禁忌4 *
俺の頭の中に一気に三人娘の記憶が奔流となって流れ込んできた事で、頭が張り裂けそうに痛くなる。
頭の中が膨れ上がり中からバットで殴られたような感覚。
衝撃で足元がふらつき気を抜くと気絶しそうな感じだ。
だが今は気絶してる暇なんて無い。
俺は三人娘の記憶を急ぎ足で見る事にする。
(長野の記憶)
魔晶石の設置されていた部屋にやり過ごしたはずの魔族が戻って来た。
そして何かを詠唱すると同時に床の上に浮かび上がる魔法陣!
魔法陣が光り輝くと同時に床が抜けた!
底の見えない真っ暗な落とし穴の中に私は落ちた。
真っ暗闇の中で何も見えないけど、ものすごい勢いで落ちているのか風切り音で解った。
近くで「ぎゃーーー!」と石川さんの叫び声!
このまま落ちる速度が上がり続けたら……底に着いた時の事を考えると私は恐怖で叫び声も出せなかった。
落下の加速度と漆黒の闇の恐怖に耐えかねて私の気は徐々に薄れていった。
「イシカワ! ナガノ! 起きろー!」
リリィさんの声で起こされて気がついた。
私は落とし穴の底に仰向けになって横たわっていた。
体は所々傷むけど激しい痛みは無かった。
見ると天井には上の見えない真っ暗な穴が見える。
どれだけの距離を落ちて来たんだろうか?
そんな距離を落ちて来てなんで無傷でいるのかが不思議だった。
リリィさんが再び叫ぶ!
「逃げろ! 今すぐあそこの壁の割れ目に!」
目の前には信じられないものが転がっていた。
香川ちゃんの首だった。
何が起こっているのか解らないけど大変な事が起きているのは間違いなかった。
私はリリィさんの声に従い、壁の割れ目へと一目散に走り込みずっと震えていた。
(香川の記憶)
黒い魔導士みたいなのが戻って来た声がしたかと思ったら落とし穴に落ちた。
私は落下中に何度か壁にぶつかったけど怪我はしなかった。
石川さんと長野さんは途中で気絶したみたいでリリィさんが抱えていた。
そして着地というか墜落。
着地の衝撃で一瞬気を失った。
そりゃね、床にびたん!と全身を叩きつけられたら無事じゃいられないね。
気絶だけで済んだのが幸運だったよ。
着地寸前になにか魔法をリリィさんが使ったみたい。
たぶん風の魔法で着地の衝撃を和らげたんだと思う。
私は気絶からすぐに目を覚ましたんだけど目を覚ましたのはリリィさんが唸り声をあげていたから。
「うーっ! いたたたたた!」とかなり痛そうな声。
見ると片足が変な方向に曲がっていた。
私はリリィさんの事が心配になって声を掛けた。
「リリィさん、足を怪我しちゃったみたいだね。歩ける?」
「ちょっと無理みたい。足の骨が折れたみたいだ」
「気絶した長野さんと石川さんを抱えての着地だったからね」
「ちょっと無理しちゃったみたいだな。まあ、これぐらいなら僕のスキルの低い回復魔法でも時間を掛けてれば治るよ」
「あそこの壁に避難所になりそうな割れ目が有るから、とりあえずあそこに移動しよう」
「わかった。気絶している石川さんと長野さんをあそこまで運んだら、リリィさんも運ぶから少し待ってね」
私が石川さんを引き起こして運ぼうとしたらリリィさんの表情が青ざめた。
「にげろ!」
「えっ!? にげろ?」
その言葉と同時に私の首に走る痛み。
そして回転する視界。
声を出そうにも口は開くのに声が出ない。
そして訪れる真っ暗闇な世界。
すぐに意識が途絶えた。
肝心のリリィさんの記憶が見れなかったが三人の記憶を見終わった時点で大体の状況が解った。
魔晶石の封印を解除していると、とても強そうな漆黒の魔導士が出て来て一度は帰ったものの再び戻って来て魔法陣を展開し落とし穴を作りだし石川達を落とし穴の中に落とす。
落とし穴に落ちた石川と長野さんが気絶。
それをリリィさんが抱き抱え着地。
その重量のせいで足を骨折。
その時どこからか現れた巨大なカマキリが不意打ちのような形で香川ちゃんの首を跳ね、リリィさんも襲われる。
壁の割れ目に逃げ込んだ石川は孤軍奮闘するものの力尽き長野さんは俺達が来た事で助かった。
そんな感じである。
神速を持っている石川なんだから時間を掛ければ一人でもあの程度のカマキリなら倒せたはずなんだが、香川ちゃんが襲われたことで気が動転してまともな判断が出来なくなったんだと思う。
戦闘経験の少ない、肝の据わっていない初心者にありがちな事故であった。
状況が解ればやり直す地点は簡単だ。
戻るのは敵が来る前、ダンジョンの隠し部屋の入る前だ!
