お風呂1 *
朝、長野さんとキッチンで料理を作っていると頼み事をされた。
「ここのキッチンは井戸が無いから物凄く不便ですよね。料理で使うお水は川迄汲みに行かないといけないし、食べた後のお皿は川迄持って行かないといけないし」
「たしかにそう言われるとそうだな」
「手が空いた時でいいですから、井戸掘り職人さんを手配して貰えませんか?」
「井戸掘りか。ちょうどいい奴がいるぞ。おい、ミドリア! ちょっと手伝ってくれ」
井戸掘りならミドリアが簡単に出来るはずだ。
なにしろダンジョンごと掘り起こすような大穴を空ける技だか魔法を持ってるしな。
井戸掘りぐらい簡単だろう。
俺に呼ばれてやって来たミドリアがかしこまって頭を下げる。
「我が君、何の御用でしょうか?」
「悪いんだが井戸を掘って欲しいんだ。出来るか?」
「井戸ですか? わたくしにお任せください」
「おお、出来るか。ありがとう」
「どこに掘ればいいでしょうか? キッチンの隅のここでよろしいですか?」
「そうだなー。キッチンの中でもいいんだけど風呂にも使いたいからキッチンから出てすぐの所に掘って欲しい」
「お風呂を作るんですか?」
「長野さんも入りたいだろ?」
「はい! もの凄く入りたいです!」
「井戸作った後にドラム缶風呂でも作るから」
「ほんとうですか! ありがとうございます。物凄く楽しみです!」
満面の笑みの長野さん。
ここまで喜んだ長野さんを見るのは初めてかもしれない。
ミドリアをキッチンの裏口から出てすぐのとこに案内すると作業を始めた。
「ではさっそく」
地面に魔法陣が描かれ、光ると同時に近くに土の山がドサリと落ちる。
「これは何の魔法なんだ?」
「空間転移の魔法ですね」
「この前ダンジョンに大穴を空けたのもこの魔法か?」
「はい。それと同じ物です」
ミドリアは次々に土を掘りだす。
やがて土の山は小屋の屋根を超す程の大きな山となる。
結構掘ったみたいだけどまだ水が出ない様だ。
「なかなか水が出ないな」
「いえ、地質が湿気混じりの層に変わってきたのでそろそろ水が出るはずです」
それから3回ほど掘ると土を積み上げる音が変わった。
べちゃり。
水を含んだ土に変わる。そしてもう一度掘る。
ばしゃ!
こんどは明らかに水音に変わった。そしてもう一度。
ばしゃん!
完全に水へと変わった。ミドリアはたった10分ほどで井戸を掘り終えた。
「我が君、井戸が完成しました」
「お前凄いな! 井戸掘り職人より早いぞ」
「我が君の為に頑張らせて頂きました」
「ありがとう!」
頭を撫でてやると「くーっ!」っと声を上げて顔を真っ赤にした。
可愛い奴だ。
「後は井戸の仕上げだな。俺がやるから。落っこちない様に仕切りを作って、屋根作って、滑車を作って、ロープで桶を垂らしてと……」
一人でやるつもりだったが長野さんもミドリアも手伝ってくれた。
俺が井戸の仕上げをしていると、何をやってるのか気になった石川と香川ちゃんリリィさんもやって来る。
「なにやってるのよ?」
「井戸作ってるんだよ」
「井戸? 井戸なんてあんたのアイテムボックスが有れば要らないんじゃないの?」
「それはそうだけど、俺はいつもここにいる訳じゃないし」
「あっ、そうか。そうだわね」
すると長野さんが嬉しそうに石川に報告する。
「この井戸作ったら、高山君がお風呂作ってくれるんですよ」
「なにそれ! ほんとう? 本当なの?」
「おう、まかせとけ」
で、胴の短剣を鋳つぶしたりして、夕方前には出来上がったドラム缶風呂。
壁と底に木の板で仕切りを仕込んだので、入浴中にドラム缶に触れて熱い思いをしないご自慢の親切設計だ。
でも、すごく不満げな石川。
「ど、ドラム缶風呂? なによそれ? なんでそんなショボいの作るのよ!」
「ドラム缶風呂じゃダメか?」
「ダメに決まってるでしょ! 入っても足を伸ばせないから入っても気持ちよくないじゃない! 高山はダンゴムシみたいに丸まって入る狭いお風呂に入って楽しいの?」
「そう言われるとそうだな」
「温泉掘りなさいよ! すっごく大きくてみんなで一緒に入れる位の大きな温泉作りなさいよ!」
「温泉はそんな簡単に掘れないだろ? ここに温泉が出るかもわからないし」
「じゃあ、でっかいお風呂! 足伸ばせないとダメだからね!」
「それを作るのは大変だぞ。それに水道が無いんだから風呂桶に水を汲むのも大変だぞ」
「そこを何とかするのが高山の仕事じゃない? 高山なら出来るわよね? それとも高山じゃ無理?」
「で、出来るさ!」
なんか頭ごなしに出来ないと言われると悔しいな。
ああ、やってやるさ!
