだ、君は……!?あれ程、万全な状態で臨めって言っただろ!?』
「いや、言われてねえよ。で、調査した結果、どうだった?現在進行形で空に浮かんでいる魔法陣は、一体どんな効果をもたらしているんだ?」
『ああ、端的に話すとあの公園周辺の住宅街にいた人々は現在進行形で意識を失っている。どうやら上空に浮いている魔法陣の効果らしい。被害者の数は3桁いくかどうか。現在進行形で被害者が増えているため、正確な数は断言はできない』
「救急車は呼んでいないのか?」
『いや、呼んでも逆効果だ。もし救急車を呼んだりしたら、救急隊の人達も昏睡状態に陥る可能性が高い。もし救急隊も昏睡状態に陥ってしまったら、他の要因で救急車を必要としている人達が手遅れになってしまう』
「可能性が高い……と、言う事は絶対に昏睡するっていう確証はないって事なのか?」
「ああ。どうやらあの魔法陣はエリやキマイラ津奈木のように自前の魔力で抵抗できる魔術師や膨大な魔力を保持している人には効果が薄いらしい」
「ああ……なるほど。だから、四季咲は昏睡していないのか」
俺の隣でピンピンしている四季咲を見ながら独り言を呟く。
多分、彼女は啓太郎の言っていた条件──元々の魔力量とやらが多い──に適合しているのだろう。
「話を元に戻そう。魔術のスペシャリストである助っ人曰く、これは──魔女が現れたのは、こないだ降臨した神様の所為らしい』
啓太郎の言葉により、美鈴の身体を乗り憑った神様の事を思い出す。
4月4日、人類は金郷教が呼び出した神様によって滅亡の危機に瀕していたらしい。
らしいというのは人類滅亡という実感が俺に湧かなかっただけの話であり、魔術の専門家である鎌娘やキマイラ津奈木によると、あのまま神様を放置していたら遅かれ早かれ人類は滅びていたようだ。
俺にはあまりピンと来なかったが、彼等が言ってたからそういう事なのだろう。
……多分きっと。
「もしかして、また人類滅亡の危機とやらが来てんのか?」
『ああ、その通りだ。どうやら、あの時君が破壊した4柱の天使の内1柱が魔女の出現と集団昏睡の原因を生み出したらしい』
「天使?俺、天使を破壊してたのか?そんな大層なものを破壊した覚えないんだけど……」
神様との喧嘩を思い返しても、天使と遭遇した覚えはない。
いつ倒し損ねたのだろうか。
『あの辛うじて人の形を保っていた土塊の事だよ。どうやらあれは"天使"だったみたいだ』
啓太郎に指摘されて、ようやく思い出す。
そういや、俺は土塊みたいなものと喧嘩したような気がする。
『どうやら魔女とやらが、君が倒し損ねた天使を回収したらしくてね。その天使の力を利用する事で、彼女は人から美点を奪えるようになったみたいだ』
「じゃあ、四季咲や他の女子生徒がこんな目に遭ってんのは、俺の所為って事なのか?」
『いや、君の所為じゃない。あの時、君はあの時最善を尽くしたんだ。この騒動は君の怠惰によって引き起こされたものじゃない。エリやキマイラ津奈木によると、何者かが意図的に君が壊した天使を修復した可能性が高いそうだ。まだ確認が取れていないから断言はできないが……と、こんな話をしている場合じゃない。閑話休題、本題に戻ろう。どうやら匿名希望の助っ人魔術師曰く、魔女が扱う強奪の魔法はかなりの魔力が消費されるらしくてね。魔女は強奪魔法を行使する度に、この辺りの人々の魔力を根刮ぎ奪っているそうだ』
「それが空に浮かぶ魔法陣の正体って訳か。……念の為に聞くけど、根刮ぎ魔力を奪われた人はどうなるんだ?」
『極度の衰弱状態に陥るそうだ。まあ、魔法とかに疎い君には高熱に冒されていると言った方がピンと来るだろう。このまま放置していたら、魔力を根刮ぎ吸い取られた結果、死ぬ人が続出するって話らしい。エリの話によると、強奪魔法は因果律の歪みが強ければ強い程、魔力の消費は凄まじいらしいからね。つまり、魔女が魔法を使う度に大勢の人が死んでしまうかもしれないんだ』
因果律がどうたらこうたらは分からないが、沢山の人が犠牲になってしまうかもしれないって事は分かった。
胸の内に抱いていた危機感がより強くなる。