俺はミドリアにここで起きた事を話す。
「なるほど。我が君の心の中の妖精さんの記憶ではこの洞窟の上に魔晶石を収めた部屋が有って、そこに魔族がやって来て床を消し去られた事が元凶なので、その敵と遭遇する前に戻すと言う事ですね」
「そうだ。その敵と出会わなければ石川が死ぬことは無かったはずだ」
「でも、わたくしはその時点に戻るのはお勧め出来ません」
「何故だ!?」
「魔晶石部屋に入る前に時間を戻したとしましょう。その時点で魔族と出遭ったらどうします?」
「どうしますって、倒すだろう」
「でも、我が君が干渉出来るのは思考だけです。しかも五分程度です。誰が魔族を倒すというのですか? この死体となった者の中に倒せる者がいるのですか?」
「それは……」
「わたくしが戻るなら、魔晶石の床の抜けた時点。魔族が去った時点です。そこに戻り、この様な最悪の結末にならないように運命線を収束させるのです」
「わかった。何とかやってみる」
「ではわたくしが贄となり時の神クロニクルを召喚いたします」
ミドリアはアイテムボックスから取り出した神器を天高く投げる。
神器は激しい波動と共に、巨大な大穴を塞ぐほどの青色の肌を持つ巨人が現れた。
巨人は地響きのような低い声で高い位置からミドリアを覗き込むよな感じで睨む。
「我は時の神クロニクル。汝、我に何を望む?」
「運命線収束、この洞窟の上に有った小部屋の底が抜け小娘4人が落ちた時点に我が君タカヤマを降臨させたい」
「よかろう。それに見合う対価は何にする? 大魔晶石でも良し、その強い眼光の目の光でも良し、その美しい声でも良し、その体に満たされる荒ぶる魔力でも良し、さあ、なにを贄にする?」
「この我が君を思う熱い心を対価に差し出したい」
「心か。そんな物では対価には……ほう、これは面白い。ここまで一人の男を恋する熱い思いを持つ者がおるのか!」
それを聞いたエリザベスが必死な形相で止めに入る!
「いいのかよ! 心を差し出すって! そんな事をしたらお前はお前じゃ無くなるんだぞ! 生きているだけの廃人、タカヤマと出会う事の無かったお前になってしまうんだぞ! 愛する者の為とは言え、そんな事をしていいのか? 本当に後悔しないのかよ!」
エリザベスの言葉を聞いた後、ミドリアは決意のこもった目でエリザベスを見返す。
「いいのです。エリザベスさん。わたくしは我が君に十分過ぎるほどの愛を頂きました。もう消えてしまっても何も後悔する事は御座いません。それにわたくしと我が君との出会いが運命で有れば、再び出会えると信じています」
ミドリアはクロニクルに顔を向ける。
「いかがでしょうか?」
「取引は成立だ! お前の愛する男を過去に戻そう。戻って来た時は既にお前はその男を敵としてしか認識しなくなるだろうがな」
「おい! やめろ!」
クロニクルはエリザベスの声を聞き入れずに魔法陣を展開し始めた。
「我が君、今まで色々とありがとうございました。我が君と話せるのもこれが最後と思うと悲しくなります。過去に戻ってからの詳しい手順はあなたの中の妖精さんに既に伝えてありますので、詳しい事は妖精さんに聞いてください」
「わかった。ミドリア、今までありがとうな。そしてこれが片付いたら必ず今のミドリアを取り戻してみせるから!」
「我が君の温かい言葉、身に沁みます。最後にお願いをしてよろしいですか?」
「おう」
「口づけをお願いします」
俺はそっとミドリアの唇に唇を重ねた。
ミドリアの頬からは一筋の涙が流れていた。
それと同時に魔法陣が光り輝く!
俺は現世から過去へと時間の旅に旅立った。