みんなの度肝を抜くような、すごい巨大浴場を作ってやる!
俺はそう決意した。
*
「ねー! もっとお湯熱くしてよー!」
「はいはい」
俺はドラム缶風呂のお湯番をしていた。
最初にドラム缶風呂に入ったのは石川。
ミドリア、エリザベス、石川、香川ちゃん、長野さんの総勢5名によるドラム缶風呂入浴権争奪杯のじゃんけん大会で優勝したのが石川だった。
ちなみにリリィさんは朝一番で騎士団へ砂漠のダンジョンの事を報告すると言って冒険者ギルドへと帰っていった。
俺が薪をくべてやるとお湯の温度が上がったのか石川が気持ちよさそうに声を上げる。
「ふー! お湯が温かくなってきて気持ちいいわー! やっぱり日本人はお風呂よね! お風呂いいわー!」
「お前、ドラム缶風呂は狭くて気持ち良くないって言ってなかったか?」
「そんなこと言ってない!」
「嘘コケ! 後がつかえてるんだから無理して入らなくていいんだぞ」
「言ってないから、出ないもん!」
「じゃあ、ドラム缶風呂で満足しているなら、大きな風呂は要らないって事でいいよな?」
「そ、それとこれは別よ! 大きなお風呂は絶対に作らないとダメだからね! 絶対に作るのよ!」
「へいへい」
要るとか要らないとか、言ってる事がコロコロ変わってよく解らない女だな。
でも、そんな子猫みたいな俺の言いなりにならないとこが可愛いっていえば可愛んだが。
すると、長野さんがやって来て俺達に遠慮がちに話し掛けて来る。
「あのー、石川さん。そろそろお風呂を出ていただけませんか? エリザベスさんが待ちきれないみたいで裸で辺りを走り回ってるんです」
「しょうがないわねー。やっとお湯の温度が上がって来て気持ちよくなって来たのに。出るわよ! 出ればいいんでしょ!」
「ありがとうございます」
同じクラスメイトなのに石川にやたらペコペコする長野さん。
石川は俺からバスタオルを受け取るとドラム缶風呂から出た。
形のいいおっぱいが俺の目の前でプルンと揺れる。
石川は性格はあれな女だが、おっぱいの形の良さだけは認めたいと思う。
「今日は貸しにしておくからね」
「ひっ!」っと小声を上げて、一瞬で顔色が悪くなって固まる長野さん。
相変わらず仕草が小動物っぽい。
「風呂出ただけで貸しとか、どんだけ殺伐とした世界なんだよ?」
「ここは異世界よ! 平和な日本じゃないの!」
言ってる事がわけわかんねー!
石川はわけわからない事を言って風呂小屋を後にした。
次に入って来たのはエリザベス。
こいつも石川に次いで運がいいのか、じゃんけんで二番目の入浴権を手に入れた。
小柄でロリッ子体形だがおっぱいはこれまたいい形だ。
そんなエリザベスが走って来て身体を洗わずにドラム缶の中に飛び込んで来た。
ザッパーン!とお湯をまき散らす!
