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金色の聖女の噂がサンガルシア王国に広まったのはすぐだった。
ダイアモンド公爵領に現れたその聖女が浄化した土地に住むことができれば、もはや二度と疫病に罹ることはないのだという。
その噂は治療薬が出回りやすい王都近辺の人々からの反応は薄かったが、そうではない地方の人々の反応はすさまじかった。
瞬く間にダイアモンド公爵領を目指す人々の列が出来上がった。
金色の聖女によって浄化された土地は徐々に広がっており、受け入れ人数も日々増している。
それだけでなく、彼女は独自の治療薬を開発しており、それを土地に入れない人々に配っているのだという。
それによって入れない人々の不満は解消されている。
その治療薬の効果も素晴らしく、また一人に複数個配っているので長く健康な状態を維持することができる。
「高笑いが止まらないね」
「やけに見えるわよ」
私の作った工房……いまや『金髪の聖女の聖堂』といわれている建物の中心で、これまでの成果にニマニマしていた。
作戦が成功したせいでめちゃくちゃ忙しいけどね!
いやぁ……藁を掴もうとする溺れる者の多いこと多いこと。
いや、どっちかというと蜘蛛の糸の方かな? ただし先頭を昇っているのはとっても優しいアンリシアなので他を振り払うことはない。糸が切れないように頑張れお釈迦様!
「っていうか、この場合のお釈迦様は私か?」
「なんの話?」
「ううん、なんでもない」
あっちの世界の文豪の話をしても仕方がない。
私は特別製のでっかい魔女の鍋から出てきた大量の薬を箱に移す。
「はいこれ明日の分」
「ご苦労様。でも、本当に大丈夫?」
「材料の方なら軌道に乗ってるから、いまの量を維持するだけなら余裕だよ」
薬草温室も全力稼働。管理の精霊王たちも私の魔力を食べて元気いっぱいだ。
暇つぶしも兼ねた隠しダンジョンでの神酒制作ステータス上げがいまの余裕を支えているんだから人生何事もやっておくものだよね。
「いえ、それもだけどあなたのことよ、レイン。無茶してない?」
「ぜんぜん大丈夫だよ。アンリこそ大丈夫?」
「わたしなんてみんなの周りで表情を取り繕うだけだもの。そういうのは社交界で慣れているわ」
「なら、お互い余裕ってことだね」
「まぁ……そうね」
「ならこのまま、余裕で王国を打倒しよう」
「いいのかしら?」
「いいんじゃないでしょうか?」
そんな感じで王都にいた時にはないゆるい感じで私たちは笑い合う。
「まったくよくはない」
なんて苦い顔で私たちの夕食の席に邪魔してきたのは次期ダイアモンド公爵家跡継ぎのジンだ。
ちなみに次の王様にする予定の人物でもある。
「大量に流入して来た民のせいで食糧問題が発生している。他の領から買い取ってはいるがあまりいい顔はされていないぞ」
「そこはがんばれ政治力。未来の王様の手腕を見せてみろ」
「まったく、好き勝手言ってくれる」
「こっちはこの国の問題の根本に手を突っ込んでるんだからそれぐらいはやってもらわないとね」
「……まぁ、あのままミームの傀儡にされているよりはマシだっただろうがな」
疫病……古代の魔女の呪いに侵されて意識を乗っ取られていた人々の中からジンは解放されている。
特にジンたち貴族は自覚症状のないまま深いところまで侵食されていたので、解放されてすぐに自分が操られていたことに気付いて愕然としていた。
それはジンの家族たちも同様だ。同じように呪いから解放してあげるとすぐにいまの状況に気付き、アンリシアとジンの説得ですぐに味方になってくれた。
もちろん、自分の家が王家になるということに対する欲もあると思うけどね。
私たちはこの国を魔女の呪いから解放する。
それは別にこの国のためではなくて、自分たちのため。
私たちが大きな顔で国に帰るためだ。
「で、問題はそれだけ?」
「もちろん、それだけじゃない。なにもないところにいきなり大量の人が集まってるんだ。食糧問題だけじゃなく、住居に衛生に治安に……問題は山積みだ」
「がんばれ」
