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13 冒 涜

 それから私とナユタは、これからのことを語り合った。

 とは言っても、私が一方的に未来の展望を提示しただけだが。


 この世界にビーストテイマー(獣使い)という職業があるのかは分からないけれど、ナユタを私達の使役者と見せかければ、キツネの姿でも人間の町に入れる可能性はある。

 それに冒険者としての活動は、異世界に来たらやってみたいことの1つだったので、できればナユタと一緒にやってみたいなぁ。


 冒険王に、私はなる!


 そんな私の話を、ナユタはたまに頷いていたけど、それが承諾なのかどうかはよく分からない。

 今の彼女は父親のことで精一杯だし、すべては落ち着いてからだろう。


 その後、ナユタが寝落ちしてしまったので、彼女をベッドに寝かせる。

 キツネの身体(からだ)では普通に人を運ぶことはできないけれど、風属性の魔法を使って浮かせてやれば可能だ。

 

 さて、酔い潰れていたシスの様子を、見に行くかな。

 そういえば使ったことは無いけど、毒消しの魔法なら、アルコールを分解できるのだろうか?

 でもヘモグロビンや白血球とか、余計な物まで分解してしまいそうで怖いし、いきなり使うのは危険か……。


 それにしても、ずーっと何かが引っかかっている。

 う~ん……なんだろ?

 凄く重大なことのような気がするんだけど、思い出せない。


 私は歩きながら色々と考えたけど、一向に答えは出なかった。

 こういう時は、この集落へ来た最初のところから振り返ってみようか……。

 え~と、洞窟に入って……。


 ………………あっ。

 脳内マッピングの中には、今日見聞きしたことと大きな差異が生じている部分がある。

 その事実に、私は気付いた。


 そうか、そういうことか……!

 ナユタの父親の遺体を見つけた場所は、最初にここへ来る途中で通っている。

 ただ、その時には、遺体なんて無かったはずだ。

 つまり私達が通り過ぎた後になって、遺体はあの場所に置かれたのだ。


 そして私達に発見されるのを、待っていた。

 何が目的でそんなことをしたのかと言えば、この集落に入り込む為だろう。

 あの影、遺体の中に潜り込んで、この機会を(うかが)っていた……!?


『ガラルさん、あの影がこの集落に入り込んだかもしれない!

 妹のシスを叩き起こして、酔い覚めの薬か魔法があれば使ってくれる!?』


『なんだって!?

 どういうことだ!?』


 私は「念話」でガラルに警告を入れる。

 彼から返事が返ってくるけど、今は詳しく説明している時間は無い。

 なので一言だけ、


『遺体にあいつが入り込んでいた可能性がある!!』


 そう伝えて、ナユタの家に向かって駆け出す。

 無事でいてくれよ……!!

 しかしナユタの家の方からは、嫌な気配を感じる。


『くっ!!』

 

 私はナユタの家に辿り着くと、玄関の扉に体当たりして強引に開けた。

 この肉球ハンドだと、ドアノブを回すのに手こずるんだよ。


 そしてそこには──、


『ナユタ!』


「あ……う……」

 

 触手のように伸びた複数の影に身体を絡め取られ、空中につるし上げられているナユタの姿があった。

 よかった……。

 まだ生きてはいる。


 そして影は、大瓶(おおがめ)から這い出したナユタの父親──その遺体から伸びている。

 遺体を操るなんて、何という死者への冒涜!


『このっ!!』


 私は光魔法で周囲を照らし出す。

 すると影の触手は消え去り、ナユタは床に投げ出された。


「ゴホッ、ゴホッ!!」


 床に背中を(したた)かに叩きつけられたナユタは、激しく咳き込む。

 だけど命には、別状ないようだ。


 一方、ナユタの父親は、まだ動いている。

 本体である影が遺体の奥深くに潜り込んでいる所為で、光が届いていないんだ……!!


『来る!!』


 ナユタの父親──影は、私に向かって突進してきた。

 ゾンビかよっ!!

 よし、これからはシャドーゾンビと呼ぼう。

 ……いや、長いな。

 やっぱり縮めてゾンビだ。


 しかしこれは厄介だ。 

 遺体の中に本体が潜り込んでいる限り、単純な光では撃退できない。

 勿論、遺体を破壊すれば、影は隠れる場所を失うけど、それには──、


『ナユタ!!

 お父さんの身体を攻撃していい!?』


「──っ!!」


 娘のナユタに、目の前で父親の身体が破壊されることを、受け入れてもらわなければならない。

 ただでさえ父が変わり果てた姿で、無言の帰宅をしたばかりの彼女には酷な話だ。


「そんな……!」


 ナユタは逡巡する。

 その間に、ゾンビは暴れ回った。

 家の中は狭いし、家具も多いから、それが邪魔で()けづらい……!


『グッ!!』


 ゾンビに殴りつけられ、私は壁に突っ込んだ。

 致命的なダメージでは受けてないけれど、そう何度も受けていいような攻撃ではない。

 ゾンビは追い打ちをかけようと、迫ってくる。

 私はすぐに立ち上がって、回避行動をとろうとするが──、


「やめろっ!!」


 その時、声が上がった。

 ナユタの声だ。


「これ以上、父ちゃんを侮辱するのは、やめろっ!!」


 それは涙ながらの──しかし、強い決意が込められた声だった。

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