女教師佐川の念願の仲間1 *
忘れた頃に登場の佐川先生
「なんで私だけ除け者なのよ!」
「生徒よりも年齢が上なだけでなんで私だけ除け者なのよ!」
「なんで私だけレベル上げグループの参加を拒否されなくちゃならないのよ!」
女教師佐川は憤慨していた。
今までの人生で失敗に巻き込まれない様に慎重に慎重にエリート街道を進んできた佐川。
努力を怠らず、受験も就職も希望通りの道を進んできた。
それが……。
まさか年齢でこんな目に遭うとは思っても居なかった。
「20代なのに熟女扱いとか!」
「20代はまだまだ女子と言っていいレベルの歳じゃないの?」
と、憤慨しつつも自室のベッドで引きこもる。
文句を言っても通じる相手じゃなかった。
相手は魔法を使える神官や騎士。
強引に意見を通そうとすれば王女の衛兵に切り捨てられるのが落ちであった。
佐川はレベル上げグループからあぶれてから朝礼終礼にも参加せず、ただただ日本に帰還する日を夢見てベッドでゴロ寝をするだけの何もする事のない暇な自堕落な日々を送っていた。
最初は部屋に引きこもる佐川を心配して神官たちが来ることを期待したが、今日まで一度も来たことは無い。
まったく相手にされてない。
だからゴロ寝を続けた。
正確に言うとゴロ寝しか出来ない日々。
暇つぶしに神殿の外に出てこの世界の言語や魔法技術や社会構造を研究し本でも書こうと思ったのだが、監視役の神官や騎士に止められ神殿の外へ出して貰えなかった。
神殿から出して貰えないだけじゃない。
本は貸してもらえず、TVなんて暇つぶしになる物は有る訳もなく、部屋に話し相手になる友人が来る訳でもない。
寝る事しか出来ない生活。
全く刺激のない生活。
唯一の楽しみは夕方になると訓練から帰ってくる同室の生徒達の会話を聞く事。
Cランクの生徒男女一〇名全員がこの部屋で生活をしていた。
日本に居た時にトラブルに巻き込まれるのが嫌で生徒達とは疎に接してたせいか、生徒たちは誰一人として佐川と話すどころか近づくことも無かった。
だが相部屋の生徒達の声だけは聞こえてくる。
部屋の隅でその会話を寝たふりをしながら聞くのが唯一の楽しみだった。
「北杜君、物凄くたくましくなったよね!」
「うんうん。すごく優しいし、あの分厚い胸板に顔を埋めるのがわたしの夢」
「やめてよ! 北杜君は私の彼氏よ!」
「わかってるって!」
「韮崎君で我慢しなさいよ」
「韮崎君?」
「パスパス。あんなヒョロヒョロしてるの嫌よ。私は騎士さん狙いなの」
「そんな大きな声で言うと韮崎に聞こえちゃうわよ」
「やば! こっち見てる! どうしよ?」
「あははは。騎士さんと頑張りなさいよ!」
「うん」
こんな恋の話は学生時代にした事も無かったな。
勉強ばかりで私の青春に恋なんて無かった。
いや図書委員で一緒だった岡本君は野暮ったくてあんまりイケてない感じだったけど私に好意を持ってくれてたな……。
恋の告白こそされなかったけど、何度か一緒に下校したりしたことあったよ。
いきなり私の手を繋いで来たりしてたし。
わたしビックリしてその手を振り払っちゃったけど、あの時岡本君の手をぎゅっと握り返してたらこんなつまらない人生にはならなかったのかな?
彼氏の居る人生を送れたのかな?
いやいや!
わたしの夢は教師になる事だったんだから!
これでいいの!
勉強を頑張り過ぎちゃって大学院のマスターコースまで進んじゃって校長街道一直線のエリートコースに載ってしまったけど、念願の教師に成れたんだからこれでいいの。
でも、わたしのなりたかった先生はこんな先生だったのかな?
もっと生徒達に囲まれる先生が夢だったんじゃないかな?
