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バレンタイン特別編「バレンタインデーイブ」

バレンタインデーということでバレンタインのネタを書きました。主人公の呼び方が美里さんに変わっているのは今後にご期待ください。

 今日は2月13日、スーパーに特設されたチョココーナーにも売り切れの商品が目立ってきた「バレンタインデーイブ」というやつだ! ! ! 明日は「バレンタインデー」当日! ! 何と嬉しいことにオレは今日も明日も休日だ! ! !


 美里さんはオレにチョコをくれるのだろうか? はあーっ! 今まで生きてきて数十年、遂にバレンタインにチョコを貰う日が訪れるのか! ? しかも相手は美里さん! ! ! ああ、何と素晴らしいことだろう! ! !


 高鳴る胸の鼓動に合わせながら朝の味噌汁に入れる玉ねぎを刻む。するとたちまち玉ねぎは予想よりも細かく切れてしまった。


 前にもこんなことがあったな…………あれは美里さんと再会したばかりでファーッ! といけないいけない、自制をせねば! 料理は一時の気の緩みから思わぬ事故や失敗に繋がる可能性もあるのだ! ! !


 そんな感じで朝食の用意をし何故か前日からソワソワしながら午前中を過ごし美里さんと約束の15時が訪れる。


 いつものようにスーパーへと向かうと美里さんは既に入り口で待っていた。運転手の斎藤さんと何やらヒソヒソと話をしている。


「美里さーん! 」


 オレが彼女に声をかけると美里さんはこちらをみてにっこりと笑い斎藤さんは車に戻って行った。


「遅れてごめん! 」


「ううん、私も丁度今来たところだから」


 何回と繰り返した会話を今日も繰り返す。とはいえ毎日オレが彼女を待たせているわけではない! 2日に1回くらいはオレのほうが早いのだ! !


 2人並んで店内に入る、いつものようにエスカレーターを上るとバレンタインのためのチョコレート特設コーナーが目に入った。


「み、美里さんの家は今晩何にするの! ? 」


 特設コーナーを見ていることがバレないようにサッと美里さんのほうへと視線を向ける。


 正直、バレンタインコーナーをみてバレンタインの話題を振るというのはどうなのだろうか? 美里さんに期待していると余計な負担を与えないだろうか?


 もしかするとあげるつもりなんてさらさらないということもあるかもしれない………………………………貰えなかったら悲しいし話題にするのは避けておこう。


 と考えてしまい特設コーナーができた1週間ほど前からこんな感じでいつも美里さんの方へと視線を逸らしてたまたま目に入っていないという風を装ってバレンタインの話題にならないようにしていた。


「えーっと今日はね………………………………マグロにサーモンに卵、これはちらし寿司かな? 」


 そんなオレの企みに気付いているのかいないのかは定かではないけれど彼女はいつもメモを確認して推理をしてくれる。後に尋ねると百発百中らしい。


「チラシ寿司か、最近食べてないしオレもそうしようかな」


「修三君最近そればっかりだね」


 彼女がジーッと訝しげな視線を向ける。相変わらず吸い込まれそうになる綺麗な瞳だ。正直美里さんのこの表情が見られるだけで嬉しいのだけれどそれは胸に秘めておこう。


「いやー、最近アイデアが尽きちゃってね。アハハ! ごめん、明日はオレが考えるよ」


 咄嗟に誤魔化す。が、しまったぞ! 【明日】という言葉を使ってしまった! 【明日】はバレンタインデーだ! ! ここで【明日】を意識させるのはマズいかもしれない。


「そっか、じゃあ期待してコックさんに【明日】の献立は修三君が考えるって伝えとくよ、【明日】が楽しみだなあ」


 美里さんの家は資産家でお金はあるもののこうやって食材はスーパーで買って献立もオレ達とほとんど同じとその点では親近感を覚える。

 

 でも…………そんなに【明日】を連呼しないで美里さん! いや、もしかしてオレが明日のバレンタインデーを意識していると気付いて分かってやっているのか! ? 今このオレの反応を楽しんでいるのか! ? どちらにしてもここさえ、今日さえ切り抜ければ明日はバレンタインデー当日なんだ! ! !


「そうだね、【明日】は頑張るよ【明日】は! ! ! 」


 そういって平常心を装いつつ最大の難関であるチョコ特設コーナーをさり気なくブロックをして切り抜けた。


 よし! 最大の難関は超えた! ! あとはいつも通り買い物をするだけだ! ! !


 一応まだお菓子コーナーという障壁はあるもののお菓子コーナーに美里さんが寄ることはまずないのでもう突破したようなものなのだ。オレは安心しながらイクラを買い物かごに入れる。しかし、ここで問題が発生した。それは美里さんの思わぬ一言だった。


「ごめん、私ちょっとお菓子コーナーに行ってくるね! 」


 な、なにいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい! ! ? お菓子コーナーだと! ? ということは今からおチョコを購入してお作りになられるんですのおおおおおおおおおおおおおおおおお! ? ? ? ? いいや落ち着け、笑うのはまだ早い。堪えるんだ!


