まじゅう童話/舞台裏編【 その1:白雪姫 】
まじゅう童話/舞台裏編【 その1:白雪姫 】
「鏡よ、鏡……」
「あら、カダール。なにしているの?」
「母上」
「鏡に話しかけるなんて……なやみ事かしら?」
「ちがいます、この鏡は(ゴホン)
『鏡よ、鏡』と呼びかけて尋ねると、どんな質問にも答えてくれる魔法の鏡です。
蜘蛛意吐童話の、小道具なのです。」
「すごいじゃない(どれどれ)。
…………それで、お話ではどんなふうにつかうの?」
「持ち主はある国の美しい王妃です。
ひとりのとき、鏡に『世界で一番きれいな女はだれか』と尋ねます」
「むだ使いね」
「む………(げふん)。物語の途中、なんども同じ質問をします」
「自分を『世界一の美人』といわせたいのね」
「はい。しかし、鏡は、世界一の美人は王妃の義理の娘だといいます」
「あらあら」
「怒った王妃は娘を殺そうとします」
「頭がおかしいのかしら」
「母上、童話の悪役です」
「でもね。いちばんの美人でいたいなら。魔法の鏡に………たとえば、若返りの秘薬、魔法の化粧品、人を幻惑する香水。健康美を生む柔軟体操(例、Yoga)。
――鏡に尋ねたら、いろんなことを教えてくれたかも知れないわね」
「自分みがきに、人知れず努力する悪役はいないと思います 」
「あらあら」
「王妃は暗殺に何度も失敗しますが、最後は、自分が変装して娘を訪ねて『毒リンゴ』をだまして食べさせるのです」
「悪の勝利なの?」
「ちがいます、母上」
((なぜうれしそうなんですか?))
「通りかかった王子のおかげで、娘は息を吹き返し。その後ふたりは結ばれます」
「どこから急に出てきたの、その王子さま?」
「一方、悪行を重ねた王妃は破滅するのです」
「やっぱり宝のもち腐れね。わたしならこんな風に魔法の鏡にきくわ。
『鏡よ鏡、世界でいちばん腕のいい殺し屋はだれ?
この近くにいない?』
………しっかりしたプロにまかせて、死体の始末もさせていたら。王妃は破滅せず、思い通りになっていたでしょうに」
「母上。ねらわれた娘は物語の主人公です。
本気で抹殺しないで下さい」
「あらあら」
「……………あと、念のため。この鏡は、もちろんただの小道具です。
人の声に応えて光る『オモチャ』で、舞台ではかくれた役者が返事をするのだとか。いちおう古代魔術文明の遺物で『あの劇団』のマネージャーがわざわざ探してきました」
「まあ。だったら、カダール。
はじめに聞いたけれど…………あなた、そんな鏡になにを話しかけていたの?」
「え、それはつい。その。………………
三日後、ローグシーの某所。
「ごくろー。怪盗『白いもり』くん」
「なんですか、そのキモチワルイ感じの名前は。
………これが例の『鏡』です」
「うむうむ。
しかし…………ぼろぼろだネェ。外は大騒ぎなようだけど?」
「盗み出すのは簡単でしたが、へんな猫のせいで騒ぎになってしまい。伯爵家のシノービやメイドや執事が我輩をよってたかって!」
「うむうむ」
「興味なさそうですな」
「うむ」
「……………ゲルダさま?
ていねいに調べておられますが(ぼろぼろの我輩ほったらかしで)。なぜ、むりにこんな鏡もどきを盗らせたのですかな」
「今の深都の『世界情報庫』にもアクセスできる、旧世界の情報端末だからさ」
「ちょッ!?!?一一超絶危険な禁忌の遺物ではありませんか!!」
「いゃ?(あくび)
アクセスできても、閲覧できるのは一般情報まで。しかも、肝心の出力は……『返事』は、ずいぶん昔にできなくなっている ぞ」
「情報漏れはなかった、と?」
「実質ゼロさ。端末の画像表示、音声合成機能をともにすっかり壊れている。千年以上昔………だれが、なにをしたんだか」
「一応、今まで持ち主の人間に『訊かれた』ことをログでたしかめておこうか。
と?………………はあん!!」
「ゲルダさま?」
「『入力』が機能していたのか」
「?」
「ひどい冗談だ。壊れた遺物に………お芝居の魔法の鏡にものを『教える』なんて。」
「あのぅ、いったいなにごとてしょう」
「とんでもないぞ、あの、黒の子づくり英雄。
自分ののろけを深都の『世界情報庫』に記録しやがった(笑)」
【 鏡よ鏡、この世界でいちばん綺麗でかわいい奥さんはな。ゼラだぞ(ゆるぎない口調) 】
『白雪姫』の王妃に疑問ですが。
王妃は白雪姫に毒リンゴを食べさせたあと、鏡を(日課で)つかい続けていたはず。白雪姫の蘇生は、すぐわかったでしょうに……
(暗殺成功で、燃えつきてしまっていた?)




