表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クラスごと集団転移しましたが、一番強い俺は最弱の商人に偽装中です。  作者: かわち乃梵天丸
第一部 クラスごと集団転移しましたが、一番強い俺は最弱ランクの商人に偽装しました。
79/123

新たな訓練9 *

 大カマキリが壁の亀裂に逃げ込んだわたし達を大きな鎌で掻き出そうとしている。


 ザクザクと地面を削り取る大鎌。


 だが、簡単には捕まえる事が出来無いとわかったのかすぐにさっき仕留めた香川ちゃんとリリィさんを喰らいに戻った。


 今戻っているうちに何とかしないと!


 今ある私の武器は神速だけだ。


 他には隠匿もあるけど既に敵に見つかってるので今更使っても意味はない。


 他にも有るとすればリリィさんから貰ったこの短剣だけだ。


 この短剣と神速だけでどうにかするしかない。


 やはりいつもの様に速度を生かした急速離脱戦法しか無いのだろうか?


 でも、うずくまって怯える長野さんをここに置いたまま大広間に出て戦うのも心配だ。


 かと言って、この狭い亀裂の中で神速を生かした戦い方は難しい。


 なんとかしないと!


 通路がダメなら……。


 亀裂のかなり上の部分からカマキリの赤く光る目が覗く。


 上?


 その時私は閃いた。


 私は神速を使って戦う方法を閃いた。


 この亀裂の壁を使った戦法だ。


 亀裂自体は狭い。


 でも、高さは十分にある。


 神速の速度で通路の壁を強引に駆け上れば逃げ場は十分にある!


 立体的な動きで避ける戦法だ。


 これならいける!


 いや、これでどうにかしないといけない!


 わたしはこの戦法に賭ける事にした。


 リリィさんと香川ちゃんを食べ尽くした大カマキリは新たな食糧を求め、この亀裂へと戻って来た。


 幸いな事に巨体が邪魔をして通路の中には片方の鎌しか入って来ない。


 その鎌をひたすら避け続ければ、いずれは疲れ果ててわたしを食べるのを諦めて帰ってくれるかもしれない。


 そして帰還が遅れたわたし達を高山が見つけてくれて助けてくれるかもしれない。


 それしか生き残る道はない!


 わたしは神速を使い大カマキリの鎌の攻撃を避け続けた。


 大カマキリの鎌の薙ぎ攻撃を時には屈み、時にはジャンプし、時には壁を駆け上り避け続ける。


 鎌の薙ぎは鋭い攻撃だったが神速を使っていれば避けれない速度では無かった。


 幸いな事にこのカマキリは毒液や魔法の類は使ってこなかった。


 鎌による物理攻撃だけだ。


 しかも注意が私だけに向いていて長野さんには危険が及ばないようだ。


 これならいける!


 いけるよ!


 ひたすら避け続ける。


 五分ぐらい経っただろうか?


 いや、それより長い時間かもしれない。


 いや、それよりも短い時間かもしれない。


 突如大カマキリが攻撃の手を休めた。


「はーあ、はーあ。諦めて帰ってくれるのかな?」


 上がった息を整えながら、大カマキリの様子を伺う。


 だがカマキリは、その場に留まったまま去る事は無かった。


 体を細かく震わせて力み始める大カマキリ。


 尻の先を細かく震わせると次々に小さなカマキリをお尻から吐き出す。


 子供だ!


 小さいと言っても体長1メートルぐらいのカマキリだ。


 大カマキリは一〇匹ほどの子供を産み落とした。


 カマキリという物は昆虫なので卵から生まれるものだと思うんだけど、この世界のカマキリは違うようだ。


 その子供は産まれて間もないと言うのにすぐに走り始め、わたしを敵と認めて攻撃を始める。


 なんで生まれてすぐに攻撃してくるのよ!


 少しはお母さんのおっぱいでも飲みなさいよ!


 少しはおギャーと泣きなさいよ!


 おかしいよ!


 なんですぐに攻撃してくるのよ?


