5 信用が無い
私が忍者スタイルを提案して以降、シファは活き活きとしていた。
まあ、安全圏から「幻術」で敵を翻弄し、手裏剣で狙い撃ちしているだけだから、気が楽なんだろうね。
ちなみに手裏剣は、「硬質化」と「重量化」を付与したもので、見た目以上に重い。
たぶん100kgくらい。
それをシファの「空間収納」の中に大量にストックしてある訳だが、これを魔族の筋力によって全力で投擲すれば、大口径の銃以上の威力になる。
まあ、並の魔物ならば、一撃で死ぬ。
……いや、手裏剣よりも普通に魔法を使った方が、強い場合もあるんだけどね。
ただシファの場合、「幻術」を使いながら攻撃魔法を使うと「幻術」が解けてしまい、自分の居場所が露呈することがあるようだ。
彼女としてはあくまでも、敵から察知されない安全な場所から攻撃ができるという、そんな状態を維持したいらしい。
う~ん、見ようによっては「卑怯」とか「姑息」とか言われそうな戦闘スタイルだから、魔王の娘としての威厳が足りないとも思えるが……。
それでも私から提案したスタイルだから、今更駄目とは言えない。
「調子は良さそうですね、シファ」
「うむ。
なんというか、敵に近寄らなくても良いというのは、緊張しなくて楽じゃのぅ」
まあ、今のシファなら、自身よりも格下の魔物は操れるし、極力戦わなくてもいいというのは戦闘に忌避感を持つ彼女の性格には合っているのだろうね。
しかしそんなシファが、いつまでも逃げ隠れしていられる状況ではなくなった。
80階層が近づいてきた頃、ついにそいつが現れたのだ。
「魔族ですね」
ドワーフ誘拐事件の時にも遭遇した、頭と下半身がヤギ型の魔族だ。
というか現在は、トウキョウ村にも住まわせているが。
彼らと同タイプだと思うけど、心なしか格が上だと感じる。
しかし──、
「ヤギって美味いよな……」
ネネ姉さん、不穏当な発言をしない!
彼女にとっては、餌にしか見えないようだ。
『そうですね……。
美味しそうです』
ココアさん!?
こういう時だけ、意気投合しないでよ……。
とにかく姉さん達に食べられる前に、話をつけておこう。
「ほら、シファ。
待ちに待った、交渉の機会ですよ。
この為にダンジョンを、攻略してきたんでしょう?」
「う……うむ。
アイ殿、代理を頼めるかのぅ?」
「おい……!」
ここにきて、ヘタレるなよ。
「わ、分かっておる。
妾がやれば、いいんじゃろぅ?」
私に睨まれて、シファは渋々と魔族の前へ歩み寄って行った。
『妾は魔王が娘、シファ・ゼファーロリスである。
そなたらの代表者と話がしたいのじゃ。
あ、案内せよ!』
よし、よく言えた。
……しかし魔族の反応は鈍い。
少なくともシファに対して、臣下の礼をとる気配は無い。
これはもしや……。
『逆賊姫か……。
我らが魔族の裏切り者が……!』
『なんじゃと!?
どういうことじゃ!?』
『クジュラウス様から、報告を受けている。
貴様が人間共と結託し、魔族に害をなしていると……!』
あ~、あいつかぁ……。
ドワーフ誘拐の首謀者で、ドワーフ達を使って、古代の人型兵器を発掘しようとしていた……。
ここの魔族にも根回しされていたのか……。
じゃあもしかして、ここにあいつがいるのか?
『騙されるでない!!
クジュラウスこそ自らが魔王となる為に、妾を裏切り、魔族を私利私欲の為に利用しておるのじゃぞ!!』
『それが事実だとして、何が問題なのか。
魔王とはそういうものではないのか?
力無き者に、魔族の未来を任せるよりはマシだ』
『ぬ……!?』
あ~……シファのヘタレ具合は、魔族の間でも有名だったか。
確かにこれまでの彼女の言動を見ていると、指導者には向いていないもんなぁ……。
『それは……そなた達の総意か……?』
『……』
魔族は答えない。
となると、彼だけの考えで行動している可能性もあるな……。
じゃあ、話し合っても無駄かな。
もっと話の分かる者と接触した方が、良さそうだ。
「シファ、そいつは制圧して、先に進みましょう」
「え……妾がやるのか?」
「当たり前でしょう」
ここで活躍しなきゃ、どこで活躍するんだ。
しかしシファがモタモタとしている間に、魔族が襲いかかってきた。
鋭い爪が並ぶその手を、シファ目掛けて勢いよく振り下ろす。
『!?』
だが、魔族の攻撃は、空を切る。
そのシファは、最初から「幻術」だったからなぁ……。
交渉ごとなのに、本人が出て行かないのだから、いい性格をしているわ……(褒めてはいない)。
そして次の瞬間、高速移動したシファが魔族の死角に回り込み、何本もの手裏剣を投げ放った。
明後日の更新は間に合うか分かりませんが、月曜日から少なくとも2日ほど検査入院をします(場合によっては伸びます)。その間は更新できません。