辺りも俺もびしょ濡れだ。
「おいこら! 体も洗わずにいきなり飛び込む奴が有るか! お湯が汚れるし、お湯が無くなるだろ!」
エリザベスは俺の注意も聞かずドラム缶風呂にご満悦の様。
「これがドラム缶風呂か! 肩まで湯に浸かると言うのは気持いいもんだな。それにしても、タカヤマの国の風呂は随分と面白い形をした風呂なんだな」
「これは簡易的な風呂だから普通の形の風呂じゃないんだ。本物の風呂は凄いぞ!」
「凄いのか?」
「大きな湯船で足を延ばしてのんびり浸かって温まってな。疲れが身体から溶け出すように楽になるんだ。それで、お風呂から出たら今度はコーヒー牛乳だ!」
「コーヒー牛乳?」
「おう! 俺の居た世界の飲み物だ。冷たくて甘いんだ」
「それは美味いんだよな?」
「ああ、うまいぞ!」
「カニやマグロより美味いのか?」
「さあ、どうかなー? カニやマグロなんかの食べ物とは違って飲み物だから比べられないと思う。食べ物じゃなくて、全く別の飲み物だからな」
「それは楽しみだぞ! じゃあ、早く大きな風呂とやらを作ってくれ」
「おう! がんばる!」
こんな感じで日没直前まで女の子達のお湯番をした。
お風呂で唯一恥ずかしがっていたのは長野さんだ。
長野さんはタオルで巻いた身体さえ見られるのが恥ずかしいらい。
顔が爆発するんじゃ無いかと思うぐらい顔を真っ赤にしてたので、こっちの顔まで真っ赤になってしまった。
*
夕食は女の子達が作ってくれたオーク肉のトンカツだ。
小屋で食べる久々の本格的な料理に舌鼓を打つ。
魔王様達は見た事ない料理に大喜びだ。
「なにこれ! なんですの! なんでこんなに衣がサクサクしてるんですの?」
「食べると衣が包んでいた肉汁がじゅわーっと染み出てきて、すごく美味しいな!」
本当はソースとキャベツの千切りが欲しいとこだったが、贅沢は言うまい。
楽しい夕食の時間は過ぎていった。
*
そして夜。
俺は風呂の図面を引き始める。
いざ設計図を書き始めると風呂を作るのは大変な事だと気が付いた。
まずは水道が無い。
水道を作ろうと思ったが、水道の仕組みがわからないのでどうやって風呂桶に水を張るのかが謎だ。
アイテムボックスを使えば簡単に解決できそうだが、それだとアイテムボックス持ちが居ないと使い物にならないので避けたい。
湯沸かし器も無い。
そうなると鍋でお湯を沸かして風呂に張る?
そんな事をしてたら日が暮れるぞ!
むぅ。
正直、今迄物の構造なんて知ろうともせずあんまり細かい事を考えずに生きて来たので、物の原理とか細かい事はよくわからない。
風呂釜の構造を知ってるわけもなく、湯沸かし器の構造もよく解らない。
これでどうやって作ればいいのかと思ってると、どや顔をした石川がやって来た。
「あら? どうしたの? まさか、お風呂の作り方が解らなくて悩んでるのかな?」
「悪かったな。そうだよ。お風呂の湯沸かし器の構造がさっぱり解らないんだ」
「ふふふ、ダメッ子ちゃんですねー。よちよち」
「ぐぬぬ!」
石川のこの言葉遣い、子供相手みたいですげームカつくんですけど!
こいつ、湯沸かし器の構造が解ってるから俺の事を馬鹿にしていやがる。
「解らないのかなー? 解らないんだよねー?」
「ああ、悪かったな! さっぱり解らないんだよ! 教えてくれよ」
「はあ? そんな事、女の子のわたしが解る訳ないじゃない」
「え? おい? いまお前、湯沸かし器の構造が解ってるような事言ってなかったか?」
「いや、あんたが大口叩いてお風呂作るって言ってたわりに悩んでた顔をしてたから、からかってただけだよ」
「お前もバカだったか」
「バカって言わないでよ」
「でもどうすりゃいいんだ? 香川ちゃんなら知ってるかな?」
「そうね。連れて来るわ」
やって来た香川ちゃんと長野さん。
香川ちゃんはどや顔で言った。
「お湯はお鍋で沸かせばいいんですよぅ。それを何杯も入れればいいのですぅ」
ダメだ!
香川ちゃんも俺達と同じアホ領域の住人だった。
最後の頼みは長野さん!
「えーっと、ごめんなさい。わからないです」
ぐはーっ!
俺達日本人は、全滅だ!
技術大国日本と言われた時代は何処にいった。
現代技術チートで異世界無双とか夢のまた夢。
まじ役立たねー、俺ら。
遠慮がちに長野さんが続ける。
「でも、わたし達、王都でお風呂屋さんでお風呂入った事があるんですよ」
「そう言えば行ったわね」
「気持ちいいお風呂でしたぁ」
「そこに行けばお風呂の作り方が解るんじゃないですかね?」
という事で、俺達は王都に行ってお風呂屋さんの視察をする事にした。




