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謎の友人




驚いた私はエノクの顔を凝視した。


彼の表情にも戸惑いの色が見て取れる。


信じがたい事を聞いた。


確かにストーンウォールを構築したことは連盟の魔術士から聞いているが・・・





「・・・ストーンウォールの件は私も聞いている」



「だが、それは逃げられる者の避難が終わってから封鎖したと聞いているぞ?」



「なにかの間違いではないのか?」





再度エノクに尋ねる。


私は信じられなかった。


同胞であるカーラの兵士が連盟の一存で見捨てられたなどとあっていいはずがない。


だが、エノクは私の力のこもった問いかけにも今度は動じなかった。


彼は静かに首を振った・・・





「いえ・・・残念ながら間違いではないです」



「ストーンウォールそのものを僕は目撃したわけではありませんが、巨人がそれを蹴破ろうとした“破砕音“を聞いています」



「それにオロフさんの行動を見ても確かです」



「彼はわざわざ会場の出口から引き返して2階席に行ったことになります」



「もし、ストーンウォールで回廊が塞がれていなかったら、引き返すことなどせずそのまま地上に上がっていたはずです」



「オロフさんや兵士、他の大勢の避難客が巨人に追い詰められて入口付近に留まっていたのは、ストーンウォールがその時点で既に張られていた明確な証拠でしょう」



「なんということだ・・・・」





エノクの言葉が衝撃とともに私に突き刺さる。


確かに、会場の入口付近には“人の踏み潰された跡“が多かった・・・


そして、エノク・フランベルジュとそれを助け起こしたオロフ・フロールマンは2階席から脱出しようとした・・・


彼のこれまでの証言と会場の犠牲者の場所を勘案すれば今の話に筋が通ってしまうのだ。





「・・・エノク、この事を他に話した者はいるか?」



「お前の話を今この場で完全に鵜呑みにする訳にはいかないが・・・」



「・・・もしお前の話したことが真実だとすれば由々しき事だ」





私の言葉にエノクは再び首を振る。





「いえ、クラウディア団長以外にはまだ誰にも話していません・・・」



「僕自身さっきまでどこか商人ギルド連盟を信じたい気持ちがあったからです」



「同じカーラの人間を見捨てるような非道な真似は流石にしないだろうと・・・」



「だけど、先程のディーナさんの話を聞いて疑念が確信に変わってしまいました・・・」





・・・・!!?


そういうことか・・・!





