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4月9日(7) 四季咲楓の巻

「何が無価値だ!!ちょっと綺麗だからって調子に乗りやがって!!お前なんか○○○して、○○○して、○○○した挙句、○○○するのがお似合いなんじゃ、今すぐ○○堕ちしやがれ!!この○○○○○がああああああ!!!!」


 テレビでは放送できないような下品な単語を叫びながら、俺は床に伏せた会長の尻をサッカーボールみたいに蹴りまくる。

 多分、今の言葉をSNSに呟いたら、フェミニストの人達に叩かれた挙句、まとめサイトに載って大炎上するだろう。

 やはり独り言は電子化させない方が良い。

 その時の感情任せに呟いた一言が未来永劫電子の海に漂う事になるから。

 みんなも独り言を呟く時はスマホから離れて誰もいない所で思いっきり叫ぼうね。

 言いたい事を一通り言い切った俺は、目の前で白目を剥いたまま、鼻血を垂れ流す会長の姿を見て、思わず我に返ってしまった。


「あ、やべ」


「き、貴様……この俺の顔にキックしやがって……!!おい、てめえら!!何ボサッとしてやがる!?さっさとこいつを捕まえろ!!」


 手で鼻血が出る鼻を押さえながら起き上がる。聖十字女子学園生徒会長。

 興奮した様子の彼女は側にいた女の子達に命令する。

 その口調はさっきのザ・女の子口調ではなく、男勝りのものだった。

 俺は急いで生徒会室から出ると、廊下の窓から地面目掛けて飛び降りる。

 そして、さっさとこの場から離れようと、一先ず人気のない所に避難した。


「こ、ここなら、大丈夫な筈だ……」


 聖十字女子学園のゴミ捨て場まで移動した俺は、とりあえず追手を撒くため、ここに隠れる事を選択する。


 なんで俺はこんな目に遭っているのだろう。

 あの会長の挑発を大人な態度で受け流す筈だったのに。

 なんでブチギレてドロップキックなんかぶちかましたのだろう。

 それもこれも全部占いの所為だ。

 占いが全部悪い。

 そう思うと、なんだか腹が立ち始める。


「あー!腹立った!こうなりゃ今日は例のエロ本手に入れるまで寮に帰らねえぞ!!イライラをムラムラに変えるまで俺は止まらねえからよ!!ザマァ見ろ、寮長!!」


 特に関係のない寮長に八つ当たりする。それ程、今の俺はイライラしていた。

 イライラのムカムカだった。

 一昔前風に言うと、激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリーム(神)レベルにブチ切れていた。

 走れメロスで例えると、人間不信の王様にブチ切れたメロスが王様と親友セリヌンティウスを火炙りにするくらいブチ切れていた。

 イライラしながら、俺は周囲の状況を確認する。

 どうやら追手は俺の事を追っていないらしい。

 とりあえず、女子校の敷地内から出ようと試みる。

 その時だった。

 ゴミ捨て場に俺が欲しいと思っていたエロ本の表紙を目撃したのは。


「なっ………!?」


 女子校に不釣り合いな紙媒体のエロスを視界に入れた途端、俺は吸い込まれるように金髪巨乳美女が載ったエロ本の下へ走り出す。

 まさかこんな所で出会うなんて。

 俺の推測が正しければ、多分、このエロ本はこの高校に潜むレズビアンの女性が買ったのだろう。

 そして、先生に見つかって捨てられてしまったのだろう。

 顔も名も知らない女性に思わず同情してしまう。

 お前の無念は俺が晴らしてやるからな。

 そう思いながら、俺はゴミ捨て場に落ちていたエロ本を手に取る。

 だが、俺が手に取ったそれは中身がなく、金髪巨乳美女が写った表紙しかなかった。


「うわああああああああ!!!!!」


 俺は思わずその場で号泣してしまう。

 クリスマスの日、サンタが家に来なかった時の子どもみたいに俺は泣き噦る。


「こんなのって、あんまり過ぎるだろおおおおおお!!!!!」


 八つ当たり気味にゴミ捨て場にあった古い木の跳び箱を思いっきりぶん殴る。

 すると、割れた木の跳び箱の中から女装したデブが出てきた。

 

「あ………」


 聖十字女子学園の制服を着たチビデブ男はこの世の終わりみたいな顔をすると、目に涙を浮かべながら、聞いてもいないのに自分がここにいる理由を俺に話し始める。


「ち、違うんだ!!私は本当は女性で!ここの生徒で!!でも、魔女の所為でこんな身体になってしまっただけで、本当は私は男じゃないんだ!!跳び箱の中にいたのも魔女が私を太らせた所為で身動き取れなくさせられて!えと、その、えっと……!!」


 彼──いや、彼女と呼ぶべきだろうか。

 彼女は一重の瞳から涙を零しながら、俺に訴える。

 俺はというと、エロ本の中身がないショックの所為で心ここにあらずの状態だった。


「へえ、そうなのか」


 特に感情を込める事なく、彼女の言い分を軽く聞き流す。

 一旦上げて落とされたのだ。

 これはかなり心にくる。

 ソシャゲのガチャでピックアップキャラが出て来なかった時の100倍くらい悔しい気持ちだ。

折角貯めた無課金石を返して欲しい。

何のために毎日ログインしていると思っているんだ、ボケが。


「……お願いだ、信じてくれ」


 彼女の悲痛な呟きにより、俺は初めて彼女と目を合わせる。

 彼女の容姿はお世辞にも良いとは言い難がった。

 端的に彼女の容姿を一言で説明すると、不潔でチビでデブな男。

 客観的という名の偏見で見たら、女子校に忍び込んだ変質者でしかない。

 けど、彼女は自分の話を信じてくれと言った。

 話を聞き流していたので、具体的に何を信じれば良いのかよく分かっていない。

 けど、彼女は懇願しているのだ。

 涙を流しながら。

 赤の他人である俺に向かって。

 彼女の抱えている事情はよく分からない。

 けど、悪人じゃなさそうな奴が涙を流しながら、"信じてくれ"と言っているのだ。

 信じるには十分過ぎる理由だった。

 


「大体承知。とりあえず、お前の事を信じるよ。で、俺は一体何をすれば良いんだ?」




 もし俺が伊紙丸から占いの話を聞いていなかったら。

 会長に生徒会の雑事を頼まれていなかったら。

 会長が救急車に運ばれていなかったら。

 女子校の生徒会長を殴り飛ばしていなかったら。

 ゴミ捨て場のエロ本に釣られなかったら。

 悔しさの余り古びた跳び箱を殴らなければ。


 俺は彼女と出会う事はなかっただろう。


 大仏の日が終わりかけるある春の日の夕方。

 俺は全てを奪われた少女と遭遇した。


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