15 忍び寄る不穏
さて、クラス内での二大巨頭が歴史的な和解をした……と、クラスメイト達から認識されている一件だが、実際には面倒臭いファンが合法的にアイドルと接触できるようになったというだけの話である。
あれから教室では、マオちゃんの傍にアカネやコロロがいることが多いけど、彼女達の間に会話はほとんど無い。
マオちゃんは元々口数が少ないし、普段何を考えているのかは、私でもよく分からない部分がある。
表情もあまり変わらない。
長門●希か綾波●イかな?
まあ、マオちゃんの場合は陰鬱というよりも、穏やかだからこそ……って感じではあるが。
そんな彼女にコロロが一方的に話しかけるが、マオちゃんはそれに相槌を打ちながら聞いているだけで、返事はごくたまにするだけって感じだ。
一方アカネは、マオちゃんのファンをこじらせているので、どう声をかけていいのか分からないようだ。
だから黙っていることも多いが、たまに歪な微笑みを浮かべていることがある。
ちょっと気持ち悪いが、幸せそうだからいいか……。
あと、間が持たなくなると「念話」で私に話しかけてくることもあるのだが、なんでマオちゃんよりも大魔王に話しかけることの方が、ハードル低いのよ?
いや、私も学園では退屈しているから、問題は無いけどさ。
だから話には、付き合ってあげるが……。
『私は実のところ、勇者と同じ世界から来たのですよ。
だから、あなたの名前の由来も分かりますよ』
『え、本当ですか!?
ボクの名前は、勇者様のお孫さんの名前を受け継いでいるのですが、意味までは分からないのですよ』
『茜は元々、薬や赤紫色の染料を作る材料になった植物の名前ですね。
それが転じて、夕焼けの色として例えられるようになりました。
夕焼けの次に来るのは闇夜……。
闇と向き合うあなたには、相応しい名前でしょう?』
『おお……そんな意味が……!』
アカネは感動に打ち震えていた。
私達の「念話」の内容が聞こえていない傍目からは、「なんだこいつ?」となりそうではあるが、私が困る訳じゃないから放置する。
『ご主人様』
『ん?』
その時、ダリーからの「念話」が入った。
コロロに絡んでいた貴族のことを調べさせていたけど、何か分かったのかな?
『問題はありましたか?』
『そうですねぇ……。
今、王都で凶悪な通り魔事件が、横行しているのはご存じで?』
『ああ……確か麻薬中毒者の仕業だという……。
……つまり?』
『密売に関わっている、家がありました』
それはあかんな。
麻薬の販売は、この国だと最高で死刑だ。
それは貴族でも変わらない。
だが、利益が大きいのか、命懸けでもやる奴はやる。
特に権力者は下っ端にやらせて、いざという時は尻尾切りをして無関係を決め込むという手も使えるので、なかなか撲滅できないようだ。
『証拠は押さえているのですよね?』
『はい、しかし麻薬の製造場所や、密売ルートまではまだ……』
『十分です。
まずはその貴族を捕らえて、直接聞くのがいいでしょう。
クラリスと相談してみます。
あなたは引き続き調査を……』
『ははっ!』
はあ……面倒臭いことになったが、退屈な学園生活の中ではいい刺激かな。
その後、クラリスと話し合った結果、麻薬密売に手を染めたバカヤローな貴族については、私がその邸宅を強襲して制圧することになった。
それが1番手っ取り早いので。
実際のところ、普通を騎士団に踏み込ませた場合、その罪を白日の下に晒すことはできるが、それでは麻薬の密売組織に捜査の動きを察知されしまい、逃げられてしまいかねない。
大規模な組織なら、貴族ですらも尻尾切りの対象なのだ。
だから組織には察知されないよう、極秘裏に事件に関わった貴族の関係者をすべて取り押さえ、奴隷術式を施して言動を制御し、何事も無かったかのように生活させる。
それを知らずに組織が接触してきた時に、組織の方も一網打尽にする計画だ。
捕らえた関係者が組織の全容を知っていればもっと楽だったのだが、誰も詳細を知らなかったので、こういう手段をとるしかなかった。
なお、すべてが終わったら、問題の貴族は当主を処罰した上で、爵位の剥奪……ということになる。
それとコロロに絡んでいた息子は、退学させない方が罰になりそうなので、そのままかな。
身分を失った後に、友人だった貴族の子弟から自身がどのように扱われるのか、それを思い知ってほしい。
その上で真っ当に生きていく気概を見せるようなら、就職先の口利きくらいはしてあげよう。
腐るようならそれまでだ。
ともかくそんな過程を経て、ようやく突き止めた麻薬密売組織の拠点に来ましたよ。
接触してきた組織の人間を尾行した結果、山の中の洞窟に拠点があることが分かった。
山奥で周囲に人もいないので、多少派手にやっても良さそうだ。
そんな訳で、ナユタとアカネを連れてきた。
ナユタはこういうのが好きだし、アカネも実戦経験を積ませるには丁度いい。
逆にクオは使い物にならないので、お留守番だ。
マオちゃん?
マオちゃんはもう夜が遅いから、寝ているね。
身体的には10歳くらいの幼女だもん、夜更かしはさせられないよ。
『さあ、なるべく敵に察知されないように、制圧することを心がけてください』
私はナユタとアカネにある程度は任せるつもりなので、仔ギツネの姿をとっていた。
『じゃあ……ボクから』
洞窟の前には見張りが立っている。
そしてその横には、灯りとなる篝火が──。
アカネはそれに働きかけて、消す。
「な、なんだ!?」
私が教えた影属性の魔法だ。
周囲は闇に閉ざされる。
そこで夜目が利くドワーフのナユタが、突入していく。
突然視力を失った見張りは、抵抗することもできずに、すぐさ昏倒させられた。
しかし暗視スキルの無いアカネは、突入に二の足のを踏んでいる。
『ゆっくりでいいから、暗闇の中で敵の気配を感じ取れるようになりましょう』
「は、はい」
そして私とアカネは、ナユタに続いて洞窟へと入っていった。
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