56
やってやったぜ。
遂に完成した空飛ぶ箒。
これで魔女による宅配業をいつでも開始できるぜ。落ちてくる眼鏡小僧をキャッチアンドリリースしてやるぜ。
いまのところ宅配業を開業する気はないけどな。
「なんで、箒じゃないとだめだったの!?」
風の音に負けないようにアンリシアが声を張り上げる。
「様式美だから」
「いまできたばかりなのに!?」
彼女のツッコミが面白くて私は笑う。
いま、私は最高に機嫌がいい。
色々とやり込められて鬱屈していたのはつかの間。その後はアンリシアがちやほやしてくれていたのですぐ回復して、二人で脱出するために仮病で部屋に籠もってこの空飛ぶ箒を開発したのだ。
正確にはこの箒だけで飛んでるわけじゃなくて、魔法との併用だけどね。
ともあれ、私たちは空を飛んでサンガルシア王国の王都を脱出した。
「このままマウレフィト王国に戻る手もあるけど?」
「だめよ」
すでに何度か話し合って結論は出ているのだけど聞いてみる。
いざ空に出たら里心が湧くかもと思ったけどだめだった。
「レインは大丈夫だと言ってくれるけど国の人たちがそれを信じるかは微妙でしょう。国に帰った時の私たちの扱いのためにも疫病問題は解決するか、真相を白日の下に晒さないと」
「そだね」
だけど、疫病を解決するためのキーアイテムはなかった。
失われたのか奪われたのかわからないけど、ゲームの時と同じようにこの国を攻略することはすでに不可能になったのだと考えるしかない。
「だけど、だからって負けると決まったわけでもない」
こっちにはアンリシアがいるんだから。
「うっふっふ~アンリシアには切り札になってもらうのだ」
「その作戦なんだけど、本当に成功するの?」
「大丈夫だって。世の中実利があれば黒だって白になる。この国の聖女様がそれを証明してみせたでしょう?」
「それはそうだけど」
「というわけで、まずは本拠を獲得しないとね」
その目当てはもう付けているのだ。
そんなわけで、外に出たと思わせて戻ってきました夜の王都なのだ。
だけど侵入するのは城ではなくて他の人の屋敷。
寝室に侵入。
「誰だ!?」
寝てた奴が気付いた時にはもう遅い。
「ふがっ!」
その口に黒い丸薬を放り込む。
「ごごご……」
あっ、喉に詰まってる。
水溶性が高いから唾液だけでもすぐ溶けるんだけど寝起きだから口の中乾いてるのかも。仕方ないから持っていた水筒で水を飲ましてやる。
「な、なんのつもりだ! 魔女!?」
「まぁまぁ怒らない怒らない」
「貴様、城を破壊して逃げ出しておいて、なんの用だ?」
「そんなことより、いつもより体が楽になったと思わない?」
「なに? むっ……そういえば」
私の言葉に驚いた男……ダイアモンド公爵の嫡男、ジンが胸をまさぐる。
「かすかな呼吸の不全、胸のつっかえた感触、時折ある注意散漫。聖女の治療薬を飲んでも消えなかった症状が完全に消えているでしょ?」
「っ⁉」
驚いたってことはその通りなんだろうね。
「き、貴様、もしや」
「ミームよりもすごい治療薬、できてるよ」
「おっ……うおっ」
驚きで声も出ないジンに私はにやりと笑う。
別に驚くことでもない。
アンリシアに飲ませていた薬なんだから。
あれは体に入り込む古代の魔女の呪いを追い出す薬だ。
そして、この国に蔓延した疫病は古代の魔女の呪いなんだから、それを追い出してしまえば疫病が治るのも当然。
ミームの治療薬はあくまでも症状を誤魔化しているだけだ。
「でも、私が開発したって言ってこれ、世に出せると思う?」
「む……」
「ミームの座を奪うようなことをして、ダイン王が良い顔をするかな?」
「たしかに……」
「それに、この薬を飲んで治しても疫病の根本を解決しないとまたかかるよ」
「なにっ!?」
「だからさ……」
と、ごにょごにょと耳打ちする。
「なっ!?」
「どう?」
「な、なにをバカな……」
「野心はないの?」
「ぐっ……」
「本物の治療薬だけじゃない。この国の疫病そのものさえも解決できるんだよ。英雄間違いなしだ」
「それは……」
「このままだとあの聖女に国は好き勝手にされる。疫病が抜けた今なら、それがよくわかっているんじゃないの?」
「…………」
「私たちに協力してくれたらあなたとあなたの家がこの国を救ったってことになるんだけど?」
「ぐぐっ!」
「さあ、どうする? あなたが手を組んでくれなくても、私たちは勝手にやる。だけどそのときにはもうあなたの座る椅子はないと思っておいた方がいいんじゃないかな?」
「……貴様こそが、本物の魔女だな」
「ありがと。なにしろサンドラストリートの出なもので」
にこりと笑ってみせたけど、ジンにはレインちゃんの魅力は通用しないようでした。
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