私はそこでようやくピンときた。


グレゴールが告知に干渉した事と今の話が繋がったのだ。


あれが隠蔽工作だとすれば話に辻褄が合う。





「・・・エノク、先程お前が驚いていたのはそういうことか!」



「お前がもし連盟の非道を目撃していたとしたら、奴らからしたらお前は余計なものを目撃した邪魔者になるということだな!?」



「・・・はい。その通りです・・・・」





エノクは項垂れながら肯定の言葉を返してきた。


私はここに至って彼の要件も悟る。





「・・・なるほどな。お前の私への要求が分かったぞ」



「状況が落ち着くまで、お前の庇護・・・もしくは隠れ家などの避難場所の提供・・・といったところか?」



「・・・はい。それもご明察の通りです」



「・・・・・」





しばし私は頭の中で考えを巡らせる。


エノクの証言を受けて、我が騎士団はどう動くべきだろうか・・・


一個人としては商人ギルド連盟のしたことは許しがたい・・・


だが、今の私は近衛騎士団の団長なのだ。


不用意な発言や行動は私だけではなく、王妹殿下にも被害が及ぶ。


・・・それだけはなんとしても避けねばなるまい。





「ふぅ・・・」





私は一度深呼吸をして荒立った気持ちを落ち着かせる。


エノクに掛ける言葉を慎重に選びながら彼を見据えると、私はゆっくりと言葉を発した。





「・・・・・エノク。お前の心配はもっともだ」



「・・・だが、お前には酷な話になってしまうが、今の話が本当だったとしても商人ギルド連盟を告発することは出来ない」



「・・・・・!」





エノクの目が大きく開いた。





「・・・知っていると思うが、王妹殿下と商人ギルド連盟は協力関係にある」



「我々は神遺物奪還の為に彼らから多額の援助を得ている状況だ」



「彼らの援助の下私達はカーラの秘宝を取り戻そうとしている」



「そして、王国にとって秘宝の奪還より優先すべきものはない・・・」



「・・・つまり、連盟が少し問題を起こしたところで今の私達は何もすることが出来ないのだ」



「・・・・・」





彼は黙ったまま、固唾を飲んで私の話を聞いていた。


そんな彼の挙動に若干の申し訳無さを感じながら、私は話を続ける。





「・・・それにな・・・たとえ奴らを告発したとしても恐らく大した問題にはなるまい」



「確かに奴らの犯したことは許しがたい・・・だが、大事を小事の犠牲にしてはならないという考えが政治の世界にはあるのだ」



「この場合の小事とはオークション会場で逃げ遅れた者たちの犠牲を指す」



「逃げようとした者すべてを救うことは出来ず、ストーンウォールで回廊を封鎖していなければ、会場の外にいる人間に更に被害が出ていた可能性もあるのだ」



「多くの者を救うためのやむを得ない判断だったと言われれば、奴らの行動にも合理性が出てくる」



「奴らを追い詰めることが出来ないどころか、不要な不信感を買うだけになってしまうのは我々としても避けたい」



「・・・結局、今の私達には連盟に対して何も出来はしないのだ・・・すまないな・・・」



「・・・いえ」





エノクはただ一言そう述べて首を振った。


とても納得しているようには見えないが、彼も理解はしているのだろう。


私は彼に相槌を打つと一転して声を和らげた。





「・・・だが、エノク。これだけは約束できる」



「お前の身は我が近衛騎士団の名誉にかけて守ることを誓おう」



「小事の犠牲とは非常事態の時だから通用するのだ」



「連盟がこの期に及んでお前の身を侵そうというのであれば、それは断じて私が許さない」



「だから安心してほしい」





私のこの言葉を聞いたエノクは泣き笑いのような顔を見せる。


彼は私に頭を下げると、声を震わせながら礼を述べてきた。





「・・・ありがとうございます・・・」



「そのお言葉が聞けただけで僕は十分です・・・」



「・・・そうか。良かった」





彼の言葉に私も頷いた。


1から10とまではいかないが、彼の願いをある程度叶えてやることは出来るだろう。


早速彼の要望を叶えるべく、私は段取りを進める。





「・・・エノク、まずはお前に隠れ家となる住居を提供しよう」



「我が騎士団の宿舎の一角だ」



「男子である君にとって“居心地の良さ“はあまり保証出来ないが・・・まず安全だ」



「そこにほとぼりが覚めるまで好きに滞在してもらって構わない」



「また、必要なら専任の護衛も付けてやるがどうだ?」



「お前と一緒の部屋で暮らすことになるが、色々と助けてやることも出来るだろう」





しかし、私のこの言葉にエノクは心底驚いたようだ。


彼は頭と両の手のひらをブンブンと振る。





「・・・い、いえいえ!!隠れ家の提供だけで十分です!」



「護衛のために同居までしていただくなんて、悪いですよ!」



「それはすみませんが、お断りさせてください!!」



「・・・そ、そうか?」





思いのほか強い拒絶を返されたので私も驚いた。


流石にいきなり過ぎたか・・・?


まあ、年端も行かぬ少年が見知らぬ女性と同居するのは流石に抵抗があるというものか・・・





「・・・・分かった。まあ、必要があったら言うが良い」



「しばらく外出の時は用心の為付けたほうがいいだろう」



「ここにいるアイナは私の直属の部下だ」



「護衛の件も含め、何かあったら彼女に頼め」





そう述べると、私はアイナの方に振り返った。





「アイナ」



「はっ!」





私の呼びかけにアイナが進み出て敬礼をしてくる。





「エノクに宿舎を案内してやれ」



「それと彼が生活するにあたり色々と便宜も図ってやれ」



「はっ!承知いたしました」





エノクは立ち上がり、再度貴族の礼で私にお辞儀をしてきた。





「ありがとうございます!クラウディア団長」



「1度ならず2度までもお助けていただいて・・・」





私も立ちあがり、彼の前に手を差し出して握手を求める。





「・・・礼を言うのは私の方だ、エノク」



「こんなのお前が貢献したことに比べれば安いものだ」



「お前のおかげで調査に光明が見えた」



「今後も我々に是非協力してくれ」



「他にも何か分かったことが出たら、いつでも尋ねてきてほしい」



「神遺物の足取りを掴むことが出来れば、王妹殿下からの報奨も十分あり得るぞ」



「はい・・・!頑張ります!」





彼は気合の入った返事とともに私の手を取る。


そして、私達は固く握手を交わした。


私はエノクに微笑みかけると彼に賛辞を送る。





「・・・それにしてもエノク。お前の推理力のキレは大したものだ」



「それに立ち回りの良さにも感心したぞ」



「よく商人ギルド連盟の動きを察知できたものだな」





私は素直にエノクを褒めたつもりだった。


しかし、彼は微妙な顔をして返事をしてくる。





「・・・・あ、あはは。そう言っていただけると嬉しいのですが」



「僕はそんな大したことしてないですよ・・・」



「半分以上は僕の“友達“のおかげなんで・・・」



「・・・?」





友達・・・?


だれだ・・・?


前言っていた、例の友達とやらのことか・・・?





「では、エノクさん、宿舎にご案内いたします」



「私について来てください」



「・・・あっはい!よろしくお願いいたします」





私達が別れの握手を済ますと、アイナがエノクを連れて詰所の外へと出ていく。


エノクは部屋から出る際に私に顔を向けてにこやかに挨拶をしてきた。





「では、クラウディア団長。しばらくお世話になります!」



「他にもなにか分かったらお知らせさせて頂きます!」



「あ、ああ・・・そうだな」





彼の意味深な言葉に首を捻りつつ、私はエノクを見送った。









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