13 遡上するキツネ
大河ラフシア──。
この大陸を分割するかのように、延々と続く長大な河だ。
もしかしたら日本列島よりも長いかもしれない。
そこに麻薬が──言うなれば毒が流された。
大問題だ。
麻薬の成分は、膨大な河の水量によって希釈されて、効力は弱くなっているだろう。
だけどその水を摂取し続ければ、人も動物も魔物に近づいていき、そして元より魔物だった者は更に強大で凶暴になる。
いずれこの流域は、人の生存が困難な魔鏡と化すはずだ。
それに農業用水に河の水を使えば、作物も家畜も駄目になり、国の食糧自給率にもダメージが入る。
これは国家に対する攻撃であり、侵略であるとも言えるだろう。
それと同時に、大変な環境破壊だ。
なんで!? なんでそう、変な方向に思いっきりがいいの!?
おのれクジュラウス!!(たぶん)
この未曾有の大問題への対策の為に、まずは私が先行する。
ただ私は、ラフシア河には行ったことが無いので、行けるところまで「転移魔法」で近づくことにした。
そしてそこからは「飛行魔法」で空を飛び、まだ見ぬ大河を目指す。
「お、海だー!!」
いや、違う。
目の前には海だと見紛うほど、大量の水が見えてきたけど、実際には河だった。
向こう岸まで十kmほどありそうな、日本には無いタイプの大河だ。
『ふむ……』
私はキツネの姿に戻って、水面に降り立つ。
魔法を駆使すれば、忍者のように水面を歩くことができるぞ。
うん……麻薬の臭いはしないな。
下流だから、上流で流された麻薬の成分は薄くなってるのだろう。
そのまま上流に向かって、私は移動する。
たぶんこの周辺には、麻薬の影響は無い。
影響があるのは、麻薬の臭いが感知できるほど上流だろう。
私は麻薬の臭いを見逃さないように、水面に近い位置を移動し続けた。
『ここですか!』
麻薬の臭いを感知した。
この場所を記憶して、私は再び空を飛ぶ。
そして川沿いにある村や町を見つけて、その位置も記憶することにした。
たぶんこの辺からだと、上流には8つほど集落があったはずだが……。
その状況を確認しながら、上流へと──。
う~ん……各集落は何者かの襲撃を受けた形跡はあったけど、取りあえず現在進行形で魔物や麻薬中毒者が暴れている様子は無いようだ。
いや──、
「遅かった……」
……最も上流にあった集落は、廃村のようになっていた。
これは魔物の襲撃に遭ったのかな……?
生存者はいないようだし、今は後回しににするしかないな……。
そう、これ以上被害を広げないようにする為にも、各集落に騎士団や我が弟妹達を「転移」で運んで、この事態に対応させる。
丁度麻薬捜査の為に訓練していた弟妹達が沢山いるから、各集落に複数配置できるだろう。
たぶん普通の魔物が相手なら、過剰戦力になる。
それと弟妹達を指導していたシスの子供達にも、働いてもらおう。
下流から上流に向かって移動しつつ、凶暴化した魔物を駆逐するのだ。
つまり遊撃隊のような感じ?
……問題、は回復術者の少なさだ。
おそらく麻薬の影響も、初期の軽い物なら「解毒」や「浄化」の魔法で改善させることはできる。
それは人間などの生物だけではなく、汚染された土地に対してもだ。
ただ、術者が少ないので、今は人間の治療だけで精一杯だろうね……。
回復魔法自体は私にも使えるけど、まずは川に麻薬を流している組織の拠点を潰さないと、根本的な解決にはならないから、そちらを優先する。
あとはアリゼやクオのように、回復魔法が使える他の術士にできる範囲のことだけを任せるよ。
で、私達は1番上流にある廃村に拠点を作って、ここから麻薬の製造拠点を攻略することにする。
攻略メンバーは、私・ナユタ・アカネ・マオちゃん・ルヴェリク、そして連絡要員にダリーと、拠点防衛の為の騎士団員と弟妹達が若干名。
「それではみなさんは、拠点の構築をお願いします。
私は死者を送ります」
「ひ……!」
滅びた村の惨状を目の当たりにして、ルヴェリクは顔を青く染めて震え上がった。
魔物に襲われたと思われる人々の遺体は、食い散らかされたのか断片的にしか残っていない。
遺体が丸ごと残っているよりは、ある意味では凄惨な状態ではないと言える。
遺体がそのまま残っていたら、腐敗臭と腐肉に集まった虫の群れでもっと酷いことになっていただろうから……。
「ちょっと待ってくださいね……」
私はわずかに残っている遺体や、大量の血痕だけに限定して、それらを「狐火」で包んで天へと送る。
この世界は土葬も多いけど、今回は遺体が原形をとどめていないから、火葬させてもらうよ……。
そしてそれが終わった後、私はルヴェリクへと話しかける。
なるべく怯えさせないように、できるだけ優しい口調で──。
「嫌な物を見せてしまいましたね。
ただ、これがあなたの別人格が関わっていることの結果であることを、あなたには知って欲しかったのです。
あなたが見た真実は、もう1人のあなたにも届くでしょう。
その結果、何かが変わるかもしれません」
「…………」
ルヴェリクからの返答は無い。
抱えてしまった責任の大きさを実感して茫然としているようでもあり、何かを深く考えているようでもある。
そもそも今の人格が、どの人格なのかもよく分からない。
それでも彼女はいつか、何かしらの答えを出す──と、私は期待することにした。
明後日は用事があるので、更新できないと思います。




