27 公開処刑
……なるほど。
当初の奴隷解放活動は、ネネ姉さんが主導していたのか。
ただし姉さんの場合、結果的にそうなっただけで、奴隷解放が目的ではなかったはずだ。
邪魔な人身売買組織を潰す、そのついでだった。
そんな姉さんの曖昧な行動にラッジーンは、言葉巧みに誘導して方向性を与えたのだろう。
そして徐々にラッジーンは姉さんの功績を自分自身のものとしていき、最終的には完全に乗っ取ったということらしい。
実際その後の姉さんは、ネコ姉妹と同様に隙を突かれて奴隷契約で縛られてしまい、使役させられていたということのようだ。
姉さんも元奴隷達から持ち上げられて、いい気になって油断していたのかもしれないねぇ……。
助けた相手から裏切られるとは、姉さんも考えてもいなかったらしいし……。
「姉さんも苦労したんだねぇ……。
デザートを食べてもいいですよ」
「マジ!?
やったーっ!!」
と、美味しそうにデザートを食べている姉さんは、その見た目通り子供のようだ。
まあ、実年齢も10代半ばだから、子供と言えば子供だが。
純真な子供を騙すとか、ラッジーン許すまじ!
まあ、元奴隷だったラッジーンにも事情があり、力を得て人間に復讐したいという気持ちもあったのかもしれないけれど、だからといって彼のしたことは許されることではない。
その処遇は、これからクラリス達によって決められるだろう。
おそらく、死以外の結末は無いだろうけどね……。
数日が過ぎて、ラッジーンが王座を追われたという情報は、王都中に広まった。
その間、クラリスは各所で炊き出しを行うことと、治安の回復させる為に騎士団の出動を命じ、それらを復興の手始めとすることで、王都の住民達に寄り添う姿勢を示す。
そのおかげもあってか、彼女は住民達から比較的好意的に受け入れられているようだ。
というか、これまでのラッジーンの政策が酷すぎて、嫌気が差している者達が大多数だったのだろうね。
もう彼以外ならば、誰が王になってもいいという心持ちだったのではなかろうか。
それはクラリスにとって有利な要素だけど、それに甘えてばかりはいられない。
その後私は、「転移魔法」を駆使して、国内の各地に赴き、「ラッジーン政権が終わって、新たにクラリスが女王となる」と、伝えてまわった。
それを聞いて、各地の貴族や有力者は、慌てて王都へと向かう。
一刻も早く馳せ参じてクラリスに協力しなければ、これから開かれるクラリスによる政権での居場所を失うからだ。
逆にここで動かないようならば、クラリスには協力するつもりが無いと、態度で示しているようなものだ。
最低でも王都へ行けない理由を、書状や使者などで申し開きしなければ、クラリスからの心証は悪くなるだろうね。
ただ、自らラッジーンを討つという行為は、人々からは英雄的なものだと思われている……と言えば聞こえは良いが、ようするに武闘派だと認識されている為、表だってクラリスに叛意を示す者はほぼ現れなかった。
勿論、クラリスに忠誠を誓うような態度でも、本音では何を考えているかは分からないが、その辺はアリゼのオーラ視で見抜かれているので、問題のある人物は監視付きの閑職に追いやられることだろう。
で、新しい国の体制がある程度固まってきた頃、ラッジーンの公開処刑が決まった。
王都の広場で行われるそれには、多くの人々が集まってくる。
恨みのあるラッジーンの最期を見届けたいという者も多いのだろうけど、娯楽として見物にきている者も確実に存在する。
実際、周囲には露店も並び、酒も振る舞われているから、一部では酔って騒ぎを起こしている馬鹿もいた。
当然、即お縄だ。
人間って野蛮な動物だよなぁ……という事実を改めて実感するけど、それはもうそういうものだと割り切るしかない。
ここで公開処刑を行わなければ、それはそれでラッジーンの死を望む者達からの不満が鬱積する。
更に公開で行わなければ、彼と取り引きして逃がしたのではないか……という憶測も流されかねないので、そうなると反体制派の人間に利用されるなど、混乱の元になる可能性もあった。
後々のことを考えると、やった方がいいのよね……。
そして私達も、当事者として見て見ぬフリもできないので、希望者だけ出席している。
ナユタはこのような馬鹿騒ぎには興味が無いようだし、アリゼも見て気分がいいものではないと、辞退している。
ただ、クラリスだけは、女王として出席する義務がある。
クラリスにとってラッジーンは、父母の命を奪った憎き相手だが、それでも自らの決定で命を奪うのは、筆舌しがたい複雑な葛藤を生むのだろう。
実際彼女の顔色は、そんなに良くない。
やがて広場に、ラッジーンが引っ立てられてきた。
彼の両手は縛られられ、口には猿轡が噛まされている。
民衆に対して、余計なことを喋らないようにする為だ。
人望の無い彼が何を言ってもそんなに影響は無いと思うけど、大海賊時代が始まるような言葉を残して混乱を生む可能性も否定はできないし。
あと、処刑方法は絞首刑だ。
この世界にはまだギロチンは無いようだが、そのギロチンと並んで身体的苦痛が生じにくい処刑方法だというのはクラリスの情けだと言える。
実際、火刑とかこの世の地獄を味わうことになる処刑方法なんて他にもいくらでもあるが、あえてそれを選ばなかったのがその証明だ。
ただ、その気になれば、毒で眠るように……ということも可能なんだが、それでは民衆の報復感情が満たされないので、ヴィジュアル的に分かりやすい絞首刑が選ばれたという面もある。
絞首台に立たされたラッジーンに、クラリスは告げる。
「あなたに今更、恨み言を言うつもりは無いわ」
おそらくクラリスには、ラッジーンに対して言いたい罵詈雑言が山のようにあるはずだ。
だけど彼女は、それを口にしない。
今民衆の前でラッジーンを口汚く罵る行為は、その威厳を損なうことが目に見えている。
しかしこれまでも彼女は、人の目の無い状況でラッジーンに対して言いたいことを言う機会はいくらでも作ることができた。
だが、何かを言えば反論があるのは必然で、それを聞くのは不快になるだけだということを、クラリスは理解していたようだ。
しかも彼女は、ラッジーンへと手向けの言葉を贈る。
「あなたが国を乱し、多くの民を苦しめたことは許されないことだわ。
しかし奴隷制度を廃止して獣人達を解放したことだけは、歴史に残る偉業となるでしょう。
私も犯罪奴隷以外を廃止する政策を受け継いであげるから、そのことを誇ってあの世へ行きなさい!」
「……!!」
ラッジーンの行為のすべてを否定しないという、度量の大きさを見せた。
実際彼女は、元奴隷として扱われていたネコ姉妹を自身の護衛として採用し、自らの周囲に立たせることで獣人族に対する配慮も見せている。
クラリスの言葉に嘘は無い。
そんなクラリスの言葉を受けて、ラッジーンは何を思ったのだろうか。
反感か、敗北感か、それとも感謝か……。
それを聞く機会は、もう二度と無いだろう。
それが命を奪うということだ。
それからすぐに、ラッジーンは吊される。
まあなんだ……やっぱり見ていて気持ちのいい光景ではないな……。
それでも沸き上がる歓声の中、クラリスの表情が晴れることはなかった。
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なお、今月下旬に検査入院が決まった為、また更新ペースが安定しなくなるかも……。




