38
獣皮の下に隠れていたのは土巨人だった。
ゴーレム?
……ではなさそうだけど、それならなに? と聞かれるとわからないと言うしかない。
「天然物のゴーレム? なんだそれ?」
土の精霊っぽいかな?
地中に埋まっていた岩やそこらの木々を巻き込んで土巨人は全身を形成していく。
とはいえ完成を大人しく待っている義理はないわけで……。
【剣の王をここに】
現れた巨大な剣が完成したばかりの土巨人の胸に突き刺さる。
が、さすがに土なだけあってこれだけでは倒れない。
【剣の王をここに】
さらに四本の巨剣を召喚して腕を切り落とし胴を薙ぎ、とどめとばかりに額に突き立てる。
「これでどうだ? ってね」
「…………」
フラグな台詞をあえて言ってみる。
だけど、さらにパワーアップしたとか無傷だったとかいうことはなく、土巨人はそのまま崩れていった。
少しだけ待ってみたけど復活することもなく、かといって気配が他に動いたとかいう様子もない。
「倒した? 逃げた?」
どっちの感触もないのでいまいちしっくりこない。
「……まっ、近づいて来なかったらそれでいいか」
そういうことにしておく。
アンリシアも待っていることだし、ここでじっとしていても仕方がないので戻ることにした。
「ああ、レイン、どうしよう!?」
帰ってくるとアンリシアが慌てていた。
「どうしたの!?」
「竜さんがずっと苦しんでるの!」
「苦しむ?」
竜のお尻を確認してから前に回る。赤竜女帝は赤い鱗を器用に青褪めさせて唸っていた。
「どったの?」
「つ……」
「つ?」
「卵が詰まったのヨン」
「え? 卵?」
「鶏か」
「卵生なんだから仕方ないでしょ!」
「それで、どうすればいいわけ?」
「ちょっとお腹を撫でてくれたらいいから」
「ああ、よかった」
直接卵を引っこ抜いてと言われたらどうしようかと思った。
「……目玉を抜くとか言ってたくせになにビビっているのよ」
「いやぁ。戦いと医療はねぇ、似てるようで違うと思うの」
生かすも殺すも同じとか言う意見もあるけど、やっぱりねぇ。壊れてかまわない前提と壊したらだめは違うよねぇ。
「……卵? 卵なの?」
あ、アンリが赤ん坊見れなくてショックを受けてる。
ううん。かわいそうだけどいまは放っとこう。
「どう? こんな感じ?」
「ああ! そうそう! そんな感じ……ああ! そこら辺で詰まってる。グリグリして!」
「変な声出すのやめてくれない?」
「そんなこと言われてもむぅぅりぃぃぃ……ああぅん!!」
おっさん声のメス竜による艶声なんてどんな罰ゲームだと思いながら助産めいたことをする。実質お腹を撫でているだけ。
意識が遠くなりそうな気分になっていると、最初の一つが飛び出してきた。
「ああん!」
一際やらしい声を放ったかと思うと私の手をグーにしたぐらいの卵が次々と生まれ始めた。
「あっ! アンリ、容器!」
「へ? あっ!?」
茫然自失だったアンリシアが私の言葉で我に返り慌てだす。
そこまで赤ん坊が見られなかったのがショックだったのか。
アンリシアは荷物から容器を取り出すと赤竜女帝の目から零れだした涙を採取することに成功した。
「ふあああああん……」
赤竜女帝も勢いがついたらしくどんどんと卵が産まれていく。
「卵……なのね」
「うう……まぁ、そうなんだよね」
「知っていたの!?」
「いや、まぁ……文献で?」
涙目で睨まれて気まずく目をそらす。
「教えてくれたらよかったのに……」
「あそこまで楽しみにされたら、さすがに言いにくいと申しますか」
「教えてくれたらよかったのに……」
「いや、あのね……」
「教えてくれたらよかったのに……」
「すいませんでした」
「……許してあげます」
むくれたアンリシアも可愛い。
「ふう……すっきりした」
にまにまとアンリシアを鑑賞していると赤竜女帝は産卵を終えたらしい。疲労はなく、むしろ清々しささえ漂わせていた。
「ていうか、こんなに卵があるのになんで竜は少ないわけ?」
私は山と積まれた竜の卵を見て思う。
山と積まれた卵はゼリーのようなものに守られている。蛙か。
「まだこれ無精卵だからなのよ」
「は?」
「これからこの子たちは長い旅をして運よくオス竜に出会えたら受精するの」
「魚か」
「竜は全ての生命の頂点よ。他が竜の真似をしているの」
なるほど、そういう言い方もできる。
「そうそう。お礼よね。あなたたちにはこれを上げる」
そう言って赤竜女帝は尻尾の先を卵の山に突っ込むと一つを掴んでアンリシアの前に持っていった。
「え? 卵を?」
「食べろと?」
「え! それはちょっと……」
「違うわよ!」
卵は好きだけどそこそこ会話をした相手のを食べるというのはさすがに難易度が高いよね。
「そうじゃなくて……竜の卵は無精のままである程度過ぎると精霊になるの」
「精霊!?」
アンリシアが手の上にある大きな卵をまじまじと見る。ゼリー状のものがまだ付いていてバッチィ。後でちゃんと手を洗わせなければ!
「側においておけばあなたの魂に馴染んで、あなたのための精霊になるはずよ」
「あ、ありがとうございます」
「いいのよん。それじゃあ、魔女ちゃんにも……あら?」
またも尻尾の先を卵の山に入れてごそごそしていた赤竜女帝だが、掴みだした卵を見て顔をしかめた。
「あららん。こんなのが混ざっちゃってたのね。かわいそうだけど……」
「待った!」
それを見て、私は赤竜女帝が卵を潰そうとしているのだと気付いて止めた。
「それ、欲しい」
「あら? 魔女ちゃんはこれが何か知っているの?」
「知ってる」
「……悪だくみしない?」
「しないしない」
「ほんと~?」
「ほんとうほんとう」
「う~~~~~~ん……まぁいいか。はい」
「やった!」
渡された卵のべっちょり感も我慢できるくらい、嬉しい。
私の手に載せられたのは、他とは違う真っ黒な卵。
精霊の守護は惜しいけど、もしかしたらこっちの方がもっとすごいものになるかもしれない。
ていうかこれぞ『勝った! 第三部完!』だ!
まだ第二部も始まってないけどな!
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