まじゅう童話 ▶ 〈女神さまの島〉スペシャル 『トカゲがバナナに化けるわけ』
『トカゲがバナナに化けるわけ』
むかしむかし、南海のとある大きな島に、一柱の美しい女神さまがおりました。
女神さまはおやさしく、素晴らしい力をおもちでした。大昔、大きな島が災害で荒れはてたとき、わざわざ引っ越して来られ、水の豊かな緑の土地にもどしてくれました。
だからなにかあったとき、島の動物たちは女神さまをたよったのです。……………… ちょっと、まいぺーすなのが玉に瑕ですけどね。
ある日のこと、森にくらすオオトカゲが、女神さまの神殿へやって来ました。きれいな大きな湖のただ中に、大きな木がポツンと生えています。
白い神殿がそこにありました。
オオトカゲは岸辺で叫びます。
「女神さま! 女神さまあ!」
「はい、はぁい。そんなに叫ばなくても聞こえますよぉ」
ザザザ………うねねね…………と。
ぐい、と大木は湖面から持ち上がり、太い根をオオダコのようにうごめかせ、湖岸へにじり寄りました。白い神殿は上にのせたままです。
なめらかに歩きすぎ、ちょっと不気味。
あと、大木の枝葉には果物が鈴なりでした。オレンジ、ブドウ、マンゴー、キウイ………… イチゴやスイカやメロンまで。
カラフルに実りすぎて、へんてこりん。
もっとも、オオトカゲは少しも気にせず。
「女神さま、お願いします!
仲間が毎日、ムシャムシャ食べられています。
西の森のキング金猿をなんとかしてください、このままではぼくら、絶滅してしまいます!!」
「キング金猿さんですか………(困り顔)」
「あいつはいつも腹ぺこなんです。
食べれば食べるほど大きくなるので、食欲にキリがなくて、どんどん怪力になります。ぼくらでは、どうしようもないんです」
オオトカゲは、群れで何度も立ち向かっても敵わず、今はひたすら逃げています。しかし、大猿はしつこくて、数は減る一方でした。
「………… 全滅は困りますねえ」
女神さまは、でも、と続けます。
「【神界】のルールで、神は自然のルールそのものにうかつに手を出せないんです。
キング金猿さんはやり過ぎなんですが………」
「………あのぅ、つまり?」
「つまり女神が、オオトカゲさんに肩入れして、キング金猿さんを直接討伐したり、安全安心な新しい土地をつくってあげるのはダメなんです」
「そんなぁ!」
「だ、だいじょうぶ、まかせてください!」
女神様は、とん、と自分の胸を叩いて笑顔。「オオトカゲさんへギフトです。あなたたちを、ちょっといい感じにしてあげます」
「ぼくらへギフト…… ?
自分たちで戦う力を授けてくださるのですか?
でも、あいつはケタ違いに大きくて強いんです」
ひょろっとしたオオトカゲは、超大型の暴れザルに負けないパワフルなすがたをイメージしました………… ティ○ノサウルスくらいかな?
みんな大きく強くなれば、逃げ回らずにすむでしょう。でも、そこまで変わったら、もうオオトカゲじゃありません。
食べつくされるのと同じでは?
「だいじょうぶです、ちょこっと変わるだけですから。
さぁ、質問です。…………バナナ、すきですか?」
「あ! 大食いサルが来たぞ。みんな、練習通りいくぞー!!」
数日後、オオトカゲたちが隠れている森にキング金猿がやってきました。鼻がきくのです。
しかし、オオトカゲはあわてず、騒がず。数匹づつ身を寄せると、近くの木の枝にぶら下がりました。
数秒後、キング金猿がやって来ましたが、その場でキョトン。おいしいトカゲはどこにも見当たりません。
さっきまでオオトカゲのいたところには、なんと、立派なバナナの房が…………
黄色く完熟して美味しそうです。
オオトカゲは、首のまわりに黄色のエリマキが生え。ひら、と、マントのように広げ、クルリと身体をつつんで、バナナにソックリの見た目になっていました。
そばの仲間も同じです。
女神さまからのギフト、バナナ擬態でした。
すがただけでなく匂いまでバナナ。どんな理屈でしょうか?
でも、さすがは女神さま。すごいカムフラージュ!
オオトカゲたちはバナナに擬態したまま、声を殺して喜びました。が、
「ホホ? ウッホホホぅ♪ フォ〜う!」
( あ!! バナナがいっぱいだ♪ いただきまーす! )
「「「え?」」」
「め、女神さま! ダメです!!
ぼくら、おいしく食べられちゃってます!
なんとかして!!」
オオトカゲ………… あらため、エリマキバナナオオトカゲは、また、女神様の湖にやって来ました。もっとつかれたすがたで、もっと必死に大声をあげました。
でも、女神様の神殿は今日は無反応。
【 しばらく、お散歩してます 】
………… 大きなメッセージプレートが枝に下がっていました。ちょっとホコリをかぶっています。
「ダメだコリャ!」
ところが数日後。
キング金ザルは女神様につかまり、神罰で骨のモンスターにかえられて、島のすみっコへ追放されました。
大ザルはピカピカ光るものを拾って、パリパリ食べてしまっていました。キレイなものの味と歯ごたえが気になったのです。
これが実は、女神さまのお気に入りのネックレスでした。
お散歩中、うっかり、落としたのです。
どうやら、オオトカゲたちへの肩入れはダメでも、女神さまへ『しでかした』ものに神罰を下すのはオーケーでした。
エリマキバナナトカゲは大喜びです。
女神さまの人気は急上昇、キング金猿の大食いをついた罠(ほんとに?)をほめたたえました。
かれらは、今、島の森で平和にくらしています。
バナナのふりをするからだはそのままなので、ときどき、ちょっとしたことで美味しそうに木の枝に成ってしまいます。けれどそのたび、キング金猿に追われた怖ろしい話を思い出すのでした。
だから、エリマキバナナトカゲたちは、島の女神様をとても敬い、とても好いています。子どもはキラキラした目で拝みます。
女神さまはそのたびに、恥ずかしそうにすがたを隠してしまいますけどね。
原典なしの創作童話。
小説『蜘蛛の意吐』の世界(大陸)の片隅に、新たなつくった二次創作の孤島が舞台で。ファンタジーモンスターと、アフターマン風の進化生物を紹介する話(記事)でした。




