『まじゅう• 赤ずきんちゃん』
むかしむかし、『うぃらーいん』とゆう、ワイルドでスリリングなフロンティアがありました。
人間を三食いただく、悪魔みたいなクマ魔獣が山から下りてきたり。
ヒャッハー、な、ゴブリンを農夫が農具で撲殺したり。いつもにぎやかです。
ある朝のことです。
「「いってきまーす! 」」 と、女の子の元気な声が、『うぃらーいん』の要塞化された平和な町にひびきました。
かわいい『赤ずきんちゃん』の登場です。
お母さんにたのまれて、おばあちゃんのお家へ『はじめてのおつかい』です。おばあちゃんは、なぜかひとりで森の中に住んでいました。
完全武装の安全な町から、危険地帯の森の奥へ…… 子どもだけで、だいじょうぶかな?
あ、ご用事は焼き菓子の届物です。
「むご〰〰く、千切って食ってやんよ『赤ずきん』。くくくくぅ」
同じ頃。あやしい影が、暗い森で不穏なセリフを口にしていました。
屈強な二腕二足、鋭い眼光の狼の頭…… 悪役のオオカミ………………あれ????
かれ、狼男ですね。
しかも、ニヤニヤ笑いで、森の一軒家に押し入ろうと身構えています。早くありません? もう、おばあちゃんを襲う?
童話『赤ずきんちゃん』の台本は渡してありますよね??
「知るかバーカ」
・・・・。
ええと…… 狼男。
ツワモノの魔獣で、合成された人造人狼なんかも世の中にいますが、天然の本家本元はずっと格上、ずっと悪賢い。
すごい怪力で敵を引き裂き、鋭い爪や牙は鋼の鎧、盾だって厚紙同然。ウマより早く野山を駆け、縦横無尽に跳躍さえします。
しかも、肉体の再生力は不死身といわれるほど。
童話『赤ずきんちゃん』に過剰戦力……… 自分勝手されたら、お話がめちゃめちゃになるんですけど??
「(ニャっ!)まず、問答無用でおばあちゃんを喰う!」
え?
「お家は燃やす!」
え?え?
「赤ずきんちゃんは、ファイアーした家の前で泣かせてから、殺る!!
ハンターは火と煙に気づいて来て、赤ずきんちゃん(死体)に駆け寄ったところを背後からガブリ! 燃えさかる家に息があるうちに放り込む!!」
真っ赤なお目々の狼男。セリフは一切いわせねぇ、と、吠えます。
「〆(しめ)は、赤ずきんちゃんのお母さんのいる町を夜襲だ!! 朝日が昇るまでに生首を外壁に飾り付けてやるぜ。
弱肉強食の殺戮、狼男様の怖さをみせてやるぜ!!」
………なんでサイコっぽく、ブラッディ?
狼男ホラー無双、狼男が「俺TUEEEE」??
そんな『赤ずきんちゃん』、子どもにみせられませんから!
ああ!!
おばあちゃんの家の玄関は鍵をかけていません。あっさり入って行ってしまいました!!
◇◇◇
狼男の気持ちも、ほんのチョット、わかります。ずっと、絵本の悪役のオオカミのポンコツさに怒ってたんです。
ある悪役オオカミは、ヤギに井戸に落とされて溺死。
別の悪役オオカミは、子豚に暖炉の鍋で煮殺されました。
『赤ずきんちゃん』の悪役オオカミなんか、もう、最悪。おばあちゃんに女装(‼)して、赤ずきんちゃんをベッドで待ち伏せするんです。
「やることが性犯罪者だな」
……… 狼男は、魔獣幼稚園に通っていたころ、牛頭族の子が真顔でもらした絵本の感想が忘れられません。
だって、まわりの魔獣の子の目が一斉に自分にむいたし!!
◇◇◇
………トラウマが蘇っちゃいましたか。
童話の悪役オオカミは、狼男と、見た目だけ似てます。ホラーやファンタジーの人気魔物が、マヌケなアレと同一視されたら屈辱でしょう。
だからって、暴れられても困りますけどね!
あれ?そういえば、
狼男が押し入ったのに、おばあちゃんの家は静かですね。
「いねーじゃねーか」
…………狼男からもれるうめき声。
家の中はがらんとして、人の気配はありません。おばあちゃんは出かけたようです。
どこへ? なぜ? なんで今??
「ババァ(怒)! ひとりで勝手してンじゃねえ!!」
おまいう発言………。 そのとき。
トントン。
トントン。
………… ノックの音がしました。
玄関で女の子の声、赤ずきんちゃんがおばあちゃんをよんでいます。
早ッ。もう、森を抜けてきた!!