「珍しいね、一緒に行こうか? 」


 何も知らないようなふりをして同行を申し出てみる、当日まで誕生日を忘れている人もいるのだからバレンタインデーを知らないもしくは忘れていても何もおかしくはないだろう!


「ありがとう、でも大丈夫だよ」


 彼女は心なしか少し頬を赤く染めながら答える。


「そっか、じゃあメモ貸してくれるかな? 献立同じだから2つずつ買っておくから」


 そう言うと彼女は「ありがとう」と言ってメモを手渡しお菓子コーナー目掛けて歩いて行った。その姿を見送りながらあることに気が付く。


 彼女はチョコの特設コーナーではなく真っすぐにお菓子コーナーへ向かった、そこにはチョコを使用したお菓子か板チョコしかない! ! ! つまりこれは………………………………美里さんからのチョコは手作りチョコということか! ! ! ? ? ? ? いや貰えるとは限らないけれど………………………………


 実際市販のチョコが嫌かと言われるとそんなことはなく嬉しいのだけれどやはり好きな子ならば手作りが嬉しいというのがオレの心情だ。まさに0か100かのこの状況に心が躍らずにはいられない。


「と、いけないいけない。買い物買い物」


 しかしこうして彼女が来るまで棒立ちしているわけにも行かず彼女から受け取ったメモに目を通す。


「これは凄い………………………………」


 そう呟かずにはいられなかった。何とそのメモには買うもののグラムからメーカーと全てが記載してあったのだ! これなら買い物で悩むことはないだろう。美里さんを困らせないための配慮か拘りが強い人なのかは定かではないけれどやはり本職の人には適わないと実感する。


「ごめん、お待たせ~チョコがいっぱいあってどれがいいか迷っちゃったよ~」


 オレが食材を揃い終えたとほぼ同時に彼女が帰ってきた。みると彼女の買い物かごには2つのメーカーの板チョコがそれぞれ5枚ずつ、計10枚入っていた。


「良かった。丁度今オレも揃い終えたところだよ。ところで、凄い数の板チョコだね。そういえばオレも昔板チョコにハマって10枚位買ったことがあったなあ」


 彼女に食材を渡しつつあくまで明日がバレンタインデーだということを知らない男を装ってさり気なく尋ねる。ちなみに、板チョコを買った話は本当で大学1年生の時暴走したオレは赤木と13日に店頭に並んでいる板チョコを買って回るという行為を行った。


 しかしある程度買って回った後2人ほぼ同時に罪悪感が芽生え買った店を見て回るとどこも在庫は豊富だったらしく何もなかったように店頭に並んでいて安心して迎えたバレンタイン当日、大量のチョコに囲まれながらも空しさを感じたという思い出もある。


 オレが尋ねると彼女は頬を赤く染めて手をブンブンと振りながら答える。


「こ、これは違うよ! 斎藤さんがチョコにハマってるから買ってきて欲しいって頼まれて! 」


 え、なにこの反応! ? なにこの反応! ? ! ? ! ? ! ? ! ! ? ? ? ? ? 顔を赤らめていたのは自分がチョコを大量に食べる人だと誤解されるのが恥ずかしかっただけでもしかして………………………………美里さんはバレンタインデーのことを知らない! ?


「あ、そうなんだ。斎藤さんチョコが好きだったんだね知らなかったよ」


 オレは、ここまでバレンタインデーの話題を振らなかったことに安心しつつも明日美里さんからのチョコはないということが確定したことに落胆した様子を見せないように返した。


「今日はいつもより沢山買っちゃったね~」


 それから、会計を済ませてバッグに食材を詰めていたのだけれど彼女のバッグは具沢山のちらし寿司という

 食材に加え調味料を切らしていたようで調味料に先ほどの板チョコとみるからに重そうだった。


「重そうだね、良かったら車まで持って行こうか? 」


「ありがとう、じゃあお願いしようかな? 」


 彼女がパン! と両手を合わせる。


 こうしてオレは彼女の荷物を持ち駐車場へと向かった。


「お嬢様、お帰りなさいませ。おっとこれはこれは修三様。お嬢様の荷物を持っていただきありがとうございます! 」


 駐車場で美里さんを迎える準備をしていた斎藤さんがオレに気付いて深々と頭を下げる。


「いえいえ、これくらいお安い御用です」


「本当に助かったよ、ありがとう修三君」


 彼女はそう言うと車に乗る。自ら車の扉を開けて中に入る。


 まだ斎藤さんも乗り込んでいないのに美里さんにしては珍しいな…………何か急ぎの用事でもあるのかな?


