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ヒロイン剥奪! ~オープニングで悪役令嬢を落としたらストーリーから蹴りだされました~  作者: ぎあまん


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50 続々アンリシア視点


 ジン・ダイアモンドは聖女を魔女と呼んだ。

 聖女を嫌う勢力があることは別にいい。

 それに対して排除の動きがあったとしても別にいい。

 一つの考えに対して反対の姿勢を示す存在があるのはむしろ健全なことであると父親から教えられている。


「それでどうして、わたしが王妃にならなければいけないんですか?」


 場所を変え、いまは城内にある騎士団の事務室内の応接室にやって来ている。


「疫病問題が片付けばサンガルシア王国という存在は隣国にとって大きな商機となるだろう。その優先権を手に入れることができると考えればどうだ?」


 サンガルシア王国は大国だ。

 それ故に長い間、国境を閉じた状態でも人々は国内での交易でやっていけている。

 だが、困っていないわけではないのだろう。

 お茶会をいくらか巡ったが茶菓子はやはり質素だったし流行が止まっているためか令嬢方のドレスも古いままの人もいた。生活必需品はどうにかなっているが、嗜好品の高騰は続いているのだろう。

 そこに海外からの供給が再開すれば、たしかに初期の頃は自国で消費するよりも高値が付くことだろう。

 その時に勝利するのは国境が開かれた時にどこよりも早く商品を用意できた商人とそれに協力した国家だろう。

 アンリシアが王妃となることでマウレフィト王国がその甘露を手に入れることができるというのならば、それはたしかに魅力的かもしれない。


「紙上に兵を談ず、でしたかしら?」

「む?」

「机上の空論でもかまいませんが、未来を見据えるのは結構ですが、その前に疫病の解決方法は見つかっているのですか?」


 アンリシアの指摘にジンは険しい顔で黙った。


「未来を語るにしても少し見通しが甘すぎるのではないでしょうか?」

「この話は気に入らないか?」

「わたしの身柄を金貨を積んで済ませようというその魂胆が気に入りません」


 向こうはなにも言っていないが、これは状況次第ではアンリシアに対して行った不手際を『王妃にするから勘弁してくれ』とする賠償行為にもなりえてしまう。


「疫病解決後の特需は確かに魅力ですが、しょせんは一時的なもの。なにより聖女方の移動を強制するようなこととなれば、それは不満の種をマウレフィト王国内に移動させるということにもなりえます」

「…………」

「ばかばかしすぎて一考にすら値しませんね」

「魔女たちの引き受けを認めてくれるのであれば、我が国はさらなる譲歩を引き出せるだろう」

「……お断りします。お話はそれだけですか?」

「そうだな」

「では部屋まで案内していただけませんでしょうか?」

「わかった」


 ドバン!


「おっとそれには及ばない!」

「レイン!」


 応接室のドアがいきなり開き、レインが入って来た。


「迎えに来たよ~」

「よくここがわかったわね」

「レインちゃんのアンリセンサーは完璧だから!」


 センサーってなんだろう?

 レインの言葉はときどきわからない単語が出てくる。

 いままでは雰囲気で理解できていたから聞き流していたけれど、これも彼女の前世だという違う世界の単語なのだろうか。


「貴様! どうやってここに入った!?」

「アンリのいるところレインちゃんあり!」

「説明になっていない!」

「普通にドア開けて来たに決まってるじゃん?」


 なにを当たり前のことを? という顔をするレインの後ろで慌てた様子の騎士たちがやって来る。

 あっ。


「いいのです」


 このままレインに主導権を任せておくと大変なことになりそうだ。

 あれは怒っている顔だ。

 このまま放っておいたら侮辱しつくした末に力で圧倒とかし始めてしまう。

 そうなる前にアンリシアは立ち上がった。


「レイン、帰りましょう」

「は~い」

「ジン様、ありがとうございました。レインが戻ってきましたのでここまでで結構です」

「む……」

「この国の事情に深入りする気はありませんが、わたしたちは帰国するために精一杯の努力をしたいと思っています。そのことはご承知ください」

「……承知した」


 他の騎士たちが聞いている場所で彼も迂闊なことを口にする気はないらしい。

 それはつまり、彼の意向が騎士団に浸透しているわけではないということでもある。


(聖女を都合よく排除したいと思っているのは年配の貴族連中のみ。そしてミームの企てを彼らが知っているわけでもない……そういうことでしょうね)


 もし、ミームの正体を知っているか、あるいは疑っている節でもあれば彼を味方に引き入れることもできたかもしれない。

 だけど、そんな様子は少しも見せなかった。


「大義名分が必要なのよ」


 自室に戻ったアンリシアはソファに座ると招き寄せたレインの頭を抱えた。


「アンリ?」

「あなたの知っている真実を誰にでも理解できる大義名分にできなくては、なにもできない」

「全部燃やしちゃう?」

「それだと、レインが悪者になっちゃう。だめよ」


 レインが悪者になるのなんて許されない。

 あの日、あの森の中でレインが語ったこと。

 彼女の知る未来ではアンリシアはここにはいないということ。母は眠りから覚めないまま死に、アンリシアは魔女を憎み、レインを憎み、そしてあの怪物と化してしまった魔女サリアの運命を本当はアンリシアが辿るはずで、そして死んでしまっていたはずだということ。

 なにを馬鹿なと言いたいけれど、もしもあのときレインと出会えず、母が死んでしまっていたらアンリシアは犯人を通して魔女を憎んでいたかもしれない。

 レインとこんなに仲良くなることもなく、それどころか敵対してしまっていたかもしれない。

 レインが王子の物になっていたかもしれない。


(それは……いや)


 ぎゅっとレインを抱きしめる。

 この国で起きるという物語なんてどうでもいい。

 アンリシアにとって大事なのはレインと一緒に帰るということだけだ。

 だけど、だからといって悪者になる気はない。

 なんとかしてそれを見つけないと。

 だけど、どこにそれがあるのだろうか?

 アンリシアにはわからなかった。




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[良い点] もう本当レインとアリンシア尊い!
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