狼男は、弾けるように声の主へダッシュ!
ノックされた玄関扉は開けず、あえて、横の窓をぶち破ります! 外へ!!
……… 赤い頭巾のキョトンとした女の子の顔。
ハンターやほかの大人はいません。
勝った! ニヤッ、と、歯をむく狼男。
〈〈〈 ぴぃーン! 〉〉)
「え゙?」
◇◇◇
シュシュシュ………シュシュシュ………
シュシュシュ………シュルルルン ♫
………… 狼男は尋ねました。
「………… 赤ずきんちゃん、赤ずきんちゃん。
どうしてお洋服がそんなに紅いんだい?」
「返り血よ。森で大きな熊さんが襲って来たから首をはねたの」
「赤ずきんちゃん、赤ずきんちゃん。
どうして足の爪が大きくて、鋭いんだい?」
「木に登ったり、家のひさしや壁にはりつくためよ。今、あなたを見下ろしているみたいに!」
「赤ずきんちゃん、赤ずきんちゃん。
どうして蜘蛛みたいな足が、八本もあるんだい?」
「『アルケニー』だからよ。
大きくなったら、ゾンビを宙にぽーん、と蹴ったり、フォウを抱っこして屋根の上を走るくらい強くなるの」
……… 狼男は内心絶叫しました。
アルケニー? 格上の魔獣じゃないか!
しかも、、、
「あ゙あ゙ぁ(涙声)……… 赤ずきんちゃん、赤ずきんちゃん。
どうして、主役がふたりもいるんだい?」
「「ジブとカラァは双子なの、仲よしなの。
いつもいっしょだから『赤ずきんちゃん』もダブルヒロイン!!」」
……… きれいにふたりの返事がハモります。
ここまで交代でしたが、息、びったりてす。
「あ、赤ずきんちゃん、たち。
それじゃあオレは、さっきからなんで吊るされていて。
なんで、きつく糸で巻かれているんだぃ」
「「運びやすくしているの。
あなたの活きのイイすがたをみんなに見せて、それからお料理して、おいしく食べるの!!」」
…………狼男は、白いミノムシのようなすがたで宙吊り。頭だけ出てます。双子は忙しそうに、さらに蜘蛛糸をかけていました。
狼男は、窓をぶち破って奇襲したものの、宙空で急停止。見えない糸に引っかかり、あっという間にぐるぐる巻き。
「…… 赤ずきんちゃんたち!聞いてくれ!!
襲ったことは謝る。だが、おれはまだ、だれもケガさせていない、壊したものは償う。だから……命だけは勘べ ン…」
「「弱肉強食よ」」
「へ?」
「「狼男さんは負けたのに、わがままいうのね」」
不思議そうなユニゾン。
「狼男さんは、本気で殺す気で待ち伏せたんでしょう? 失敗したら、なかったことにするの?」
「狼男さんは、狩りの獲物の都合を聞かないでしょう? なのに自分は、謝罪とか弁償とかおしゃべりするの?」
「………」
「「ちゃんと、美味しくいただくわ」」
キラㇻっ、と白い歯。
狼男はそんなこと、心配していません。
あと、命乞いも本気ではありません。
すきをうかがう方弁です。
でも、狼男が怪力で引っぱっても、こっそり爪を立てても、蜘蛛の糸は柔軟で強靭で少しも外れません。
がっちり全身拘束。
これでは肉体の再生能力も意味がない、為すすべなし⁉
狼男は、とうとう顔まで蜘蛛糸でおおわれました。罪(悪感)のない女の子の笑顔が、最後にみた光景………
「赤ずきんちゃんが、双子の上位肉食魔獣なんてアリかよォ!!」
……… お〰〰ん!
めでたし、めでたし。
* * * *
***
**
*
蛇足
「……狼の鳴き声がしたのぅ」
「あら、ほんと。なんだか情けない響きね」
おばあちゃんはそのとき、山で、おじいちゃんハンターと魔獣狩りをしていました。
赤ずきんちゃん(たち)とバーベキューをしようと思い立ち、美味しいイノシシ魔獣や鳥魔獣を追いに追い、仕留めに仕留めていたのです。
「そろそろもどるか。下ごしらえもあるしのぅ」
「そうですね。あの子たちも、来て待っているかも」
………空はよく晴れています。バーベキューはきっと、たのしい時間になるでしょう。
◇ふたりはプリキュ…(もとい)
『ふたりはプレデタ〜♡ MaxHungry』第0話完
*『ふたりはプレデタ〜』の異名はNOMARさまよりいただきました。




