まじゅう童話 ▶ 〈女神さまの島〉スペシャル 『トカゲに秘宝キノコが生えるわけ』
『トカゲに秘宝キノコが生えるわけ』
むかしむかし、南の海のある島で。
麗しい女神さまが、むく、とお昼寝から目を覚ましました。
「キノコ……おいしいキノコ鍋が食べたいわ」
芸術品のような真顔です。
昔、お友だちの女神様のところで食べた料理を思い出しました。
「 …『真珠キノコの暗闇鍋』。
あれは究極の一品、至高のご馳走でした 」
どうしても食べたい!
でも、美味な真珠キノコの群生地は、ずっと遠くの離れ小島でした。
…………もらいにゆく?
いいえ! と、女神様は決心しました。
よそに頼らず、立派なキノコ園を島につくりましょう!!
女神さまは、洞窟のコウモリをたずねました。
「コウモリさん、コウモリさん。
美味しいキノコを育てませんか? 湿った暗い洞窟にすむ貴方は、きっと、相性が最高ですよ」
………… 身近に丸投げでした。
「申し訳ありません、女神さま」
……… コウモリはすまなさそうに断りました。
「ぼくらは、最近、昼生活です。
明るい空の下で食べる、花の甘~い蜜とカラフルな果物はもう最高! ヘルシーでアロハなトロピカルライフがトレンドなんです」
「あ、はい」
女神さまはあきらめました。仕方ありません。
ヘルシーでアロハなトロピカルライフは、キノコ栽培とみぞが深そうです。
女神さまは、つぎに地下のモグラを訪ねました。
「モグラさん、モグラさん。キノコ育てませんか?
土の中でトンネルを掘ってくらす貴方は、理想のキノコ栽培家だと思いますよ」
「申し訳ありません、女神さま」
………… モグラも断りました。
「カビやキノコは清潔な巣の敵です、生やしてふやすなんてとんでもない。それにぼくの手はこの通り、 」
モグラは、太い腕の短い指を広げました。シャベルみたいです。細かい作業は難しそう。
女神さまは三軒目へゆくことにしました。
── じつは、女神さまが立ち去ると。
コウモリとモグラは、それぞれ守護精霊に感謝の祈りをささげました。
コウモリの精霊とモグラの精霊は、女神さまのキノコブーム(ひとり言)に気がつき、こっそり神託(忠告)してくれたのです。
なんとか断るように!!
女神さまは思いつきで(おかしな)ギフトを下されます。キノコ道楽に巻き込まれたらとんでもないことになりそう。
でも、気配りしてくれる守護精霊ばかりではありません。
「キノコ、育てませんか⁉ 」
――― 輝く女神様、降臨!
( 三度目!!)
オーラ光と勢い込んだ声が、暗い洞窟に弾けました。不意打ちです。
のんびり休んでいたドウクツトカゲはビクぅッとしました。
トカゲの守護精霊はじつはこの日、クモの精霊に捕まり、朝から糸で吊るされていました。
『姿隠し』の力をマスターして、最近、あちこちで悪戯したものでお仕置きされていたのです。
「あ、あの。女神さま?」
「このキノコ見て下さい。つややつやです、美味しいんですよ(うっとり)」
「そ、そうなんですか?」
「はい、そうなんです。だけど、なかなか育ちません。こまりますね? 数も殖やせません。 真珠キノコは世話がたいへんなのですよ(聞きかじり)」
「は、はあ」
「必要なのは、いい感じの湿度と温度と暗さ、そして、深い理解………… あなた、キノコの気持ちがわかりますよね」
「え、キノコの気持ち?? 」
ドウクツトカゲはびっくりしました。
「私は暗いところのほうが落ち着ついて。人付き合いがちょっと苦手なだけで……」
「暗くてジメジメしたところが好きな動物を探してました。あなた、うってつけなんです!」
「女神さま、ちが………」
「とゆーわけで、たくさん、キノコを育ててください!」
女神さまは、安心安心、と明るい笑顔。しゅん! と消えちゃいました。
トカゲはポカーン。
「き、緊張した。いきなり来るんだもの。ん、あれっ??」
首をまげて自分の背中を見ました。
「メッチャ、改造されてる……」
女神様からのギフトでした。
トカゲの背中に二列、多角形の骨板が互い違いにずらりと尾まで生えています。すでに、ちっちゃなキノコが植え付けられていました。
大きなカサが茂ったら、すっごい絵面になりそう。
「 でも。………… 僕が女神さまの大好物をつくるようになったら、注目されちゃう? みんなの人気者になれちゃう?
女神さまはもしかして、ぼくのためにきれいで珍しいキノコを取り寄てくれたのかな」
)))))))))いや? いやいやまさかね。
真珠色のキノコは、数日で、みるみるうちに大きくなりました。
「……私の生活環境って、キノコ栽培にピッタリだったんだ」
ドウクツトカゲはマジメで研究熱心でした。
あれこれ工夫したので、かさの大きなもの、ツヤや色味のよいものが育ち。ふわっ、といい香りがたつ変種?もあらわれました。
すっかり、世話に夢中になりました。
しかし、ある日、ふと我に返ると背中がズッシリと重く……動きづらい。
「あれれ?? 女神さまは、いつ、キノコを収穫しに来るんだろう」
打ち合わせが不足していました。
「も、仕方無い。脱皮しちゃえ」
トカゲは身軽になることを覚えました。
オオトカゲは、今も元気です。
みんなの人気者になる夢想はすっかり忘れて、美キノコ、旨キノコづくりに夢中。大きな背中は、珍味の真珠キノコでいっぱいでした。
すみかの洞窟も、いつのまにかちっちゃい真珠キノコが野生化して、天井や壁から生えて光っています。
ドウクツシンジュキノコトカゲは、そんなわけで、女神さまがまた、自分のところへやって来て。よろこんだり、ほめてくれる日を楽しみにしながら、今日も美味しいキノコを世話しています。
あぁ… うっかり、転移座標をなくしちゃった …………
トカゲさん、連絡してぇ。あなた、どこなのーぉ!
せめて、お空の下に出てきて!!