「あああああ! この魔女、殴りたい!」
「あはははは! 残念だけど身体能力でもジン君より上なので」
「チクショウ!」
「ええと、ジンさん、性格が変わっていますよ?」
「こんなのに付き合って真面目な態度など通せるか!」
「ああ、衛生問題はなんとかしてあげる」
「なにかあるのか?」
頭を抱えて発狂しそうだったジンがバッと顔を上げて私を見た。
すがるような視線とはこれのことといわんばかりの目を私はドヤって受け止める。
「処理場作ってあげるよ。そこに捨てといてくれれば後は私がなんとかする」
「なんとかできるの?」
「森で暮らしていた頃に作っていたのの応用でいけるね」
アンリシアの質問に頷く。
生きてたら出てくる色々な物。
一人暮らしだったんだから量も知れていたわけだし埋めればそのまま土に還っただろうけど、そこはあっちの世界の衛生状況を知っている身。生理現象の度に穴掘るのも溜まったのを処分するのも嫌だったので色々と知恵を凝らしたよ。
魔女の鍋でいろいろ作ってると一けた台の%で失敗が起こる。
その時に出てくるのは捨てるしかない廃棄物がほとんどなんだけど、たまにモンスターが出てくる。
代表的なのはスライムだ。実際にスライムで汚物処理っていう方法もあるし、私が暮らしていた時はこっちを採用していたけど、あれだと成長過多になったスライムの処分が一般人には不可能っていう問題があるので今回は見送り。
今回は廃棄物を処理するときに見つけた方法を採用する。
「そこでこいつの出番」
じゃじゃーんと出したのは小瓶に入った薬品。
「それは?」
「魔女なら誰でもおなじみ触媒薬」
触媒薬は初心者魔女が魔女の鍋で何かを作るときに使う薬品だ。素材同士をかけ合わせる時の助けになる。
ゲームだと必要素材だったり、完成確率を上げたりするのに使ったりする。
だけどそういう用途でだしたわけではなく……。
「これをね、生ごみとかにかけとくとね、数日以内にいい感じの肥料に変わるから」
「なに?」
これ、発見したのは森で暮らしていた頃だった。ゲームの中では意味のないことだからそういうこともあるんだろうなと気にしなかった。サンドラストリートで工房をもらってからも誰もその話をしなかったけど、そもそも王都の中で畑仕事なんてしないからなんだろうって思ってた。
でも、アンリシアとあちこち移動するようになって、そもそもそんな用途で使ったりなんてしないことがわかった。
考えてみれば納得する部分もある。
サンドラストリートがあって魔女にも多少は馴染んでいるマウレフィト王国でも村で黒髪に変わった女性は放り出されてしまうのだ。そんな連中が最初の頃の私みたいに一人で山野を生きているときなら触媒薬で肥料を作るぐらいなら別の何かを作った方が自分のためになるし、サンドラストリートに行けばそもそも畑のことなんて気にしなくなる。
もしも他の誰かが気付いていたとしても、自分を追い出した村のためになるようなことを率先して教えたくなんてないかもしれない。
「まっ、そんな哀しい背景なんていまはどうでもいいわけで」
説明していたらアンリシアは哀しそうな顔をするしジンはなんとも言えない歪んだ顔をしたので、私はそう落ちを付けた。
「なんなんだ!?」
「つまり、私が言いたいのはこれを大量生産させればゴミ問題は解決するし、畑の肥料が手っ取り早く手に入るしでいいことづくめってこと」
あ、コストのことは知らないけどね。
まぁでも、薬草温室まであるような工房持ちの魔女がそれなりにいれば、触媒薬を作るのに困るようなことにはならないんじゃないかな?
「あんたが王になっても魔女を受け入れる気があるなら、こういう使い方もあるよってことで。とりあえずここでは私が作ってあげるよ」
「う、うむ……」
アンリシアになにを話していたかは知っている。
そんなジンにこんな話はどう受け取られるやら。
まっ、知らんけどね。この国の将来なんて。
そんなことまで責任持てるかって話だよね。
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