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クラスごと集団転移しましたが、一番強い俺は最弱の商人に偽装中です。  作者: かわち乃梵天丸
第一部 クラスごと集団転移しましたが、一番強い俺は最弱ランクの商人に偽装しました。
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お風呂3 *

 俺は石川に小バカにされたので、石川のぐう音も出ない程の素晴らしい屋敷の図面を引いてやった。


 屋敷は三階建てとなった。


 一階が玄関フロアと、風呂とキッチンとトイレ。


 水は高い所から低い所にしか給水出来ないと言う構造上、水周り関係を一階にまとめた結果だ。


 キッチンの横にダイニングが無いと言う少し変則的なレイアウトとなっている。


 そのせいで、キッチンで作ったものを二階のダイニングへと持って上がらないといけなくなった。


 すごく面倒くさい構造だ。


 なんでこんな事になったかと言うと、原因は石川だ。


 一階に風呂とキッチン、ダイニング、トイレ、玄関ロビーを設置した図面を引いてたんだが、石川からクレームが付いた。


「お風呂を作る為にこのお屋敷を建てるのに、なんで五人ぐらいしか入れないそんな小さなお風呂にするのよ!」と、猛口撃を受けて設計を変更した結果だ。


 一番の売りの風呂は一階の床面積の半分を惜しげもなく使った大浴場だ。


 巨大な湯舟一つと、壁際に鏡と共にシャワーを十カ所ほど設置してある。


 ちょっとした風呂屋の浴槽といった感じ。


 もちろんシャワーは温水と冷水の二つのハンドルを用意してあるので好みの温度に調整出来る。


 風呂桶やシャワーの排水は床の上の僅かな傾斜で排水溝へと流す。


 そして排水溝を通して屋敷の外の川へと流す設計だ。


 これなら床周りがいつもカラッと乾いていてカビが生える事もない。


 ちなみに風呂場と湯船は石造りである。


 床材には水をはじく豪華な大理石を使おうかと思ったが、滑ると困るので普通の石材を使う事にした。


 ちなみにトイレも水洗で、川へと流す。


 おしっこだけじゃなく黄金色の固形物も川にそのまま流すことになるが、この近くには人が住んで居ないようなので問題はないだろう。


 万一住んでいたら、ごめんなさい。


 ちなみにトイレは男子二つ、女子六つ設置。


 ここも水捌けがいいように若干の傾斜と排水溝を設置している。


 二階は水槽ルームとダイニングとリビングだ。


 水槽ルームは石造りの水槽で、川から水車で水を汲み上げ水槽に貯め、炎水晶でお湯へと変える。


 温水用が二つで、冷水用が一つだ。


 水道じゃないので水が溜まる速度はのんびりしているがおよそ三時間で満タンになる設計。


 急ぎの時は水結晶を使えばいいので、この時間でも問題は無いと思う。


 リビングは南向きのバルコニーの横に設置。


 ここで風を感じながら本でも読めたら最高だ。


 ダイニングは皆が座れるようにかなり大きな長いテーブルを用意した。


 ゲストの事も考えて18人が同時に座れるかなり大きなものだ。


 まるでイギリスの貴族様のお城だな。


 ちなみに照明は大神殿の自室にあったランタンみたいな油を使ったランタンを考えていたが、天井が煤で汚れるとのアドバイスがエリザベスから有ったので光結晶を用いた魔導ランタンを使う事にした。


 光結晶のランタンは発熱しないので火事も起こらず、明るさも油ランタンの数十倍とかなりの優れもの。


 LED電球に駆逐された白熱電球ぐらいの性能差が有るが、あまり普及して無いのは燃料の光結晶がかなり高くつくかららしい。


 光結晶もエリザベスが用意できるとの事で魔王様には頭が上がらない。


 リビングにはソファーセットと暖炉を設置。


 夏場なので今は使う事は無いが、やはりお屋敷のリビングには暖炉は欠かせない。


 ただ暖炉はお飾りだ。薪を燃やさなくても炎結晶を置いておけば部屋を暖めてくれるらしい。


 炎結晶よ、お前は万能すぎるだろ!