過去の青春に思いを馳せる佐川。
他の生徒達の声も聞こえてくる。
どうやらダンジョンの敵から手に入れた武器の話だ。
「へっへっへ! この剣いいだろ?」
「すげー! 何この強そうな剣! 宝石がいくつも散りばめられた上に金ピカかよ!」
「ストームイーターの中から出て来たんだぜ!」
「喰われた冒険者の持ってた武器かな? いいなー。俺も欲しい!」
「一つしか出なかったんだけど、女の子達が剣士の俺に使えって言ってくれたんだ」
「いいないいな! 俺んとこなんて野郎しか居ないからいつも殴り合いして取り合いだぜ!」
「そりゃ最悪だな。あははは」
「おかげで今まで装備なんて一個も取れてないわ。あははは」
いかにも冒険してるって感じがしていいわね。
わたしも冒険に出たい。
無理だろうけど……。
今度はキナ臭い話が聞こえて来た。
ダンジョンで全滅したグループの話らしい。
「なあ、聞いたか? 江藤のグループ全滅だってよ!」
「マジかよ! あのグループってBランクな上に物凄く強そうな騎士が付いてたろ? ダンジョンにあんな騎士を倒せるモンスターが居るのか?」
「あー、それなんだけどよ。死んだのは罠に引っ掛かって死んだらしいぜ!」
「マジか?」
「3階の中央通りに面した小部屋有ったろ?」
「あの休憩所代わりに使ってる部屋か?」
「そうそう。今まで罠なんて無かったのにさ、部屋に入ったら天井が落ちて来て全員ペッちゃんこだってさ!」
「マジか! 羨ましいな!」
「死んで羨ましいのかよ!? お前頭おかしくなってね?」
「だってさ、死んだら日本に帰れるんだろ? 日本に帰れたらこんな生活おさらばだぜ! クーラーでギンギンに冷やした部屋で録り貯めたアニメ見ながらゴロゴロしたいわ」
「そういやアニメのマギマギの話どうなってるんだろうな? すげーいいとこでこっちの世界に来ちゃったからスゲー気になる」
「マギマギも気になるけど、こもすばも気になるな。9月から放送開始だろ? それまでに帰れるかな?」
「どうだろうな? ダンジョン踏破コンテストが終わったら田中達の伝説の武器を取りに行ってコンプしたら魔王城攻略らしいけど、そこまでどれぐらい掛かるんだろうな?」
「半年はかかるよな?」
「それぐらいは見ておいた方がいいな。半年たったらもう正月過ぎてるぞ。こもすば終わってるな」
「それなら大丈夫だろ。王女さんが言ってたけど、魔王討伐したら召喚されたあの日に戻るからだいじょぶじゃね?」
「あっ、そうか。あの日に戻るんだったな。じゃあアニメの心配はしなくていいのか」
「そそ、思いっきり異世界ライフを堪能しようぜ!」
「おう!」
事故で死んだグループなんて有ったのね。
死んだら日本に帰れるのかな?
日本に帰れるなら死ぬのも有りかな?
教師の仕事に戻りたいし、こんな一人ぼっちの生活を続けるのは辛い。
でも死ぬのは物凄く痛いらしいし。
この前、敵に襲われて怪我した子の話を聞いたけど凄かったらしいわね。
足がもげかけてて白目向いて痙攣して、それでもずっと痛みで絶叫してて、死なないのにそんなに痛いなら死ぬときはどれほど痛いんだろう?
そんな事を聞いちゃったから自殺は無理だよ。
ここで誰かが魔王を倒してくれるまで暇を潰すしかない。
佐川は膝を抱えて孤独に耐えた。
しばらくすると消灯時間になって佐川の一番嫌な時間が始まる。
愛の時間だ。
暗い部屋の中から喘ぎ声が聞こえてくる。
恋人となった男子と女子の愛の行為。
学生だからそんな事をする歳じゃないはずなのに大人がする行為をしている。
こっちの世界の成人が16歳で大人扱いされてるのと、生死を賭けた訓練をしているせいで本能的に子孫を残そうとしているのかもしれない。
今日は3組の男女がしているようだった。
2組は男女のカップルで、もう1組は女子同士のカップル。
なまめかしい声が断続的に聞こえてくる。
「あんたたちこんなとこでそんな事をするのは止めなさいよ!」
最初はそんな注意をしようと立ち上がったが、ボッチの佐川には言えなかった。
言おうと思った瞬間、佐川が経験した事のない喘ぎ声が耳に纏わりついて恥ずかしさで顔が真っ赤になり言えなくなった。
それ以来注意をしようとする気も起きずに、毛布を頭からかぶって耳を塞ぎ聞こえない様に努力するしか無かった。
長時間に及ぶ女の子同士の行為が終わった後にほっと胸を撫で下ろす共に、自分の境遇に佐川は涙する。
一人は嫌。
一人は辛い。
一人は寂しい。
佐川は次の日も部屋で一人で過ごす。




