ガーディアンと切り込み隊長
・・・こうして、レイナが鮮烈なデビューを飾った訳だ。
「はぁ、本当にさっきはどうなるかとおもちゃったよ・・・」
「レイナが挑発するような事言うからさ・・・」
先程の回想をして、僕はため息が出てしまう。
結果的にレイナの同行が許されてよかったけど、後ろで見ている僕はずっとヒヤヒヤさせられっぱなしだった。
「うん、まあ・・・流石に私もちょっとずけずけ言い過ぎたかなと反省している」
「だけど、私も必死だったのよ。置いていかれるなんて絶対嫌だったし!」
「もう、言いたい事全部言ってやろうと思ってね・・・そしたら止まらなくなっちゃってさぁ」
頬をポリポリと掻きながら、レイナが苦笑いを返してくる。
すると、隣にいるヴァネッサさんが笑みを浮かべながら、楽しげに言ってきた。
「あはは!あれくらいで私は良かったと思うけどね?」
「ヘルマンの奴って頭固くてさぁ、融通効かない所あんのよねぇ~」
「情に訴えても絶対に折れない奴だから、これからも遠慮せず、ガツンと上から正論叩きつけてやった方がいいわよ?」
「その意味じゃさっきのレイナの答弁はもう、パーフェクト!」
「私はあいつの頑固さに辟易していたから、さっきのレイナの答弁聞いてすーっとしたわ♪」
「これからもあいつが意固地こじらせた時は頼むわね?」
ヴァネッサさんはそう言って中腰で前かがみになる。
そのまま、防護カバンから身を出しているレイナを優しく抱きしめた。
白ローブに山なりの輪郭を作っている豊満な胸がお人形サイズのレイナを丸ごと包みこむ。
ぎゅうう・・・
「ちょっ・・・ちょっとヴァネッサ!」
「くるしいって・・・!」
「うふふ・・・かわいいわね♡」
「これくらいスキンシップしてもいいじゃない。女同士なんだし♪」
そう言ってヴァネッサさんはレイナを自分の胸に抱き寄せながら、その背中を何度も撫でる。
彼女の胸の中でふがふがと息するのも苦しそうに声を上げるレイナ。
はは、何かこの光景新鮮でなごむなぁ~・・・
まるで子猫をあやすようなヴァネッサさんの可愛がりに、見ている僕も思わず頬が綻んでしまう。
しばらくヴァネッサさんのされるがまま撫でられ続けるレイナだった・・・
「おっ!また、ヴァネッサの可愛いもの好きが炸裂しているようだぞ?」
「ああ、あの小人の嬢ちゃんしばらく離してもらえないんじゃないか?可哀想にねぇ・・・」
二人の大柄な男性が僕達の姿を見て苦笑しながら近づいてくる。
もちろん見知った顔だ。
「ランベールさん!ユリアンさん!」
僕は近づいてきた二人に会釈をした。
「よぉ、エノク!調子はどうだ?改めて挨拶しにきてやったぞ」
「その嬢ちゃんとはまだ話せてなかったしな」
「あっ!すみません。後で僕から挨拶にお伺いしようと思っていたのに・・・」
僕はそう言ってランベールさんにペコリと頭を下げる。
港でレイナの紹介が終わった後、僕達は満足に会話も交わす時間も取れなかった。
船の出港時間が迫っていたので、僕達はすぐに旅客船に乗りこむ事になったのだ。
あの後、僕達は船着き場の一角にある商人ギルド連盟の事務所で、ゴートランド共和国行きの旅客船のチケットを買った。
渡航費用はもちろんそれぞれの個人持ちだし、どこの客室のチケットを買うかは各々の自由。
僕が買ったのは3等客室チケットで、個室付きの片道7,000クレジットのチケットだった。
ちょっと僕にとっては割高だけど、レイナのことを考えたら個室の客室チケットを買うことにした。
安く済まそうとするなら、船の最下層にある大部屋で大人数が共同で寝泊まりする5等客室チケットなんかもあり、それだと2,000クレジットで済む。
・・・まあ、今後旅慣れしていけば移動手段とプランはどういうものを選択すればいいかは見えてくるだろう。
なお、チケットを買う際、ヘルマンさんがパーティメンバー全員に告げてきた。
『よし、チケット買った奴から、船に乗り込め!』
