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「ふっ、勝ったな」
王都の軍が近づいて来ている。街を守る城壁さえもろくにない金色の聖女の街を前に私は腕組をしてそう言い切った。
「どこをどう見たらそんな結論になるんだ?」
私の独白を聞いてジンが信じられないという顔をしている。
ちなみにアンリシアはダイアモンド公爵と一緒に聖堂にいてもらっている。
「相手は完全装備の王国軍。こちらも軍を用意しているとはいえ、この国では貴族の私設軍は制限されているからそれほどではない」
「なんで勝てるかはちゃんと説明してるはずだけどな~」
「聞いているが、それを素直に信じられたら世話はない」
「信じられないくせに話に乗るとか、それどんなギャンブルよ」
「国のためには乗るしかなかっただけだ」
「あっそ、それなら最後まで信じることだね」
「わかっている」
実際の軍を前にして色々とビビっちゃっているジンなのであった。
「じゃ、事前の作戦通り、なるべく街に引き寄せて戦うようにね。間違っても引きずり出されたらだめだよ」
「こんな街で籠城もなにもあったものじゃないが……」
「だから住民は避難させてあるでしょ」
こっちの作戦は簡単明瞭。
王都軍を街に、というか聖堂に引き寄せて魔女の呪いを抜いて正気に戻そうぜっていうだけの作戦です。
奴らが正気に戻っても王様の命令で戦い続けたら残念賞。
そのときはレインちゃんの無敵ゴーレム兵団がお相手するよ。
アンリシアの敵は全て駆逐するのである。
でも、できれば政権交代は自分たちでやって欲しいよね。
王都軍はこちらが街から出て来ないものだから整列して近づいてくる。
そのまま街の中にまで入ってくれたらしめたものだったのだけど、さすがにそうはならなかった。
「ダイアモンド公爵! 出てこい!」
ダインの声が空から降るように響く。ミームの魔法で拡大され、音の発生場所を操作されている。
私も同じことをしてジンに喋らせる。
「父に代わり、このジンがお応えする!」
「ジン、此度の所業、なんのつもりか!?」
「なんのつもりもない! 領民を守るため、最善を尽くしているのみだ!」
「だがそれは我らが聖女を裏切ることになっている!」
「その聖女……いや、ミームこそが我らを裏切っている!」
「貴様! 聖女を呼び捨てにするか!?」
「ミームに聖女の資格なし!」
「なにを!?」
と、言い合いが子供の口喧嘩の様相を呈し始めたので放置してダインの隣にいるミームを見る。
「は~い」
「…………」
ひらひらと手を振ったらすごい目で睨んできた。
いや、その目は聖女がしたらあかん奴だと思うよ?
「レインさん、どうしてこのようなことをするのですか?」
「その理由はもう話したはずなんだけどね」
話を聞かない奴って面倒だよね。
「邪魔な奴を追い出すための完治の言い訳を用意しておかなかったのが、ミーム様の失敗だね」
「あなた如きがこの私に勝てると思っているのですか?」
「もちろん」
「民草にこびへつらって生き延びているだけの魔女がこの私に?」
「腐臭塗れのババアどもの恨み言から逃げることもできないヘタレがこの私に?」
突き刺さる殺意を嘲笑で跳ね返す。
はた目には火花が散っているように見えているかもしれないけど、こんなものはただの言葉遊びだ。
何を言ったところでこの先でやることは変わらない。
話し合いの段階なんてとっくにすぎているわけで、うちの方が正しいんだと胸を張るだけ。
「もはや言葉は尽きた!」
ダインの魔法で覚醒された声がうるさい。
「こうなれば剣によって雌雄を決すのみ! 出撃!」
「我らには金色の聖女がいる! あのお方を守ることがこの国の未来を守ることとなるのだ! 愚王を倒せ、聖女を偽るミームを倒せ!」
お互いの軍が鬨の声を上げて衝突する。
とはいえこっちは受けて立つ方だけど。
「じゃっ、ミームと他の魔女は私が相手するから」
「任せる。大丈夫か?」
「とりあえず、サンドラストリート出の魔女は保護したいけど……」
ああ……あの人らがここにいるのって絶対にサンドラ婆さんの手引きがあったりしたんだろうな。
帰ったら絶対に嫌味を言ってなにかを分捕ってやる。サンドラ伝承の魔法とか薬のレシピとか。
「まっ、なるようになるでしょ」
魔女の箒をひっ掴んで、空を行く。
王都軍の頭上をすり抜ける。
気付いた連中の少数が弓矢で射落とそうとして来るけど無駄。そんな程度を対策していないとでも思ったのかね。
「爆撃しないだけありがたく思いな~はははははは!」
びっくりしてる兵士たちの顔が面白くてついつい笑ってしまう。
「そして渾身のひき逃げアタック」
「ひぐあっ!」
白衣の魔女集団の一画に突撃してみたら一人だけ逃げ遅れて箒の柄でわき腹を突かれて吹っ飛んでいった。
南無~。
ピクピクしてるおばちゃん魔女に祈りを捧げ、他の魔女たちと向かい合う。
「さてさて~? まだ正気じゃないのかな?」
「レイン、どういうつもりなのですか?」
「うん、正気じゃない確定。なら言葉は不要!」
ジェライラの問いは無視する。誰に聞かれたって答えない。
すでに大元のミームとやり取りしてるのに洗脳済みの人相手にそれをするのなんて時間の無駄。
「さあ、先達方、面白い魔法を見せてちょうだいよ」
「ええい! あなたたち、やりますよ!」
ジェライラの合図で魔女たちが魔法を使う。
戦いが始まった。
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