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いっぱしの成長




ヒュンッ・・・!





目の前には玲瓏なる美貌を湛えた女騎士の双眸が僕を捉えていた。


彼女との間合いは5メートル。


常人なら数歩の歩みを必要とするところだが、彼女にはこの常識は通用しない。


平時なら彼女を見るもの全てを魅了するような肉体美を惜しげもなく晒し、


艶やかな青髪をなびかせながら、一陣の風が吹き抜けるかのように間合いを詰めてくる。


その常人を超えた疾風の蹴りは空気を裂くように鋭く、衝撃の余波で風切音が周囲に響く。





ヒュンッ・・・!





「くっ・・・!」





訓練を通じて徐々に培われた感を働かせて、懸命に目の前の”暴風”へ対処していく。


一瞬でも気を抜いてしまえば、その鋭利な刃と化した肢体に僕の身体が瓦解させられてしまうだろう。


暴風への相殺に必要なのはやはり暴風だ。


自身の両の拳に込めた魔力を最大限働かせて、衝撃の緩和を行う。


ここで攻めきれないと見たのか、アイナさんは一旦僕から間合いを外すと高々と跳んだ。


重力と突進力を併せ持った脚が渾身の一撃を見舞おうとまっすぐに僕へと振り下ろされた。


その威力の重さから防御では凌ぎきれないと判断した僕は、真横に飛びその場から急速離脱をする!






―――バコン!!






直後、僕がいた地面にはアイナさんの足技が炸裂し、石畳の地面の破砕音がほとばしる!


その衝撃にたじろぐ暇を彼女は与えてくれる程生易しくはない。


割れたプレートから脚を引き抜いた彼女はすぐに僕を視界に収めると、地を蹴って僕を追撃してきた。


僕は転げながら避けた身体を踏ん張って立て直すと、亀のように身を屈めながら被弾スペースを小さくする。


そして、顔面を両腕でガードした状態で前方に風の障壁を展開した。


いくらアイナさんの蹴りが強烈だとはいえローキックの威力はハイやミドルへの衝撃に比べれば軽くなる。


アイナさんも当然それは理解しているのだろう。


彼女はローキックでは僕に致命傷を与えられないと見たのか、腰を深く落として掌打による攻撃に切り替えてきた。






ドダダダダダ!!






「ぐぅうう・・・・」






その攻撃はまさに暴虐の嵐。


幾重にも繰り出される神速の正拳突きは一つ一つが閃光のような速さを誇っていた。


加えて、彼女の拳圧が前方へ展開している風の障壁をこじ開けようとしてくる。


ここは何としてもこらえなければならない。


もしここで風の障壁が破られればアイナさんの掌打で僕は蜂の巣のように打ち据えられるだろう。


そうなってしまったら、もう再起は不可能。


僕は無惨にも地面に倒れ伏すことになってしまう。


ここまで来てそんなのはごめんだ・・・・!


僕は残ったありったけの魔力を拳の宝玉に注ぎ込み、必死になってアイナさんの攻撃を押し返した。


ここはもう意地と意地のぶつかり合いだった。


しかし、風の障壁の最大展開は魔力の消費が激しく僕のMPを急速に減らす。


徐々に前方の障壁に穴が開いてくる。


穴を何とか塞ごうと僕は奮闘するのだが、もはやそれを修復する魔力も残っていなかった。


そして、風の障壁は突如として決壊を迎えてしまう。






バシュンッ!






「しまっ・・・!」






・・・気づいたときにはもう遅かった。


障壁の決壊前に再びその場から離脱を図ろうとしたのだが、決壊が破られる瞬間に彼女の連打がより一層激しさを増した。


こちらの予定より早く障壁が破られ、不意を突かれる形になってしまった僕をアイナさんの凍てつく眼光が捉える。


そして、彼女がさらに一歩を踏み出し、その拳撃を僕に浴びせようとした瞬間だった・・・!





「5分です」





―――ピタッ





その声とともにアイナさんの攻撃がピタリと止む。





「・・・はぁ!はぁ!はぁ!」





僕は息を切らせながら声の方向に顔を向けると、懐中時計を持って時間を告げた男性が佇んでいた。


彼は僕たちの訓練に付き合ってくれている回復術師の”クリフォード”さんだ。


過酷な訓練の結果あまりにも僕が負傷するので、今では最初から僕たちの訓練に付き合ってくれている。


アイナさんはすっと立ち上がり、クリフォードさんを無表情で一瞥した。


彼女はクリフォードさんが掲げた懐中時計を目視で確認した後、僕に振り向きコクッと一回頷いた。


それは”合格”の合図だった。


その瞬間、僕の身体が喜びに打ち震える。





「・・・や、やった!」



「ついにやった・・・!」





喜びを噛みしめるかのように僕は両の拳をギュッと握る。


”アイナさんの全力の攻撃を5分間耐えきること。”


彼女に与えられた課題をついに1つ僕はクリアしたのだ!





