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それぞれの印象




ビュウウウウウ!


ザッパーン!





塩の風味が混じった海風が心地よく僕の頬を撫でていく・・・


既に空気は秋仕様に半ばなっており、北東のスカディ海の影響を受けて暑さの中に冷たさをにじませた虹色の風となっていた・・・





「わぁ・・・・!すずしい・・・」



「そして綺麗!!あははは!!」





そう言って防護カバンから顔を覗かせ、レイナがキャッキャとはしゃいでいた。


彼女の行動に僕は微笑ましさを感じつつも、彼女に注意をする。





「レイナ!あんまり身体をのり出さないように気を付けて!」



「強風がたまに吹くから、吹き飛ばされちゃうかもしないから!」



「あははは!もう心配性ね!分かっているって!」





レイナは僕の言葉に頷きながらも、目を輝かせたまま目の前に広がる大海原に目を輝かせている。


耳障りの良い海風の音に煽られながら、船がグラグラと小刻みに僕達を揺らしていく。


既にカーラの土地を離れてから数時間が経過していた。


太陽はそろそろ水平線の中に隠れそうな高度に達しており、徐々に光が赤みがかった色味を出している。


ゴートランド共和国はカーラから旅客船で大体1日の距離にある。


僕達は今日客船の中で宿泊し、明日の朝頃に現地に到着する予定だ。


”ヘルマン”さんが言うには、最低1ヶ月ゴートランド共和国に、しかも鉱山のある山岳地帯に滞在する予定との事だった。


そのため、明日でしばらくこの景色ともお別れになる。


僕にとっても初めての船旅と、大海原の景色だ。


そして何より今日冒険が始まったということもあって、胸の中のワクワクが先程からずっと収まる気配を見せないでいる。


これが冒険の高揚感なんだろう。


周囲に他の乗客の姿がなかったら、僕も一緒にレイナとはしゃいでいたかもしれないな・・・


そう心のなかで苦笑いしながら景色を楽しんでいると、僕に近づいてくる女の人の姿があった。





「うふふ!はしゃいでるわねぇ・・・」



「エノクも、”レイナちゃん”もしっかり目に焼き付けておきなよ?」



「明日からしばらく海の景色は見れなくなるんだからね~」





ウィンクしながら話しかけきたのは”ヴァネッサ”さんだった。





「あっ!ヴァネッサさん!」





僕は彼女に会釈を返す。


彼女は”ヴァネッサ・ツェラー”。


ポニーテールを後ろでまとめた艶やかな赤髪と左目の下の泣きぼくろ。


そして、白ローブの服の下からも盛り上がりがはっきりと分かる豊満なバストを持った女の人だった。


外見は20代中頃の年齢で、身長は僕より少し高くて160cm後半といったところ。


見て分かるように、とても陽気な方で頼れるお姉さんといった感じの人だ。


同行者としてパーティに入ったばかりの僕にもこうやって気さくに声を掛けてくれる。 


どうやらレイナもヴァネッサさんにはすぐに好感を持ったようだ。


話しかけてきたヴァネッサさんにレイナがすぐに反応する。





「あはは!ヴァネッサさん!レイナ”ちゃん”はやめてくださいよ~」



「私、身体小さいですけど、こう見えても18年以上生きてきたんですよぉ?」



「子どもじゃないんで”レイナ”って呼び捨てでいいです!」





そう言ってレイナがテンション高めにヴァネッサさんに言葉を返した。





へぇ・・・


レイナって年上の女の人と話すときってこんな感じなんだ・・・





これまで見ることが出来なかったレイナの同性とのやり取りはなんか新鮮だった・・・


その陽気な反応と、普段は見慣れない他者への敬語の言葉遣いに僕は少なからず驚いてしまう。


レイナの言葉が面白かったのか、ヴァネッサさんはクスリと笑いながらレイナに続けた。





「ふふっ・・・ごめんなさいね」



「ついちっちゃくて可愛いなって思っちゃってね!」



「・・・じゃあ、お言葉に甘えて”レイナ”って呼ばせて貰うわね?」



「その代わり、私の事も”ヴァネッサ”って呼んでよ。敬語もなし!」



「同じ女同士だもの・・・仲良くやりましょうよ!」





ヴァネッサさんはそう言うと、防護カバンから顔を出している、レイナの前にちょこんと手を出した。





「うん!ありがとうヴァネッサ!よろしくね!」



「ええ・・・よろしく。レイナ」





二人はにこやかに言葉を交わした後、小さく握手をするのだった。


間に入って見守っていた僕もその光景にほっこりとしてしまう。


パーティに紹介する前は仲間として受け入れてもらえるかレイナは不安だったようだけど、どうやらそれも杞憂だったようだ。


こうやって敬語もなしで砕けた会話をする相手がもう出来てしまっている。


仲間と打ち解けるにはまずは言葉使いから改めないといけないのかもしれないな・・・!