 そう愚痴っても相手は聞いてくれない。


 子カマキリは集団となってわたしを襲い始める。


 小さいのに立派な鎌を持っていて、その切れ味は鋭い。


 掠った鎌がわたしの服を切り裂き肌を露わにする。


 もう少し攻撃が深ければ私は死んでたかもしれない。


 波の様に押し寄せる子カマキリの攻撃を必死に避け反撃をする。


 わたしは壁を駆け上り、そして反転し駆け降りる。


 凄まじい速度で降下すると全体重をかけた短剣でカマキリを切り裂きまくる。


 首を切り落とされたもの。


 はらわたをはみ出されたもの。


 胴体を真っ二つにされたもの。


 皆、金切り声を上げた後に動かなくなる。


 再びわたしはカマキリ達の届かない所まで壁を駆け上ると急降下して一気に切りつける。


 それを三回繰り返した時点で、動く小カマキリは居なくなった。



「これならいける!」


 ここをなんとか耐えきって高山と再び会うんだ!


 きっとわたしならやれる!


 再び大カマキリは子供を産み落とす。


 なんでまた子供を産むのよ!


 早過ぎよ!


 わたしはそれを駆除する。


 そんな事を何回か繰り返し、亀裂を登ったわたしの背中に突然激痛が走った!


「くはっ!」


 振り返ってみると背中に大カマキリの鎌が突き刺さっていた。


 やられた!


 子カマキリの事だけが気になっていて、大カマキリの動きを見ていなかった。


 喉の中に何かが詰まり息が出来ない。


 思わず吐き出すとそれは血の塊だった。


「げほげほ!」


 こんな所で死にたくないよ!


 高山にもう一度会いたいよ!


 わたしは血を吐きながら痛恨のミスを悔やむ。


 大カマキリは鎌に力を込めてわたしを洞窟から引きずり出そうとする。


 必死に抵抗をするが唯一の攻撃手段である速度を生み出す足を止められたわたしには抗う術は無かった。


 徐々に大広間へと引っ張り出される。


 そしてもう片方の大鎌がわたしを襲う。


 そして私は勝者のトロフィーの如く、大鎌に突き刺されたまま掲げられた。


 下を見ると私の分断された下半身が転がっている。


 あまりの大怪我のせいか痛みを感じない。


 すごい痛いはずなのに、痛みを感じない。

 

 もう死ぬんだね。


 死を悟った時、脳が痛みを遮断するらしいからそれかも知れない。


 こんな大怪我なのになんですぐに死ねないんだろう?


 すぐに死ねないのはステータスのせいなのかな?


 それとも勇者になったせいなのかな?


 そんな事を考えられるぐらいに頭は冴えていた。


 でも、もう私には指先を動かす力さえも無い。


 生きながらに大カマキリに食べられて死ぬ事になる。


「ここで終りね。最後に高山に会いたかったよ」


 徐々に暗くなる視界。


 血液が抜けてきて酸素が頭に回って無いからなのかな?


 そんな事を考えていた。


 気が付くと急に辺りが明るくなった気がする。


 目も眩む位の明るさ。


 そして狭い視界の中に高山の顔が見えた。


 わたし天国に呼ばれたのかな?


 わたしもう死んだのかな?


 高山は泣いていた。


 居ないはずの高山がボロボロと涙をこぼす。


 泣いた顔の高山なんて見た事ないから、なんかおかしいな。


「高山なの?」


「石川! 大丈夫か! 今治療してやるから! 待ってろ!」


 高山の後ろにはミドリアとエリザベスが立っていた。


 すごく悲しそうな顔をしている。


 何か高山が叫んでいるみたいだけど、わたしの耳にはもう届かない。


 わたしは多分死ぬ。


 ミドリアと高山が回復魔法みたいなのを掛けてくれてる。


 でもわたしの指先は全く動かないからダメなのは解ってる。


 もう長くは無いと思う。


 なら最後は高山の胸の中で死にたい。


 わたしは最後の力を振り絞り高山にささやいた。


「来てくれたんだね……私をだきしめて」


 返事は聞こえなかったけど高山はわたしをギュッと抱きしめてくれた。


 ありがとう。


 暖かいよ。


 わたしの血ですごく服を汚しちゃってる。


 ごめんね。


 高山はわたしにキスしてくれた。


 とても嬉しかった。


 これが最後の思い出になるんだな。


 高山の涙がわたしの頬を濡らす。


 でも顔はもう見えない。


 死にたくないけどもう手遅れだよ。


 高山が来てくれるまで頑張れなかったよ。


 高山とは別れたくない。


 別れたくないんだよ。


 でも来てくれてありがとう。


 声にならない声でわたしは最後の言葉を振り絞る。


 ありがとう。

 

 最後の言葉は声にならなかった。


 わたしの意識は永遠の深い闇の中へ消えた。

次は高山グループの話になります。

シェリーさんの店から飛び出た所からの続きです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] え?え?え?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