パチパチパチ!!





「おめでとう!エノク君」



「良くやったな!」



「今までで一番上手い凌ぎ方だったぞ!」



「見事なもんだ!」





僕の課題突破を祝い、クリフォードさんが僕に賛辞を贈ってきた。





「あ、ありがとうございます!」



「これもクリフォードさんのおかげですよ・・・」





照れながら彼にお礼を言う。


思えばここまで来るのに短いようで長かった・・・


何度地面に倒れて、彼の回復魔法にお世話になったのか分からない・・・


一方、アイナさんはそんな僕たちとは対象的にあくまで冷静な意見を述べてくる。





「・・・クリフォード殿、あまりエノクさんを褒めないで下さい」 



「今回の模擬戦には課題点が多くあります」



「確かに5分間耐えましたが、時間はギリギリで彼には後がない状態でした」



「実戦であれば詰んでいた事でしょう」





あはは・・・・


アイナさんはいつも辛口だ。


だけど、彼女の言うことももっともだと思う。


あのまま続けられていたら、僕は間違いなくやられていただろう。


模擬戦だから助かったというのはある。


しかし、ここで意外にもクリフォードさんが僕を擁護してきた。





「いえ、そうとも言い切れません」



「確かに実戦と模擬戦は違いますが、模擬戦と違い実戦では2の手3の手が用意出来ます」



「エノク君が魔力不足によりアイナ殿の攻撃を受けられなくなったとしても、すぐに詰みとなった訳ではありません」



「洞窟など狭い場所で戦っていれば防御中に地の利を活かしてトラップを張り一発逆転を狙うことも出来るでしょう」



「あるいは隠された武器や、アイテムを使って別の方法でアイナ殿の攻撃を凌いでいたかもしれません」



「エノク君が自身の身体能力とメイン装備だけで格上の相手の攻撃を数分間でも耐えきることが出来たというのは、十分称賛に値しますよ」





クリフォードさんの言葉にアイナさんも頷いた。





「・・・確かにそれは一理ありますね」



「これで以前より戦闘の幅が広がったと言えるのは間違いないでしょう・・・」



「ただし、模擬戦に課題があった事は紛れもない事実です」



「・・・エノクさん。どこに課題があったか分かりますか?」





アイナさんはクリフォードさんに同意を示すと同時に、僕に釘を刺してきた。


彼女の言う事ももちろん分かっている。


課題点はたくさんあった。





「・・・はい。もちろんです」



「模擬戦では亀のように身を屈めて凌いだは良いものの、あそこで僕は全力で防御に回らざるを得なくなりました」



「結果的に時間を稼げはしたものの、代わりに僕は魔力を使い果たしてしまいました」



「体勢を立て直したあと、すぐに機動的な防御行動に移るべきでした」



「そうすれば、魔力も温存できましたし、もっと余裕を持って5分間耐えられたと思います」





先程の模擬戦を自分なりに分析した結果をアイナさんに話す。


彼女は僕の答えに小さく頷くと、言葉を続けてきた。





「そうですね」



「今の答えに付け加えるなら、私が跳躍して脚技を掛けた時、エノクさんの回避行動も大きすぎました」



「転がるように避けて体勢を大きく崩した結果、私の追撃を不利な体勢で受けることになったのです」



「回避行動は最小限に行い、常に万全の体勢で受けれるように心がけなさい」





アイナさんの助言に僕は相槌を打つ。


模擬戦が終わると彼女は必ずこの様に反省点を促してくる。


戦闘における心構えや戦い方の基本をこの短い期間の間に数多く彼女から教わった。


自分でも自覚しているのだけど、訓練を始める前と今じゃ戦闘に対しての自信の度合いがまるで違う。


アイナさんに師事したのはどうやら大正解だったようだ。





「何はともあれ、これで第一の課題は終えました」



「明日から訓練の内容が一段と厳しいものとなります」



「今日は早いですがこれで終わりとしましょう」



「明日に備え、今日はゆっくり休みなさい」



「はい!!ありがとうございました!」



「アイナさん、クリフォードさん、明日もまたよろしくお願いします!!」





アイナさん達に別れの挨拶を述べて僕は訓練場を後にする。


帰宅の途についた足取りはいつもより大分軽かった・・・







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