21 彼女達のこれから
「おかえりなさいませ、ご主人様。
すべて片付きましたか?」
廃村の拠点に帰ると、吸血鬼のダリーが出迎えてくれた。
「分身のコウモリで見ていたでしょう?
この通りです」
私の腕には、1匹の仔竜が抱かれている。
元々はヘンゼルの身体だが、邪魔なので小さく変形させた。
勿論、元の巨竜にもなれるが、麻薬の原料になるような部分は浄化してある。
更に美少女へ変身できる機能もつけてはいるけど、その身体の中に宿るのは、少年の魂だ。
なので必要に迫られないと、変身しないだろうな……。
少年は性的被害を受けた所為で、自らが女性であること自体を嫌っているようだし。
完全に男の娘と化したダリーとは逆だ。
「ルヴェリクはどうしていますか……?」
「元に戻っていますが……?」
主人格の意識が戻っているってことかな?
じゃあこの子は、ルヴェリクに任せるか。
私は彼女がいるテントへと向かう。
「あ……おかえりなさい」
テントには心なしか憔悴した様子の、ルヴェリクがいた。
少年の魂が抜けた所為もあるのかな?
彼女の感覚としては、ごっそりと生命力を失ったようなものだろう。
でもこれからは、その状態に慣れてもらわなければならない。
まあ、彼女自身が強くなれば、改善はするだろう。
「ただいま。
この子をあなたに預けます」
「ふぇ……オオトカゲ?」
「アギャ」
ルヴェリクは仔竜に怯むが、私は強引に渡す。
「竜ですよ。
あなたを守ってくれる子です。
大事にしなさい」
ルヴェリクは「ええぇ……?」って顔をしているけど、無視して仔竜を渡す。
「ふぇぇ……お腹が結構プニプニしていて気持ちいいですぅ……」
「アギャギャ」
どうやら気に入ってくれたようだ。
怖々とだが、ルヴェリクは仔竜を撫で回していた。
「名前をつけてあげてください」
少年にはまだ名前は無いからなぁ。
「……名前ですか?
では……アレクサンドラ……とか」
ドラゴンのアレクさんですか。
前世の世界だと女性名だけど、この仔竜も雌に変形させているからいいんじゃない?
男の肉体構造とか知らないし、自分のを基準にして肉体を再構築したからね。
なので見た目はドラゴンだけど、中身はキツネに近いんだよね、この子……。
「アギャ……」
しかし本人は、アレクサンドラという名前についてどう感じているのだろうか?
初めて名前を得たのだから、案外感慨に耽っているのかもしれない。
勿論、「念話」で本音を聞くこともできるけど、それは無粋か……。
「さて、ルヴェリクさん、麻薬事件に関しては、一応解決しました。
これはあなたがいなければ解決しなかったので、その旨は姉に伝えておきましょう」
「え、私、何もしていませんけど!?」
本人の認識としてはそうだろうけれど、彼女がヘンゼルの魂を連れてこなければ、ヘンゼルの復活という将来への禍根は残っていた。
まあ……結局彼とクジュラウスの繋がりまでは聞き出せなかったが、クジュラウスの計画の一部を潰せたのならば、それでよしとしよう。
「もう1人のなたの功績があるのです。
そして彼が、あなたの身体を勝手に使うことは、もう二度と無いでしょう」
「……そ、それはどういう……?」
「あなたに取り憑いていた魔族の魂と一緒に、あなたの中から去りました。
それによって麻薬の製造に関わる事件は、一応の決着をみたことになります」
「それは……私を守る為に……?」
「そういうことです」
「……!!」
ルヴェリクには、別人格が生まれる仕組みを簡単に説明してあるが、その人格がいなくなるということは、その人格が引き受けていた問題に直面しなければならないということだ。
まだお嬢様の人格が残っているとはいえ、これからの彼女は苦労するだろう。
しかも1人で生きて行くには、彼女は弱すぎる。
だけど彼女が衝撃を受けているのは、そういうことではないのだと思う。
実際には一度も会ったことのない、別の人格──。
それでも彼との別れは、彼女にとって喪失感が伴うものなのかもしれない。
元々は同じ身体の中で、共存してきた相手なのだから……。
まあ、その内面での葛藤は、ルヴェリク自身で解決するしかない。
私が考えなければならないのは、これからの彼女の生活だ。
「もう1人のあなたによる功績で、今後帝国でのあなたの身分は保障されますが、ご実家への帰宅を望みますか?」
「え……それは……」
ルヴェリクは言いよどむ。
彼女にとって、悪徳貴族である実家は安心できる場所ではないようだ。
そもそも親達は、麻薬組織との関わりを理由に、処罰されるだろう。
そうなれば娘のルヴェリクが家を継いで、取り仕切っていかなければならない……が、それは無理だろうな。
「それではあなたは、暫く王国の学園へ留学して、色々と学んでもらいましょう」
「ええっ!?
私が王国に!?」
「マオやナユタにアカネ、そしてクオもいるので寂しくはないですよ。
そして学園での成績次第で、姉の側近に推挙しても良いのですが……」
「私が皇帝陛下の!?」
ぶっちゃけリーザと宰相だけでは、あの奔放な姉を制御できないと思うし、もう少し側近が欲しいところだ。
「あなたの努力次第ですがね。
どうです?」
ルヴェリクは暫く迷っている様子だったが、やがて──、
「……よろしくお願いします」
独り立ちをする為の第一歩踏み出した。
まあ、当面は小さな竜にサポートを受けながらだろうけれどね。
さあ、後は河に残留している麻薬の成分を浄化したら、私の仕事はひとまず終わりかな。
中毒者の治療や、凶暴化した魔物の討伐は他の者に任せよう。
あとは……家に帰ってからシファを呼んで、マオの記憶が戻っている件についての家族会議だね……。
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