よ・・・よしっ!


それなら僕も・・・!





心の中で僕は密かにそう気合を入れるとヴァネッサさんに声をかけるのだった。





「あ・・・ありがとう!ヴァネッサ」



「レイナと、その・・早速仲良くしてくれて僕も嬉しいよ・・・」





ニコリと笑いながら僕も砕けた言葉使いでヴァネッサさんに言う。


・・・しかし、彼女は顎に手を当てながら怪訝な表情で首を傾げてしまう。





「えっ・・・うーーん・・・」



「エノクにそう言われるのは、なんか変な感じがするわねぇ・・・」



「・・・貴方はこれまで通りでいいんじゃないかしら?」



「えっ・・・えええ?変ですか!?」





思わぬ言葉を彼女に返されて僕は戸惑いの声を上げてしまった。


それですぐに言葉使いも敬語に戻ってしまう。


すると、レイナもヴァネッサさんに賛同するかの様に頷いてきた。





「・・・確かに、エノクがそういう言葉使いをするのはちょっと変かも・・・」



「エノクは敬語のままでいなさいよ」



「それに・・・ほら、この中だと一番年下じゃん?」





その言葉に僕は思わずポカーンと口を開けてしまう。


すぐにブンブン!と首を振ると、レイナに言葉を返す。





「・・・えっ・・・いやいやいや!どういう理屈!?」



「レイナだって、ヴァネッサさんからしたら大分年下だろう!」



「レイナは良くて、僕がダメって、おかしくない!!?」





半ばノリツッコミするかのようにレイナに反論する僕。


そのやり取りが面白かったのか、ヴァネッサさんが苦笑しながらポン!と肩を叩いてきた。





「うふふ・・・別に敬語で話せと強要しているわけじゃないのよ?」



「ただ、貴方は他者と接する時、敬語で話す方が自然体でいられるタイプじゃない?」



「この間のヘルマンとのやり取りを見てて思ったけど、」



「あなた達昔からの友人みたいに息ぴったりで、まったく違和感なかったのよね」



「貴方は多分敬語でも他人と全然仲良く成れる人種なんだと思う」



「・・・あ、はぁ・・・」





僕はなんとも言えない難しい表情でそう答える。


まあ・・・そう言われると思い当たらないフシがないわけではなかった。


確かに、いきなり敬語を使わずにフランクに他の人達と仲良くなれるかと言われるとちょっと僕には難しい気がする・・・


僕の方が萎縮してしまう気がするのは確かだった。


レイナとタメ口なのは、年も近いし、彼女とは一緒に暮らして家族みたいなものだと思っているからだ。


だけど、職場ではそうではなかった。


魔法技師の見習いとして工房で働いていた時は、同期を除けばみんな年上の人ばかりだった。


当然、師弟関係の世界だし、言葉使いや礼儀にはとても煩かった。


先輩や年上の人には敬語を使うのがあたりまえだったし、


生意気なことを言えばぶん殴られる事もあったしなぁ・・・ハハッ・・・


むしろ、敬語を使っていないと安心できなかったから、それが僕に染み付いてしまっているのかもしれない・・・


僕はしばし目を細めながら思索を巡らせた後、ヴァネッサさんに言った。





「まあ・・・確かに」



「思い当たらないフシがないわけではないです・・・」



「ふふっ・・・でっしょう?」





ヴァネッサさんは僕の返事にウィンクしながらまたポン!と肩を叩いてきた。





「敬語を崩さないからと言って、それで貴方から堅苦しさやよそよそしさなんて全く感じないんだもの」



「貴方はもうそういうキャラクターなんでしょうね」



「無理に私たちの会話に合わせる必要はないし、そのままでいいわよ!」



「ははっ・・・まあ、そこまで仰るのなら敬語のままでいきますよ」



「確かにその方が僕は気が楽ですしね・・・」





頬をポリポリと掻いて苦笑いしながら返事をする僕。


僕とヴァネッサさんのやり取りを見てレイナがクスクスと楽しそうに笑う。


・・・まあ、今までの自分で良いというのなら僕としても有り難い。


しかし、ふと疑問が出来たので、ヴァネッサさんに続けて尋ねた。





「・・・でも、僕の方はヘルマンさんとのやり取りでそういう印象が出来たというのは分かるんですけど、」



「レイナとはさっき会ったばかりじゃないですか?」



「ヴァネッサさんから見て、レイナの方は敬語はなしでいいと思った”印象”ってどういうものなんですか?」



「ちょ・・・ちょっとエノク・・・!!」





防護カバンにいるレイナが待ったを掛けるように不満げに声を上げる。


僕もヴァネッサさんに尋ねた後、「やばっ!」と心のなかで思ってしまった。


つい好奇心が勝ると、考えなしに質問してしまう僕の悪い癖だ。





しまった~・・・!