 一階は防犯上あまり壁に穴を空けなかったが、二階以上はこれでもかと言うぐらい壁にガラス窓を嵌めて外光を取り込む設計にした。


 やはり部屋の中は明るく無いと気が滅入るからな。


 まあ部屋が暗くてもネットとTVが有れば十分過ごせるのだが、この異世界にはそんな楽しい物は無い。

 

 三階は寝室。


 人外組 三名 ミドリア、エリザベス、セーレ。


 勇者組 四名 石川、香川ちゃん、長野さん、俺。


 現地人組 一名 リリィさん。


 合計八名分の個室。


 ロココさんの部屋も有った方がいいかと悩んだが、たぶん殆ど来ないと思ったのでゲストルームで対応することにした。


 個室はゲストルームも入れて十二室となった。


 個室はすべての部屋を窓沿いとしバルコニーとクローゼットを完備。


 日の当たらない側の部屋は普段使う事のないゲストルームとしたので文句を言う奴はいないだろう。


 部屋の大きさは二十畳と、女の子の場合ベッドの他にドレッサーを置いても十分に広いだろう。


 我ながら素晴らしい建物の青写真が出来上がった。


 ただ不安も有る。


 果たして素人が書き上げた図面通り家を作って住居として使えるものなのか?


 住んだ途端にいきなり倒壊したら堪らん。


 ここは建築家に一度見て貰った方がいいな。


 それと建設予定地。


 水車を設置する都合上、河原近くに建てるつもりだけど誰の土地か解らない様な所に勝手に建てていいのか悩む。


 勝手に建てた屋敷が土地の所有者に見つかったら間違いなくトラブルが起こる。


 まあトラブルが起きたら最悪アイテムボックスの中に屋敷を回収すればいいだけの事だけど、トラブルを避ける為にも事前に土地の権利関係を調べておいた方がいいな。


 キャンプ場は冒険者ギルドの管轄らしいことを聞いたから、リリィさんにでも聞いてみよう。


 俺は図面を持って再び王都へと戻った。


 *


 俺達はミドリアの転移魔法陣を使い街外れに移動すると冒険者ギルドに向かった。


 目的はあの河原が誰の所有なのか権利関係をリリィさんに聞くためだ。


 だが冒険者ギルドに行ってみたがリリィさんの姿は無かった。


 受付嬢のミントさんが忙しそうに冒険者の持ってくる依頼票を捌きながら、俺の質問に答えてくれた。


「リリィさんですか? リリィさんなら王宮に行ったままですね。王都周辺の調査を騎士団と冒険者ギルドで合同でするらしく、打ち合わせで忙しいみたいです」


 多分その調査というのは石川達がトラブルに巻き込まれた魔晶石の事だろう。


 調査と言えど、少人数のパーティーで調べるのは危険と悟って騎士団をも巻き込んだ大規模調査に切り替えたのだろう。


 ミントさんの話を聞いた石川がニコニコしている。


「ねねー? 聞いた? リリィさん忙しいみたいだよ。きっと私達の訓練は取り止めでしばらくはのんびりできるわね」


「忙しいんじゃ仕方ないですぅ。訓練したかったなぁ」


 訓練なんて好きでもないのにやる気をアピールする香川ちゃん。


 こういうことを自然と言えるのが香川ちゃんが腹黒と呼ばれる所以である。


「リリィさんも忙しくなっちゃったみたいだし、私達の特訓もこれで終わりかな? せっかくやる気になってたのに残念ね」


 するとミントさんが思い出したように石川に本を渡す。


「あ、石川さん達の特訓なら明日から臨時の講師が付くようですよ」


「えっ? 新しい講師がついちゃうの?」


「凄く厳しい先生ですよ」


「うぐぐぐ」


 顔に死相が出てるんじゃないかと思うほど、休みが取れなくてガッカリしている石川であった。


「リリィさんからの伝言で、明日までにその本を読んでおくようにとの事です」


「なになに? 『誰にでも使える、魔法入門』? ついに私達も魔法を覚えられるの!?」


「やっと普通の訓練ですぅ!」


「魔法かー。楽しみですね」


 本を見て目を輝かせる三人娘であった。


 そこにやって来たモヒカンマッチョのギルド長。


 胸の筋肉をピクピクと痙攣させながらやって来た。


 プロテイン飲み過ぎだね。


 うん。


 ちなみに、全然似てないけどリリィさんと血の繋がった父親である。


 リリィさん、お母さん似でほんと良かったね。


 マッチョギルド長はニコニコしながら俺に話し掛けてくる。


「ん? どうした、タカヤマ? また俺と試合をしたいのか? 随分と訓練したみたいだからだいぶ強くなっただろう? 今度は俺に一度ぐらい攻撃が当てられればいいな! ガハハハ!」


 この前は確かに一度も攻撃を当てなかったけど、それ当たらなかったんじゃなくて当てなかったんだから!