 オレが疑問に感じて立ち尽くしていると彼女が不思議な質問をする。


「さて問題! 修三君、今日は何の日かな? 」


「えっ……」


 今日! ? バレンタインデーイブ! ! ! とは美里さんはバレンタインデーを知らないわけで違うだろうし知っていたとしても意味が通じるかは不明なので違うだろう、だとすると2月13日………………………………読み方を変えて「兄さんの日」だろうか? でも、オレは一人っ子だし美里さんも確か一人っ子だった気がするんだけど………………………………お兄さんになって欲しいとかそういうやつ! ?


「いや、美里さんオレは美里さんのお兄さんではなくて…………その…………」


 思わず口籠る。お兄さんよりは旦那さんのほうがいいかな~なんて言おうとしたけれど恥ずかしいしこれはクサい台詞というやつかもしれないからだ。


「お兄さん? 」


 しかし、幸か不幸か外れていたようで彼女はきょとんとした顔をする。だがたちまち笑顔になり続けた。


「残念でした~正解は…………バレンタインデーイブです! ! ! 」


 そう伝える彼女の手には大きな四角い箱が置かれていた。


 え? え? 美里さんがどうしてバレンタインデーのことを! ? 知らなかったはずでは! ? そしてその美里さんの手元にある箱はももももももしかしてちょちょチョコレート! ! ? ! ? ! ? ! ! ? ! ?


 あまりのことに混乱して思わず銅像のように立ち尽くす。すると彼女の笑顔に影が差す。


「ごめん、もしかして甘い物苦手だった? 」


「い、いや! 大好きだよ! ! 」


 ビシッと背筋を伸ばしてはきはきと答えたつもりだったが声が裏返っていたかもしれない。それを聞くと彼女の顔に笑顔が戻った。


「よかった~、でもごめんね。修三君バレンタインを凄い意識していたみたいだから驚かせたくて今日渡すことにしたんだ」


「え、どうしてオレがバレンタインデーを意識していることを! ? 」


 バカな!オレのチョコ特設コーナーが見えてからの話題誘導から彼女の視線誘導、ブロックまですべてが完璧だったはずなのに!


 オレが尋ねると彼女は口に手を当てて笑い出す。


「だって修三君入り口のチョコのコーナーが見え始めるところでいつも私のほうをみて献立聞いてチョコのコーナーが見えなくなるまで不自然に斜め横に動くんだもん」


「め、名推理だよ美里さん。オレの行動の裏を読むなんて…………でもありがとう、本当に嬉しいよ! ! ! 」


 今にも駆け出して踊り出したい気分なのを声に込めて感謝の気持ちを伝える。


「実は私が作ろうか悩んでいたんだけどやっぱり買ってよかったよ。修三君が手作りOKなのか確かめそびれちゃったから……」


 何だって! 手作りチョコの可能性もあったなんて! ! こんなことならもっと執拗に手作りチョコレート欲しいアピールをしておくんだった! ! !


 と後悔しても仕方がないので布石としてもさり気なくアピールをしておこう。


「そ、そっかいやオレは全然大丈夫だよ。美里さんの手作りだったら凄い嬉しいし。もちろんこうやって買ってくれた奴も嬉しいけど! ! 」


「そっか~じゃあ今度機会があったら…………手作りチョコに挑戦してみるよ! 」


 や、やった…………これはもしや気の早い話だけれど来年は手作りチョコ! ? と喜んでいる場合ではない、こちらも手作りがOKなのかを確認しておかなくては!


「美里さんは手作りは嫌? 」


「ううん、私も修三君の手作りだったら大歓迎だよ! 」


 彼女は頭を軽く左右に振った後はにかんで答える。


「分かった…………じゃあオレも今度機会があったら挑戦してみるよ」


 機会というのは恐らくとも来月のお返し、ホワイトデーが一番可能性が高い。元々オレにお金持ちの美里さんが喜ぶような高級チョコを買うお金はないのだから言い切った手前世界一美味しいケーキを作る決意で練習をしなくては! ! !


 そう決意を固めた。


「とにかく、ありがとう美里さん! 初めて貰うチョコレートが美里さんからで嬉しいよ! ! 本当にありがとう! ! ! ありがたく味わっていただくよ! ! ! ! 」


「私も喜んでもらえて嬉しいよ。じゃあまた明日ね! 」


「うん、また明日! 」


 気がつけば斎藤さんが車に乗っており別れの言葉を合図に車が発車した。オレは手を振る彼女に手を振り返した後車が見えなくなるまでみつめた。


「よしっ! ! ! ! よし! ! ! よし! ! ! ! ! よし! ! ! ! ! 」


 車が見えなくなるとオレは美里さんから貰ったチョコレートを見つめながら何度も大きく頷きはしゃぎながら愛車に跨り帰路につくのであった。





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