『今現在、魔女はこの辺り──桑原町を含めた日暮市一帯の人々から魔力を奪い取れる状態にあるらしい。日暮市の人々から吸い取れるだけ吸い取れたら、次は隣の市、隣の県、日本全国、日本近隣の国、そして、最終的には世界各地と言った感じで魔力を吸い取る規模を徐々に確実に拡大していく。下手したら、この世界はあの魔女の所為で人類は滅びてしまうかもしれないんだ』
規模感がデカ過ぎてピンと来なかった。
ワールドワイド級の話は止めろ。
規模がデカ過ぎて逆にヤバさが伝わらないから。
『世界中の人々から価値や魔力を根刮ぎ奪う事で、彼女は全ての人の頂点に君臨する事になるんだ。魔女主権の絶対王政が世界規模で敷かれると言ったらピンと来るかな?全ての人は死ぬのも生きるのも幸せになるのも不幸になるのも、全部あの魔女次第になるんだ』
何となくヤバイ事だけは伝わる。
だけど、世界のためとか言われてもあんまりピンと来ない。
「要は四季咲や蛇女みたいな犠牲者が増えるって事だろ?オッケー、なる早で食い止めてやるよ」
『魔女の方は頼んだ。僕らはこれから昏睡状態に陥った人達を救うため、魔法陣を破壊する術を探す。魔力の元を断てば、幾ら天使の力があろうとも強奪魔法は使えなくなる筈だ』
「んな事できるのか?キマイラ津奈木も鎌娘も魔法使えないんだろ?」
『大丈夫だ、僕が何とかしてみせる。こっちには助っ人の──魔術のスペシャリストがいるしね。これくらい何とかしてみせる」
啓太郎は気負った様子を見せる事なく、淡々と何とかしてみせると言い切ってしまう。
とりあえず、俺達は彼を信じる事にした。
「大体承知。じゃあ、そっちは頼んだぞ」
『ああ、任された』
啓太郎との通話を切る。
昏睡した人々は啓太郎達が何とかしてくれるだろう。
俺は俺で自分にできる事をしなければ。
「天使に人類滅亡か。話のスケールが大き過ぎて私には分からんな」
一部始終を聞いていた四季咲は眉をひそながら呟く。
「気にすんな。俺にもよく分からねえからさ」
「……君はいつもこういう事件に首を突っ込んでいるのか?」
彼女は意味深な態度で、何か訳有りな態度で俺に尋ねる。
「別にいつもって訳じゃねえよ。魔法関係の事件も今回が2度目だ。けど、大丈夫だ。俺が何とかするから」
俺は彼女にVサインを送って、安心させようとする。
「そうか」
すると、四季咲の顔 表情が少しだけ明るくなった。
彼女の瞳に映る俺の顔は、御伽噺の王子様みたいにキラキラしていて、少し気味が悪かった。
もしかしたら、彼女は何か勘違いしているのかもしれない。
俺は彼女が特別だから信じたんじゃない。
信じて欲しいと言われたから、信じただけだ。
それが例え誰であろうが──躊躇いもなく殴れるような奴じゃなければ──、問答無用で信じていた筈だ。
だから、俺は彼女に特別な価値を見出したから助けようと思ったんじゃない。
誰でも良かったのだ、困っている人なら。
(この勘違いは正すべきなんだろうか……?)
この推測が当たっているとは限らない。もし外したら失笑ものだ。
自意識過剰と煽られても仕方ない。
だが、もしこの推測が当たっていたら。
──間違いなく彼女は俺に失望してしまうだろう。
その時、彼女がどんな行動を取るか予測する事はできない。
もしかしたら、俺に愛想を尽かして、1人で単独行動を取ってしまうかもしれない。
失望するならまだしも、彼女が俺の前から消えるのは、俺にとって不都合な展開だ。
もし彼女が俺の前から立ち去ったら、いざという時に守れなくなる。
彼女が啓太郎達の下に行けば、御の字なのだが、多分、彼女は単独行動を取るだろう。
そんな気がする。
そう考えている内に、再び吐き気が込み上がって来た。
とりあえず、今は胃薬買おう。
確信を抱き次第、彼女の勘違いを正そう。
そう思いながら、俺は四季咲を連れてコンビニに向かった。
いつも読んでくれてありがとうございます。
作者の暁上程斗"あけのぼのりと"です。
ここ数日はバタバタしていて更新時間が定まってなかったのですが、本日から毎日12時頃に投稿するようにします。
また投稿時間が変わる際は後書きかTwitterの@Yomogi89892にて報告致します。
これからもよろしくお願い致します。
(厚かましいと自覚しておりますが、感想、レビュー、ブクマ、評価、お待ちしております)




