1 国境を越えて
私達はこれから、クバート帝国へと行く訳だが……。
『え~と、方角は西の方だけど、さすがに正確な距離や位置は分からないですねぇ……。
あ、帝国に高い山はありますか?』
「帝都の近くにあるでしゅが……。
あとは帝都のずーっと西側でしゅ」
『それならば、その山だけ気をつければよさそうですね』
リーザに確認して、「転移魔法」の準備に取り掛かる。
まあ、普通に徒歩や馬車だと、帝国まで数ヶ月はかかるからね。
ただ、基本的に「転移魔法」は、1度行った場所にしか行けない。
それは知らない場所へ「転移」すると、障害物に突っ込む可能性が高いからだ。
逆に言えば、障害物の無い場所へ転移すれば問題は無いということになる。
たとえば空とかね。
まあ、標高の高い山や雷雲に突っ込む可能性はあるけど、帝都の近くにしか高い山は無いようなので、それさえ気をつければ大丈夫だろう。
落雷なら、防御魔法でどうとでもなるし。
そんな訳で、まずは帝国との国境を越えた辺りまで「転移」して、様子を見ながら進んで行こうと思う。
『あ、国境で入国審査は必要ですかね?』
だとすると、1度国境の関所に立ち寄らないと駄目かな?
「いえ、手続きは帝都でもできるので、大丈夫でしゅ。
そもそも『転移魔法』が使えるあなたを帝国内に招き入れた時点で、その出入りはもう制限できないので……無意味でしゅ」
確かに私がその気ならば、自由に国境は越えられるし、その動きを察知して制限できる者はまずいないだろうね。
『それならば、一気に帝国内部まで跳びますね』
私は安全の為に周囲の状況を確認しながら「転移」を繰り返し、あっという間にクバート帝国の帝都へと辿り着いた。
ほぉ……ローラント王国のように政変で混乱したことが無い所為か、帝都の町並みは思いの外綺麗じゃないか。
さすがに私が前世から持ち込んだ技術は使われていないので、近代的な建物とかは無いけど、いい発展具合だと思う。
大通りには露店が並び、多くの人々が買い物をしている。
『なかなか景気が良さそうですね』
「はい、皇帝陛下の統治は素晴らしいでしゅ」
ふむ……今の皇帝は有能そうだな。
しかし王国と帝国の間にはまともに国交が無かったので、イマイチ帝国に関する情報が足りないんだよねぇ……。
だって帝国って、大体独裁国家じゃん。
領土的な野心を持っている場合も多いし、普通はまともに付き合える相手じゃないよ。
実際近年までは、クバート帝国もそういう国だったと聞いている。
だから今の皇帝についても、実は殆ど情報が無い。
でもこの帝都の活気を見る限り、今の皇帝は上手く内政の舵取りをしていると思う。
しかも上手くいっているのは、経済的なことばかりではない。
道を行き交う人々の中に、獣人の姿を多く見かけるので、獣人に対する差別も少ないようだ。
以前は人身売買組織が、横行していたはずが……。
その所為でネネ姉さんが、組織を潰し回るハメになったらしいし……。
これはある時を境にして、一気に国が変わったのかもしれないね。
つまり今の皇帝になった時。
独裁も有能なリーダーならば、国全体がその指導の下、一丸となって動けるというメリットもある。
方向性さえ間違っていなければ、劇的に国が発展することもあるのだ。
いずれにしてもこれならば、少なくとも四天王の影響下にあるようには見えないね。
だからクジュラウスが罠を張っている……なんてことは、心配しなくてもいいかな?
「それではこれから、皇帝陛下に謁見してもらいましゅ」
『あっ、はい』
皇帝と謁見かぁ……。
なんかこの辺の国のトップと、全員顔見知りになってない?
だから今更緊張とかしないけど、面倒臭い人じゃなければいいなぁ。
それから私は、皇帝の居城へと案内された。
その中央にはビルを思わせるほど高い構造物が建っていて、王国の王城にある塔よりもかなり高い。
おそらく地属性魔法で岩を積み上げているのだろうけれど、それにしたってかなりの巨費と年月をかけないと建てることはできないだろうなぁ……。
仮に魔法を使わずに建築しようとしたら……いや、考えたくも無いな。
労働力として相当な数の奴隷を犠牲にしないと、絶対に不可能だろう。
どちらにしても、この城を建てた当時は、かなりの無茶をしたのだろうということが察せられた。
たぶん皇帝の威光を民に知らしめる──それだけの為に。
ようするに見栄の為だ。
私には理解できない感覚ではある。
そんなものに金と時間を使うのなら、図書館や博物館でも建てた方が有益だ。
まあ、建ててしまった物は、今後も有効活用するしかないけどさぁ……。
それにしても、こんな高層建築物なのに、エレベーターが無いって不便だな……。
私なら「転移魔法」や「飛行魔法」で、自由に上まで行くことができるけど、毎回階段やスロープで上り下りするのは厳しいでしょ……。
勿論、皇帝を魔法で運ぶ人員はいるのかもしれないし、そもそもこれだけ大きな建物だから居住区も広くて、皇帝はわざわざ地上に降りてくる必要は無いのかもしれないけれど。
だけどその裏には、物資を上まで運ぶ人員の苦労があるのだろうな……。
『魔法で上まで運びましょうか?』
「ああ……お願いしましゅ」
リーザは見るからに体力が無さそうだし、彼女のペースに合わせていたらどれくらい時間がかかるのか分からないからね……。
『不便ですね、ここ……?
今度エレベーターを設置しましょうか?』
「エレベーターがなんなのか分かりませんが、エスカレーターを設置する計画はありましゅ」
『エレベーターを知らないのに!?』
エスカレーターの方が、構造が複雑では!?
エレベーターなら、滑車の原理で原始的なのは簡単にできるはずだし。
「女神様のお告げで、教えてもらいましゅた」
なんか情報の偏りが激しいな!?
「いえ、教えてもらった……というよりは、たまたま聞こえてきたといった感じでしゅが……。
いつも独り言が、一方的に聞こえてくるような感じなので……」
ふ~ん、そんなに万能な能力という訳でもないのか。
でも、皇帝はその断片的な情報を取捨選択して、上手く活用しているっぽいね。
ちょっと会うのが、楽しみになってきたぞ。
いつも応援ありがとうございます。
明後日は更新できないかもしれません。




