14 買 収
定休日でしたが、昨日休んだので今日は更新します。
領主の凄惨な死に様を目の当たりにしてた領軍の皆さんは、そのまま凍り付いたかのように、誰も動かなかった。
私を刺激して、次の標的になるのが嫌なんだろうね。
さすがにもう勝ち目が無いことは、全員が理解しているのたど思う。
じゃあ、お土産を持たせて、帰らせるか。
私は「空間収納」から、原始竜の死体を取り出す。
それを見た兵士達がざわめき始めた。
「あれは……まさか原始竜!?」
「都市を壊滅させる個体もいるという!?」
「あのキツネが倒したのか!?」
私はこの原始竜が、脅しにも使えるということを知っている。
私のような正体不明のキツネよりも、この原始竜の方が明確に脅威を理解できるだろう。
そして結果的に、その原始竜を倒した私の強さも──。
『領主はこの原始竜と相討ちになり、名誉の戦死を遂げられた!
そういうことにして、お前達はこのまま町へ帰るのです!!
証拠として、原始竜の死体を持ち帰ることも許そう!
だから今後、私とこの村には手を出さないと誓いなさい!!』
原始竜の死体は高額で売れるらしいから、彼らにとっても損にはならない話だ。
騎士達にとっては領主を守れなかった時点で、何らかの罰を受ける可能性もあるだろうけど、原始竜を持ち帰った功績で罪を相殺できる可能性がある。
そうやって恩を売ることで、今後村に色々と配慮してもらえるのならば、惜しくはない。
勿論、千人以上もいる領軍の全員が、私の言葉を守るとは限らない。
そういう不届き者を、他の者達が抑えてくれることを期待したいが……。
いずれにしても、原始竜の死体は譲歩しすぎのように見えるかもしれないが、それでもいい。
これで裏切られるようなら、私も遠慮無く報復することができるからね。
『もしも再びこの村に手を出そうとすれば、今度はお前達の町が燃えることになる!!』
「…………!!」
私も余っ程のことが無ければ、町を襲撃したいとは思わないからなぁ……。
その理由を──「ここまで私が譲歩していた」という実績を作っておけば、いざという時に私は気兼ねなく怒れる。
そこまで理由を作っておいてようやく、人間と全面的に敵対する覚悟が決まるのだ。
ともかく私の脅しが効いたようで、領軍は撤退することを決めてくれたらしい。
死人は私が倒した領主と黒ずくめの男の2人……と、別働隊として村を襲撃し、シス達によって返り討ちになった17人。
おそらく黒ずくめの男の仲間……人身売買組織の者達だろう。
まあ、死すべき者達だけが死んだ……という結末だと思う。
他の者達は、領主の命令に従っただけだろうから、怪我人は魔法で治療して、無事に町へ帰れるようにしてあげよう。
結果的に撤退作業は、スムーズに進んだ。
これで少しはこの土地も、平和になったかな……と思ったけど、そうは問屋が卸さなかった。
半月ほどが経過した頃だろうか。
『あ~、レイチェル、そこそこ』
「アイちゃん、ここ?」
私はレイチェルにモフられつつ、だらけていた。
レイチェルもなかなかのテクニシャンだ。
これは将来が期待できるな。
そして、別の方向でも──。
「レイチェル、今日の訓練を始めるぞ!」
「は~い、今行くのです、ナユタお姉ちゃん!」
レイチェルは最近、冒険者に興味を示しているらしく、よくナユタの自主練に付き合っている。
まあ、こんな山の中の村では子供の遊び場所も無いし、学校も無いので、ただの暇つぶしかもしれないが……。
『娘さん……冒険者になってもいいので?』
私は近くに座っていたレイチェルの母親であるセリスに歩み寄り、その膝に顎を乗せた。
するとセリスは私を撫でながら答える。
「もう少しで未来が無くなるところでしたから、あの子の好きなようにやらせてあげたいと思います。
折角取り戻した自由ですから、謳歌しないのは勿体ないですわ」
『でもそれなら、こんな山の中での生活を強いるのは、どうなのかなぁ……?
どこか別の町へ引っ越してもいいのでは?』
「あら、ここでの生活も、のどかで良いものですよ。
ゴブリンには驚きましたが……もう慣れました」
はは……まあ、ゴブリンは驚くだろうなぁ……。
でも今や彼らだって、私の教育のおかげで、かなり人間っぽい言動を身につけることができた。
「最初は、もう縁が切れた実家に頼ろうかとも思いましたが、そこでの堅苦しい生活では、あの子があのように笑っていられたのか分かりませんし……。
私もそれが嫌で、逃げてきたようなものですから……」
ふむ……この母娘からは、何処となく気品のような物を感じるけれど、やっぱり貴族の出身だったりするのかな?
だとすれば、貴族の世界に帰っても、政略結婚の道具にされるだけなのかもしれない。
……うん、無いな。
あんな可愛いレイチェルを、何処の馬の骨とも分からない奴へ嫁に出すなんてとんでもない!
『じゃあ……お二人がもっと暮らしやすいように、この村を発展させていきますよ』
「ふふ……ありがとうございます」
おおう、人妻の撫でるテクニックもなかなかだ。
至福──。
『アイ様、今よろしいでしょうか?』
その時、私に念話が届く。
ん? ゴング?
何事?
『客人がお見えです』
『うん、客?
村の外から?』
誰だろうと思って出迎えてみると、それはこの前の領軍に参加していた騎士達だった。
30人はいるだろうか。
「大変申し訳ありませんっ!!」
『なん……?』
その者達は私を前にすると、突然頭を下げて謝罪を始めた。
まあ……あまり良くないことが起こったのだろうなぁ……。
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