 その語り草を聞いていると俺がギルド長にボロ負けだったと思えてしまうぜ。


 ちょっとムカつく。


 かと言って、ムカついたぐらいでわざわざ試合をする程俺は暇じゃない。


 とっとと要件を済ませて帰ろう。


 俺は用件であるキャンプ場の土地の権利の話を切り出した。


「今日はギルド長と手合わせしに来たんじゃないんです。少し聞きたい事が有ってやって来たんですよ」


「ほう? 何を聞きに来たんだ?」


「あのキャンプ場の近くに拠点となる住居を建てようと思ったんですが、周辺の土地は誰の物なのか聞きたくてやって来ました」


「あそこか? あのあたり一帯は王国から借りて冒険者ギルドが管理している土地だな。たしかあのキャンプの5キロル四方ぐらいはギルドの管理の筈だ」


「あそこはギルド管理の土地だったんですか」


「そりゃそうよ。人様の土地で勝手に訓練や採取とかしてたら怒られるだろ。ガハハハ!」


「じゃあ、お願いが有るんですが、川の近くに家を建てようと思うんですけど土地を使わせてくれませんか?」


「おう! それなら勝手に使ってくれ。なんたって俺の娘の婿になる男だからな」


「婿?」


 それを聞いた石川がモヒカンマッチョに詰め寄った。


「なによ婿って!」


「タカヤマに怪我をさせたから、婿にして一生食べさせないといけないってリリィから聞いたんだが違うのか?」


「あー、あの事故か。それなら解決済でもう過去の話さ」


「なんだ、残念だな。あいつが家に戻ってくると、いっつもお前の話ばかりをしてくるんだけど、あいつが俺に男の話をするなんて初めての事だろ? 昨日もお前の事を話してたし、かなりお前の事を気に入ってるみたいなんだ。良かったらリリィを嫁に貰ってやってくれないか?」


 まじ?


 リリィさん、俺の事が好きなのか?


 全然気が付かなかったぜ。


 今回の異世界転移で俺モテまくりじゃね?


 あまりにモテまくって死亡フラグが立つんじゃないかと少し心配なぐらいだぜ。


 嫁と言う言葉を聞いて石川が反応してるわ。


 顔真っ赤にしてモヒカンマッチョに突っかかってる。


「はぁ!? なんで私の高山をリリィさんの婿にやらないといけないのよ! 高山は私と結婚してるんですからね!」


「わらわも結婚してるぞ」


「わたくしも我が君と結婚しています」


 今まで黙っていた魔王ツインズまで俺の嫁宣言。


 まあ、男としては悪い気分じゃない。


「あ、すまんすまん。先約が有ったか。そりゃ、こんないい男を女が放って置くわけないもんな。ガハハハ!」


 モヒカンマッチョと親戚関係になる事を回避できた俺はそっと胸を撫で下ろした。


 冒険者ギルドを後にした俺達はロココさんの家に向かう。


 最近ロココさんに会っていないので顔見せと、建築業者を紹介して貰うためだ。


 だが家に行ってもカギが締まっていてロココさんは居なかった。


「あれ、どうしたんだろう? 忙しいのかな?」


「どうでしょう? シェリーさんのお店が開店中の時間なのでそちらに居るのかもしれませんね」


「行ってみるか」


「はい」


 シェリーさんの店に行くと、閉店時間まで少し早めだけど店の鍵を閉めて帰ろうとしているシェリーさんと出会った。


「シェリーさん! もう店じまいですか?」


「お! タカヤマ! 今日も完売で売る物無いから店じまいなんだ。ところで助けに行った仲間は大丈夫だった? みんなここにいるって事は大丈夫だったんだな」


「はい。お陰様で」


「それは良かった。うんうん」


「あのー、すいません。ロココさんを探しに来たんですけど、どこに居るか心当たりがありませんか?」


「ロココさん? 今凄く忙しいみたいで、そこらじゅうを駆け回ってるみたいだよ。朝、この店にマグロを届けたらいつもは手伝ってくれるのに、手伝わないで帰っちゃうぐらい忙しいみたい」