『仲間が増えた事だし、ぱぁっ!と飲みに行きてぇところだが、船の上じゃ、ろくなもんがねぇしなぁ・・・』
『なんかするのは明日ゴートランドに着いてからにしよう』
『・・・というわけで、各自明日まで自由時間な』
『エノクもゴートランドに着くまでは好きにしていいぞ。そんじゃな~』
ヘルマンさんがひらひらと手を振り、そのまま旅客船の方に行ってしまう。
『おう!』
『オッケー』
そして、ヘルマンさんの言葉を当たり前のように他のメンバーも受け止め、みんなチケットを買ってぞろぞろと船に向かっていった。
パーティのルールとか、行動の仕方とか、僕は何の説明も受けていない・・・
いきなり自由の身にされてしまった僕は呆気にとられてしまう。
『あれ、なに・・・?』
『集団行動とかじゃないの!?』
僕は台車の荷物とともに、その場にポツンと残されてしまった。
しかし、呆けている訳にもいかないので、急いでチケットを買い僕も船に向かう。
他のみんなは既に乗船したようで、荷物が多かった僕は当然ながら一番最後になってしまった。
乗船している乗客の最後尾に並び、ガラガラと音を立てながら台車を押して、緩い坂になっているタラップを登っていく僕。
周囲の乗客が奇異の目を向けてくる中、できるだけ目線を合わせないようにしつつ僕は船に乗り込んだのだった・・・
・・・と、こんな経緯もあり、レイナはまだ他のメンバーとも話せていなかったのだ。
僕がランベールさんに挨拶が遅れた詫びをすると、彼は二カッ!と笑った。
「なに、気にすんな!」
「冒険者パーティの仲間の出入りなんてそれこそ頻繁にあるもんなんだからな」
「名前や戦闘スタイルさえ知れれば、いちいちお互い挨拶なんてする必要はない」
「ギルドの依頼を受けて、ダンジョンに向かう時以外は基本互いの行動に干渉することもないし、自由だ」
「メンバーが固定されている、うちでもそういうところは自由だし、交流なんてしたい奴がすればいいんだ」
「あんまり堅苦しく考える必要ないぞ?ははは」
そう言ってランベールさんは朗らかに答えてくる。
彼は、”ランベール・ロルモー”さん。
神殺しの剣の前衛で壁役だ。
年は30代後半。短く切り揃えられた茶色のスパイクヘアで、顔のあちこちに古傷が付いたいかつい面貌をしている。
身長190cmを越えた大柄の人で、頭を除き、首から下は全て鋼鉄の鎧で覆われた重装備を難なく着こなしていた。
それだけでも彼が歴戦の戦士だとすぐに分かる。
パーティで一番見た目の貫禄がある人は誰かと言えば彼だろう。
そんな彼の言葉に同調するように、ユリアンさんが答える。
「・・・まあ、そうだな」
「うちは仲間との関係は深い方だが、以前俺がいたパーティなんかは凄いドライだったぞ?」
「互いの出自とか、趣味とかまったく知らなかったし、仲間との交流の場すらなかったもんなぁ・・・」
そう言って、感慨深げに彼はウンウンと頷いた。
彼は、”ユリアン・ブレッカー”さん。
”オーガスレイヤー”の異名を持つ名うての剣士であり、パーティの切り込み隊長を務めている。
年齢は20代後半といったところ。
ランベールさんとは対照的に茶色の長髪の人物で、装備も一般的な冒険者の衣服にチェインメイルと軽装だった。
ただ、体格は180cm後半とランベールさんと同じく偉丈夫。
何よりもその背中に背負っている2メートル近いグレートソードの存在感が際立っていた。
僕では満足に振るうことすら叶わないだろう大業物であり、それだけで彼が凄腕の剣士なのだと分かる。
ランベールさんとユリアンさん。
二人とも僕より頭1個分以上大きく、そんな彼れを見上げながら僕は答えるのだった。
「ははっ・・・確かにいきなり自由にしていいと言われて僕も驚いちゃいました」
「冒険者のパーティっていうと四六時中行動を共にしているというイメージが僕にはあったんですけど」
「割と自由行動が多いんですね・・・」
そう言って苦笑いしながら二人に答える僕。
すると、レイナを抱きしめることに夢中だったヴァネッサさんが声を上げた。




