18 魔の囁き
今年初の更新です。
ルヴェリクがマオを人質にとっている。
これは……彼女の中にいる少年の人格がやっているのか?
いや……。
「あなたは、誰ですか?」
彼の人格とは気配が違う。
もっと邪悪な……。
あ……そういえば、ルヴェリクのオーラを視た時、何か濁った物が混じっていた……。
あの時は少年の人格が原因なのかと思っていたけど、今なら違うと断言できる。
彼はルヴェリクの主人格を守る為に存在している。
それなのにマオを人質に取るという行為は、彼女にとっては何1つメリットにならない。
つまり彼がするはずも無い行為だということだ。
そもそもマオは子供に見えても、歴とした魔族。
ナイフで首を切られた程度では、死なないはずだ。
その気になれば、自力で脱出することもできると思う。
それが分かっていて、人質に取ろうとしているのか?
「あなた、ルヴェリクさんではないですよね?」
「くく……さすがに聡いな。
あの憎き赤ギツネの血族よ……」
ん~……?
その赤ギツネって、たぶんアーネ姉さんのことだよねぇ……?
あ、最初に会ったルヴェリクも、姉さんに敵意を向けていたけど、もしかしてあれって彼とは別の人格が漏れ出ていた……?
そう、今目の前にいる人格だ。
「我が名は魔王軍四天王が1人、ヘンゼル!」
なんだと!?
ヘンゼルは姉さんが倒したはず……!?
すぐ近くにある肉体にだって、魂は宿っていない。
だから遠隔で、ルヴェリクを操っているという訳でもないはず……。
いや……だからなのか?
ヘンゼルは肉体を失い、霊体になったからこそ、ルヴェリクに取り憑いたんだな。
おそらくいくつもの人格がある彼女の身体には、霊体が入り込みやすい隙のようなものがあったのだろう。
「さあ、魔王様。
本来のあなたに立ち戻ってくだされ。
あなたは魔族の王として、我らを率いる責務がある。
人間と馴れ合っている場合ではありませぬぞ。
今こそ人間への復讐の時っ!!」
「……!!」
なるほど。
ヘンゼルの目的は、マオを人質にして何かの要求を通そうとするのではなく、彼女に接触して説得しようというのが本命か。
前にマオの顔を見て変な反応をしていたのも、元魔王だと気付いていたからなんだな。
しかしマオは少し考えるような仕草をした後──、
「……何故?
現状、魔族の国は人間に認められ、生活も以前よりも豊かになっている。
今更人間と争って得することなど無い」
「なっ!?」
バッサリとヘンゼルの言葉を否定した。
「馬鹿なっ!?
魔王様は人間と戦い、消滅の寸前まで追い詰められておった。
俺だってそうだ!!
その恨みを、忘れるというのか!?」
……まあ、恨みは簡単には消えないだろうなぁ。
だけどそれが忘れられないというのならば、どちらかが消えるまで戦うしかなくなってしまう。
それが不毛だと分からないほど、マオは子供ではないだろう。
「指導者だったからこそ、私情を引きずるべきではない。
民の為ならば、忘れるべき。
そもそも余は、元々人間と戦うのは気が進まなかった」
かつての人間と魔族との戦いも、どちらかと言えば人間の方が侵略の意図を持っていたと聞く。
魔王ゼファーロリスは、そのような人間達と最後まで話し合いをしようとしていたが、それも叶わずに仕方がなく戦うしかなくなったそうだ。
そんな彼女が、今更戦いの火種になるようなことをするはずがない。
「それに……我々を追い詰めた勇者は、今やあなた達の側。
さっきの戦いを見て、気付かなかった……?」
「なん……だと?」
「え、あれご先祖?」
うん、マオもあれが勇者だと気付いたか。
一方ヘンゼルは勿論、子孫であるアカネも気付いてはいなかったようだ。
どう見ても異世界から転移した鎧武者の姿をしていたので、私には一発で勇者だと分かったけど、現在ではあの姿については、伝わっていないのかな?
それとも一部ではありふれているから、逆に勇者のイメージに繋がらなかったのか。
それでも、過去に直接勇者と戦ったことがあるはずのヘンゼルなら、正体に気付いても良かったはずだ。
仮に姿が変わっていたとしても、気配や戦い方で分かるだろう。
実際マオは気付いていたのだから。
だけどヘンゼルは人間への憎しみ故なのか、あるいは霊体となったことで意識が薄くなっているのか、勇者だとは見破れなかった。
もう正常な判断能力が、衰退しているのかもしれない。
いずれにしても人間に復讐したいのなら、最優先に倒すべきは勇者だよねぇ?
その勇者は今やクジュラウスが何かしたのか、人類の敵となった。
まずはその勇者と、仲間内で潰し合ってくれなきゃ、道理に合わないよ。
「手段を選ばなくなった時点で、お前達に正義は無い。
私怨の為に魔族を巻き込むな」
「……っ!!」
マオはヘンゼルを押しのける。
ヘンゼルの方は動揺しているのか、マオの首筋に当てていたナイフも使われることは無かった。
「ここは大人しく、その娘の身体を返せ」
「そうですね。
抵抗するのならば、浄化魔法で魂ごと消しますよ」
マオと私はヘンゼルへと告げる。
しかし──、
「それは無理な話だ。
俺の魂は既に、この娘の魂と融合している!」
と、せせら笑った。
……それ、ルヴェリクを犠牲にしないと倒せないってこと?
今年もよろしくお願いします。