「そうなんですか。何処に行ったか心当たりが有りませんかね?」


「ごめん。全く心当たりがないなー」


 どうやらシェリーさんはロココさんの行き先は解らないみたいだ。


 ならば図面をチェックしてくれる大工さんだけでも紹介して貰うか。


「そうですか。聞いてばっかりで申し訳ないんですけど、大きな家を作れるような大工さんの知り合いが居ませんか?」


「大工さん? うーん、私はロココさんみたいに顔が広く無いから知り合いは居ないんだけど、商業ギルドに行って聞いてみれば紹介してくれるんじゃないかな?」


 久々にやって来た商業ギルド。


 なんか役所でたらいまわしにされてる気分。


 俺は商業ギルドのメンバーであるけどギルドの手続き関係とかは皆ロココさんに任せっきりなので、ここに来たのは二度目だったりする。


 なので冒険者ギルドと違い、居心地の悪さが半端ない。


 皆、鷹のような鋭い目をしてクエストボードをの依頼票を見定めでいる。


 俺はそんな商人達の隙間を縫って受付に。


 受付嬢は明らかに商人ぽく無い俺を怪訝な表情をしてみる。


「何の御用ですか?」


「大きな家を作れるような建築業者さんを紹介して貰えませんか?」


「家の建築のお仕事のご依頼ですか?」


「お仕事と言うか、家の建築図面のチェックをして貰いたいのです。この図面で本当に家が建つのか大工さんに検証して貰いたいのです」


「なるほど、建築図面チェックのお仕事ですね。それなら今、適任者が一名いますね。紹介料が5000ゴルダ、依頼料が4万5000ゴルダになりますが、どうされます?」


 俺が依頼を発行すると、やって来たのはカリンさんだった。


「カリンさん! お久しぶりです」


「どうしたんだお前ら?」


「カリンさんは建築家だったんですか?」


「建築家なんて大層な物じゃないよ。ただの大工さ」


「お風呂とか石造りの家の建築に詳しいですか?」


「まあ、それなりにな。この前の風呂屋は私が作ったんだ」


「それは頼もしい。じゃあ、この図面を見て貰えませんか?」


「おう! じゃあ、奥の酒場にでも行って座りながら話そう。ここじゃ騒がしすぎて落ち着いて話せないからな」


 俺達は奥の酒場の一角に座る。


 女の子ばかりなので、酒を飲みながら食事をしているまわりのおっさん達にじろじろと見られる。


 中にはナンパをしようと絡んで来た不埒な輩もいたが、ミドリアに一瞬で魅了されて店の外へと出て行った。


 俺が渡した図面を見て、カリンさんはやたら感心していた。


「魔法では無く、川の流れで水を汲み上げるのか! これは面白い! こんな物誰が考えたんだ?」


「はい、はい、はーい! それを考えたのはわたしよ!」


 と、ビシッと手を挙げる石川。


 俺は力ずくでその挙げた手を下げる。


 おい石川、嘘言うなよ。


 長野さんの発案だろ。


 俺はカリンさんに水車の説明をする。


「これは僕らの世界に有った水の流れを動力源として動かす機械なんです。既にこの機械は実証実験済みで魔力なしに四メルトの高さまで水を汲み上げる事を確認しています」


「ほー! これは面白い! 物凄く興味深い図面だ。この図面の検証だけではなく、ぜひ私に作らせてくれないか? こんなワクワクする図面は初めてだよ!」


 カリンさんの目は宝物を与えられた子供の様にキラキラと輝いていた。


 屋敷の建築を請け負ってくれることになったカリンさん。


 早速図面の検証を始めてくれた。


 ただ図面を眺めれば眺める程、表情が険しくなる。


「うーん、このままでは厳しいな」


「二階に水槽を設置すると重量的に厳しいですか?」


「いや、そういう事じゃないんだけどね。色々とダメだな」


 一生懸命書いた図面が、頭ごなしにダメと言われるとさすがにカチンとくる。


「ダメですか? 具体的にどこがダメなんですか?」


「この建物の中にどこから入るんだい?」


「何処からって、玄関からです……あっ! 玄関にドアを付け忘れた!」


 だめじゃん俺。


 カリンさんは次々とダメ出しを続ける。


「3階の個室もドアが無いしなー。その割にはクローゼットにはドア付いてるんだよね」


「クローゼットの事だけ考えていてドアを忘れてました」


「それにこのクローゼットもガラス窓もダメだね。たぶんベッドはここに置くんだろうけど、ベッドとクローゼットのドアが干渉するし、ガラス窓は出窓になってるけど外にバルコニーがあるだろ? バルコニーにどうやって出るんだろう?」