オーゼットさんに以前注意されてたのに


またやっちゃったよぉ~・・・





しかし、後悔してももう遅い。


僕はレイナの感情を逆撫でてしまったようだ・・・





「もう!!本人が目の前にいるのにそんな野暮な事聞くぅ~!!?」



「少しは気が利くようになったかと思えば、油断したらすぐにデリカシーの無いこと言っちゃうんだから!」



「いきなりそんな事聞かれてもヴァネッサだって答えづらいわよ!」





レイナが両手を組みながらプク~!と頬を膨らませながら、猛烈な抗議の声を上げてきた!


その仕草が可愛いな・・・と思いつつ、僕は「ごめん・・・」と苦笑いしながら彼女を宥める。


レイナはジトーッと僕を睨みつけた後、今度はヴァネッサさんの方に向き直る。





「・・・ヴァネッサごめんね!?この子こういう無神経なところあるのよ!」



「今この子が言ったことは気にしないで?後で私の方からよく言っておくから!」



「・・・いや、そこまで言わなくても・・・」





そう言ってしぶしぶとレイナの言葉に反論するものの、彼女がきっ!っと睨みつけてきたので僕は押し黙るしかなかった・・・


プンプンと怒りが収まらないレイナ。


そして、渋い表情をしながら必死にそれを宥める僕。


その構図がおかしかったのか、しばし横で見ていたヴァネッサさんが吹き出した。





「ぷっ、あははは!面白いわね、あなた達」



「・・・でも、確かにレイナの言うとおりかもね♪」



「本人の前で、しかも女性の前でそういう事を聞くのは紳士のやることじゃないわよ、エノク?」



「いくら気心が知れている仲間だって時には話したく無いことだってあるんだからね?」



「うっ・・・ごめんなさい・・・」





そう言って、ヴァネッサさんが満面の笑みを浮かべながら僕を窘めてくる。


そんな彼女に僕は素直に謝罪の言葉を述べるしかなかった。


彼女が年上で僕より人生経験が豊富だからなのかわからないけど、彼女には逆らおうという気持ちが起きない。


彼女の柔らかい雰囲気というか、母性の雰囲気がそうさせているんだと思う。


レイナにはない大人のお姉さんの雰囲気だよなぁ~・・・(←絶対口には出せない)


僕が素直に頭を下げたのを見て、ヴァネッサさんがニコリと微笑む。


そして、僕とレイナをそれぞれ見据えた後、彼女は静かに続けてきた。





「反省しているなら、よろしい!」



「・・・まあ、そこまで答えづらいことでもないし、教えてあげようかしら?」



「レイナの”印象”をね・・・♪」



「えっ・・・ちょ、ヴァネッサ!?」





ヴァネッサさんのその言葉に今度はレイナが唖然とする番だった。


まさか、ヴァネッサさんが僕の質問に答えるとは思わなかったのだろう。


そんなレイナにヴァネッサさんは再び余裕のある笑みを見せながら言ったのだった。





「ふふ、大丈夫よ♪全くネガティブな印象なんてないから!」



「むしろ私はさっき、同じ女性として貴方のことを凄い!とさえ思ったのよ?」



「初対面で、しかも自分たちがこれから師事しようとする人間たちに対し、その小さな身体で物怖じせずに”あんな啖呵を切れる”のは大したものね」



「あれ見た瞬間、私貴方のこと一発で気に入っちゃった♪」



「ああっ・・・!あれかぁ~・・・」





そう言ってレイナは自分の顔に手を当てて、渋い表情で目を細める。


ヴァネッサさんに褒められているというのにその顔はあまり嬉しくなさそうだ。


・・・まあ、それも分かる。


自己紹介なのにレイナが派手にやらかしたからなぁ・・・





そう・・・それは先程港から冒険に出発する前・・・


レイナを初めて他のパーティーメンバーに紹介した時の事だった・・・











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