33 第二部・聖女の国編
この世界には魔女がいる。
偶然に選ばれ、髪と瞳を夜に染める女性たち。
不思議な力を宿し、特殊な物品を生み出す人々。
……それが魔女。
故に、人々から恐れられ、迫害された歴史を持つ。
いや、それは今も続いている。
マウレフィト王国では少しはマシになっている。
なりつつある?
関係がよくなることはいいことよね。
私の名前はレイン。
マウレフィト王国のサンドラストリートに工房を持つ魔女。
前世の記憶? みたいなものを持っていて、この世界が私の記憶にあるゲーム『サンドラストリートの小魔女』と同じだと確信している。
だって隠しダンジョンと隠し工房を最初に見つけてしまったし、登場人物もいるし、そして私のレインという名前。
これはこのゲームの主人公の名前だ。もちろん変更可能。でも、変更すると音声が付かなくなるから私は変えなかった。
「お前」とか「君」とか「あなた」とか呼ばれるより、名前で呼ばれる方が気持ちいいよね。たとえそれが本当の自分の名前でなかったとしても。
まぁいまは本当の名前になっちゃったけど。
「ねぇ、レイン」
「うーん?」
ガタンゴトンと揺れる馬車の中で、私は名前を呼ばれた。
呼んだのはこの馬車の持ち主で私の友達……うん、友達。将来的には……どうかなぁ。いい感じにしたいなぁ。
そんな私たちはいま旅をしている。
「私たちの旅も、それなりに長くなったわね」
「だねぇ。そろそろ半年になるかな?」
目的はサリア・ブロウズを治療するための素材を探すというもの。
彼女は悪魔の種というアイテムによってモンスター化してしまった。
それを治療するための薬は既存のものではだめで、特殊な素材が必要だということで私と、そして同じ馬車にいるアンリシアとで旅をすることになった。
それからだいたい半年。
十六歳になりました。カボチャパンツを卒業するまで後一年。
「次の素材が最後なのよね?」
「そうそう。一番面倒かも」
「たしか……赤竜女帝の涙、だったかしら?」
「知ってる? 赤竜女帝?」
「それはもちろん。この国では有名でしょう?」
赤竜女帝、クイーンレッドドラゴン。
マウレフィト王国とその近辺の国々の空を回遊する。空の支配者。
人間に対して敵意がないから襲いかかって来ないけれど、竜の素材は薬にも魔法道具や武器防具などと万能の大活躍をするものだから狙って来る狩人には困っていないという話も聞く。
で、そいつらを美味しく食べているという話ももちろん。
実際に竜が使えるのは事実だからね。でも、あれより強い竜王も食べたことのある私としてはあえて素材が欲しい相手でもない。
……のだけど、今回はこいつが必要。
なにしろ赤竜女帝の涙って指定されてるからね。
そして、その赤竜女帝がこの時期に居座っているのはこの辺り。マウレフィト王国の西部にある山岳地帯。
「しばらくはぶらぶら山の中を探さないといけないかもね。あーめんどい」
他の素材もそれなりに面倒だっただけどわざわざ竜を探しに山に入っていくとか正気の沙汰じゃないよね。
竜なんて隠しダンジョンに入ればすぐに遭遇できるのにね。
わざわざ個体を指定してくるとか、意味が分からない。
「そんなわけでしばらく山籠もりすることになるから、アンリは暇なら王都に戻っていてもいいよ」
本格的な山籠もりは私も初めてかもね。魔女になりたての頃は森で暮らしていたとはいえ、隠し工房っていう家があったわけだし。
ガチソロキャンプか。
野宿の経験はあるからな~。テント持ってっても地面が硬いのは変わらないし……。
体、ガッチガチになるな~。
ああ、うんざり。
「ねぇ、最初の約束をやぶることになるんだけど……」
「約束? なに?」
はて? なにか約束したかな?
「現場には近づかないという約束」
「ああ! うん。したした」
素材探しの旅に出る時にそういう話をしたね。危険なところには近づかないって。
ていうか、普通にそういう行動してたから約束っていうのではなくて、なんかもうそういう二人の決まり事? みたいになってた気がするな。
あ、決まり事って約束か。
「うん? それを破るって?」
どういうこと?
「わたしも一緒に行ってもいいかな?」
「なんと!?」
そういうことを言い出すとは思わなかった。
アンリシアって優等生だから、一度決めたら決まり事は破らないイメージがあったんだけど。
「なんで?」
「だって……たまにはレインが活躍しているところをちゃんと見たいなって」
そう言って少し恥ずかしそうに俯いているアンリシアはとても……。
「うん、可愛い」
「え?」
「アンリはとっても可愛い。もう犯罪的だね」
「な、何を言い出すの!?」
「だって……」
考えようと思えばもっともらしい理由なんていくらでも思いつきそうなのに、あえて本心を素直に話すところなんて、本当に貴族? って感じで可愛い。超可愛い。
しかも元が正統派美人だからもうあらゆることが許される犯罪的な可愛さだよね。
「うん、全然オッケー。一緒に行こう。大丈夫、アンリを仇なす全ての敵は叩いて砕くから! レインちゃんにおまかせ!」
「いや……うん、ありがとう」
なんか最後はちょっと引かれた気がする。
でもそんなことは気にしない。それがレインちゃんのいいところです!
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