「うぐぐ。そこまで考えていませんでした」


「他にも問題が有るな。庭は有るけど侵入者を拒む柵が無いだろ? このままじゃモンスターが家の中に入ってきそうだし、お風呂もヘビやネズミが入って来るな」


「ね、ネズミ?」


「きゃー! ヘビ??」


「うん、この排水溝は壁にただ穴が開いてるだけだから外から色々な者がやって来そうだね。気が付くとお風呂場がスライムの巣になってそうだ。普通は外部からの侵入者を遮断するために柵と水溜りトラップを仕掛けるんだよね」


「図面をちょっと見ただけでそんなことまで解るんですか」


「そりゃ、五つの時からずっと大工してるからね。図面のダメな個所はすぐ解るよ。図面は書けてるけど実際には作れない物とか、今回の排水溝のトラップみたいな足りない物とか図面を見ればすぐに解るんだ」


「さすがですね」


「あ、ここのキッチンもおかしいね。キッチンで作った食事を上の階まで持って行くのにわざわざ玄関前の階段経由で行かないとダメだし。それ以前にキッチンとダイニングは隣接して無いと不便過ぎてダメだな」


「ダイニングは一階に無いと水道が使えないので……」


「それなら魔導ポンプという物を使えばいいんだ。お風呂みたいな大量の水だとダメだけど、キッチンで使うぐらいの水なら余裕で上の階まで流せるよ」


 こんな感じで指摘が続き、結局カリンさんが翌朝までに新しい図面を引き直す事になった。


 そして打ち合わせは、実際の工事へと進む。


「このぐらいの建物だと私の他に職人が十二人は欲しいな。建築期間は三カ月」


「屋敷の建築だとそれぐらい掛かるんだろうな」


「うちの職人は優秀だから、屋敷を建てるのは一カ月も有れば出来るんだ。ただ馬車での資材の運搬に結構時間が掛かるから、それが二カ月かな? 事前に部材を用意できてれば一ヶ月で何とかなるんだけどね」


「用意出来たら一ヶ月で何とかなるんですか?」


「まあね」


「それなら、俺はアイテムボックス持ちなんで運搬しますよ」


「アイテムボックススキルを持っているのは凄いけど、建材はアイテムボックスに入らない様な大きな物ばかりだぞ」


「それなら俺のアイテムボックスは家を丸ごと入れられますので大丈夫です」


「家丸ごとか! それは凄いな」


「俺、勇者ですから」


「じゃあ、資材の運搬は任せる事にしよう。量が多くて大変だけど頑張ってくれよ」


「はい」


「運搬が無くなるとなると資材待ちが無くなるから建築現場に泊まり込みした方がいいな。建築現場は王都から離れているので毎日戻っていたら効率が悪いので、週七日のうち五日は現場に泊まれるように仮設の仮眠部屋を建築したい。その小屋の建設に二週間。合計二カ月弱は掛かると思う」


「あ、小屋ですか? それならちょうどいい小屋が空いてるから大丈夫ですよ」


「そうなのか? それじゃ小屋の建築は要らないから一ヶ月ちょっとで出来るな」


 すると話を横で聞いていた石川が俺の脇腹をツンツン突き耳打ちをしてくる。


「ねー、小屋なんて無いけど嘘言っていいの?」


「大丈夫さ、明日の朝までに小屋を建てればいいんだから」


「え? そんなに早く小屋を建てれるの? 十二人分よ? 十二人分」


「カリンさんも入るから十三人分だろ? とは言っても十三軒の小屋を作る必要は無くて、一軒当たり四人が寝泊まりすれば五軒も小屋を建てればいい。徹夜すればどうにかなるさ」


「一晩で五軒の小屋を建てるの? あんた、ほんと凄いわね。勇者やめて大工になりなさいよ」


「それもいいかもな」


 石川との話が終わったとこでカリンさんが話を続ける。


「次はいやらしい話になるけど、金銭面の話をしたい。まず食事。食事はそちらで支給して欲しい。さすがに大工が自炊してもろくな物が作れないからな。調理人とか食材の手配をそちらで頼む。まあ、あんまり贅沢は言わないんで食えるレベルだったら誰も文句は言わないさ」


