7 弟子誘拐の顛末
奴隷商の店主を私の奴隷にしたので、他の奴隷達の所有権を私へと移す作業を彼に手伝わせた。
あと、まだ生きていた彼の護衛も、私の奴隷にする。
私の手足じゃ拘束は無理だから、死ぬまで放置しようと思ったけど、奴隷化することで今後反抗する危険性が無いのなら、治療して助けるのも吝かではない。
それが終わったら、今度は牢屋から奴隷達を解放する。
ただし、この館を脱出して安全な場所へ辿り着くまで、まだ自由は与えない。
勝手に動かれて集団行動を乱されたら、移動することすら難しくなるからね……。
『君達の所有権は私に移った。
後ほど解放したいと思うが、今は私に従って欲しい。
その間、最低限の衣食住は保証します。
ただ、奴隷としてここに残りたいという者がいるのなら、本人の意思を尊重したいと思う。
そういう者はいますか?』
いきなり奴隷の立場から解放されても、自活していく自信が無いとか、自分が売られるはずの金で家族の生活費を賄うはずだったとか、諸々の理由で困る者もいるかもしれない。
そう思って聞いたのだけど、声を上げる者はいなかった。
じゃあ、全員を連れ出すということで良いかな。
『ここからの脱出は夜にしますので、それまでは休んでいてください』
次に私は、ナユタとレイチェル母娘を、迎えに行く。
『もう自由にしていいですよ』
牢屋の前から私がそう呼びかけると、ナユタは、
「はっ……!?
おい、ここからだせよっ!!」
と、今まではじっと大人しくしていたのに、突然騒ぎ出した。
たぶん奴隷商の主人によって、余計な行動は一切するな──と、命じられていたのだろう。
『はいはい、落ち着いて、私ですよ』
私は幻術を解いて、元のキツネの姿に戻る。
「師匠!?」
「キツネの妖精さん!?」
「「ん?」」
ナユタとレイチェルが同時に声を上げ、「え、知り合い?」とでも言うかのように、お互いの顔を見合わせた。
『まずは牢屋から出てきてください。
ただ、こんなところからはすぐに脱出したいでしょうけど、人気の無い夜まで待とうと思います。
だから何があったのか、夜までじっくりと話は聞きますよ』
「うう……師匠、スマネェ……」
『何があったのです?』
「それが……」
ナユタの話によると、冒険者の資格は危うく年齢制限に引っかかりそうになったが、なんとかアラフォーだということをギルド職員に信じてもらい、資格を得ることはできたそうだ。
そこまでは良かったのだが、冒険者ギルドを出た直後、同じ冒険者だという女が声をかけてきたらしい。
そして──、
「先輩として新人さんには優しくしないとね。
色々と教えたいこともあるし、一緒に食事をしない?」
と、食事を奢ってもらうことになったという。
で、その食事を食べたら、急に眠たくなってしまい、気がついたら捕まっていた……ということだ。
『あ~……もうちょっと人を疑うことを、教えておくべきだった……』
私も平和な日本で生きてきた所為で、人間の町がどの程度治安が良いのか、あるいは悪いのか──それをまったく考慮していなかった。
今のナユタは、正面から戦えばそこそこ強い。
だから力尽くでならば、攫うことは難しかったはずだ。
でも、精神的には未熟な彼女は、そこを突かれてしまった。
全員が家族のような集落で生まれ育ったナユタには、他者を疑うという意識が希薄なのかもしれない。
その結果が今回の事態だ。
今回は奴隷として売られる前に助けることができたけど、おそらくこの町で冒険者として活動することはもう無理だろう。
人身売買の組織が、逃げ出した者を放置するとは思えないし、彼女は領主に売られる予定だったらしいので、領主にも目を付けられている可能性がある。
少なくとも遠い別の土地へ行かなければ、真っ当に冒険者として活動するのは難しいだろうな……。
その時には今回手に入れた冒険者の資格は破棄して、偽装した身分で新たに資格を取り直した方が無難だろうねぇ……。
まったく……最初の一歩で躓いて、大きなハンデを背負ってしまったものだ……。
「ゴメンなさい、オレが迂闊だった所為で、師匠に迷惑をかけちまった……」
ナユタは目に涙を溜めて、頭を下げた。
だが、これはナユタの責任ではない。
人身売買組織や奴隷商、そしてその利用者の責任だ。
今後は何かしらの対策を、考えた方がいいな……。
『私も事前にはどうすることもできなかったのだから、あまり気に病まないで……ね?』
「うん……」
ナユタは涙目だけど、辛うじて泣くのは堪えている。
これなら大丈夫かな?
それならばもう一つの問題について、聞くことにしよう。
私はレイチェルの方を向いた。
しかし彼女は、酷く落ち込んだ顔をしている。
奴隷として売られそうになるという経験は、そりゃあ子供心にトラウマものだろうけれど……。
『あの……なんでこんなことに……?』
「う……」
私の問いかけに、レイチェルはグズグズと泣き始めた。
これじゃあ彼女からは、事情を聞くことができないな……。
そう思っていると──、
「あなたが、娘にお金を貸してくれたキツネの妖精さんですね?」
『あっ、はい……』
レイチェルの母親が話しかけてきた。
大人に「妖精さん」って言われると、なんか恥ずかしいんだけど……。
だから──、
『私はアイと申します。
以後そのようにお呼びください』
と、自己紹介した。
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