 食事はシェリーさんと冒険者ギルドの食堂に発注だな。


 大量に作って貰ってアイテムボックスの中に収納しておけばいい。


 アイテムボックスの中では時間経過が無いから、一カ月前に作った料理も熱々のままで新鮮だ。


「次は賃金だ。賃金は経費雑費込みで一日一人当たり一〇万ゴルダ。一日の総額が百三十万ゴルダで三十日なので三千九百万ゴルダ。建築資材は実費でおおよそ二千万ゴルダの総額六千万ゴルダ。屋敷の建築費用としては標準的な金額だと思う。纏めて払えないなら分割でもいいよ」


「費用ですか。ちょっとその見積もりと変わるんですがいいですか?」


「いいけど、安売りはしないぞ。こっちは家族の生活も掛かっている職人が多いんだからな」


 その日当方式だとダラダラ仕事をして工期を延ばせば延ばす程貰える日当が増えて儲かるから、職人がわざと仕事を後延ばしにして建築期間が伸びそうだ。


 ここはサクッと仕事を済ませて貰う契約にすべきだな。


 俺は新たな契約を提案する。


「こちらの条件はこんな感じです。建築資材は実費で構いませんが、賃金は変えさせてください。まず、職人さんへの支度金を前払いで一人当たり百万ゴルダ。これは建築期間中の御家族への生活費の保障と考えてください」


「百万も前払いして貰っていいのか?」


「ええ、安心して仕事をして貰いたいので。次は日当ですが、」


「思いっきり値引くのか? まあ、百万も前払いで貰っていたら多少値引いても構わないぞ」


「いえ、値引きは致しません」


「えっ?」


「むしろ割り増しをさせて頂きます。先ほどは一人当たりの日当の総額が三百万ゴルダという事でしたので建築終了後に三百万ゴルダをお支払いします。これは支度金とは別の報酬です」


「総額四百万ゴルダも貰っていいのか!?」


「ええ、更に予定の一ヶ月で屋敷が完成すれば成功報酬として二百万ゴルダ追加いたします」


「一ヶ月で六百万ゴルダもか! そんなに貰っていいのか? 普通の倍の金額だぞ!?」


「ええ。ただし成功報酬はあくまでもしっかりした建物が出来た時のお支払いですから、急ぐあまりに手抜き工事をした場合はお支払い出来ません」


「まかせろ! わたしがしっかり見張ってるから手抜き工事なんてさせないし、うちの職人が手抜き工事をするわけがない!」


「では、お金を渡しときますね。支度金の千三百万ゴルダと資材代合わせて三千五百万ゴルダ」


「うは! 三千五百万ゴルダか! こんな大金の現金を一度に見るのは初めてかも!」


 カリンさん、凄くテンションが上がってる!


「じゃあ、資材は明日取りに来るから集めておいて欲しい」


「明日の朝までに急ぎで使う資材を用意して置くからここのメモに書いてある住所に来て欲しい。ここが私の事務所なんだ」


 打ち合わせが終わると、カリンさんはやたら高いテンションで三千五百万ゴルダ入りの布袋を担いで帰っていった。


 そりゃ普通の倍額も賃金を払って貰えるなら大喜びだわな。


「我が君、そんなにお金を払ってしまっていいのですか?」


「俺達の屋敷を作るんだ。金に糸目をつけて不満の残る物は作りたくないんだ」


 それに金なら有り余るほど有る。


 使うべき時に使ってこその金だ!


「さすが我が君です! 素晴らしいお考えです。でも、先ほど職人さん達の住む小屋が無いのに有ると言っていませんでした? もしかしてわたし達の家に十三人も泊めるのです? それだとかなり手狭な感じになってしまい、我が君との夜の営みが十三人の大工さんに見つめられながらしないとならなくなってしまいます。それはそれで興奮しますが……じゅるり」


「ああ、それか。そういう事にはならないから安心してくれ。今から小屋を作ろうと思うんだ」


「今からですか?」


「今から徹夜して小屋を作り上げる。ミドリア、エリザベスは手伝ってくれ」


「解りました」


「いいぞ」


「私は?」と、石川。


「お前たちは明日から訓練だろ? 今夜から神殿に泊まれよ」


「えー! 私も家作りたいよ」


「俺達の夢はダンジョン踏破コンテストで入賞して自由になる事だろ?」


「そうだけど……」


「俺達の自由はお前に掛かってるんだ! 頑張れ! 強くなって俺を自由にしてくれ! 頼んだぞ!」


「うん! 頑張る!」


 石川達と別れを告げると、俺達はキャンプ場に戻る事となった。

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