我が君はわたくしの事が嫌いなんですか? *
結構横幅の狭いベッドで4人が寝るのは無理があった。
落ちないように必死に女の子達を支えてないといけないので寝られるわけがない。
冬場にハムスターや猫が団子になって寝てる。
そんな感じに近い状況だった。
寝場所がないミドリアとエリザベスが俺のベッドに潜り込んでくるのはまあ解らない事もない。
でも自分用のベッドが有ってちゃんと寝る場所の有る石川までが俺のベッドに潜り込んでくるのがよく解らない。
「狭すぎるから、石川はお前のベッドに戻れよ」
「そうだ戻れ、人間!」
「嫌よ! なんで後からお嫁さんになったエリザベスとミドリアがあんたと一緒に寝ているのに、なんで私だけが別のベッドで寝ないといけないのよ!」
するとエリザベスが凄んだ表情をする。
「何故か教えてやろうか!」
「納得出来理由を言えるなら私のベッドに戻るわ」
「よし! 教えてやろう! 狭いからだ! すごく狭いからだ!」
「うぐぐぐ。た、確かに狭いわね」
「グウの音も出ないようだな。人間!」
「でも、その理由が無くなればいいのね。その理由が解決したら私は高山の隣で寝るからね」
「出来る物ならやってみろ」
「そうですわ。出来ないなら素直に自分のベッドに戻るのですよ」
石川は俺の部屋の仕切りとなっている壁を取り外す。
そして長野さんが寝ていたベッドと自分のベッドを交換。
交換したベッドを俺のベッドの横にくっつてダブルベッドにした。
「どう? これなら狭く無いわよ!」
「な、なかなかやるな! 人間!」
「そ、そんな手法があったなんて!」
こんな単純な事に感心する魔王二人はアホだった。
「我が君の第一夫人はわたくしですが、今回はベッドを広くした功績を素直に褒めたたえイシカワさんが我が君の左脇で寝る事を認めるわ」
「わらわも才能を称え、今日一日はタカヤマの横で寝る事を認めてやるぞ。今夜はタカヤマの横で寝るがいい」
「ありがとう。ん? ちょっとまって、ミドリアさん! 今さりげなくとんでもない事口走らなかった?」
「なんでしょうか?」
「なんであなたが第一夫人なのよ? 第一夫人は一番最初に告白して妻になった私でしょ?」
してないしてない。
石川を彼女にするとは言ったけど妻にするなんて一言も言ってないし。
でも石川は既に妻になった前提で話を進める。
「それが何で、あとから小屋に来たあなたが第一夫人なの? おかしく無いです? 泥棒猫みたいなことはやめて下さい!」
「泥棒猫はあなたよ。わたくしと我が君はあなたよりもずっと前に結婚してるの」
「なっ! 既に結婚してるって? 嘘でしょ!」
「嘘だと思うなら我が君に聞いてみなさい。わたくしと我が君はあなたがこの世界に来る前から結婚してたのです」
「高山、ミドリアさんの言ってる事は本当なの? 結婚してたの?」
「う、うん」
「事実なの?」
「まあ、そういう事になる」
「そんな事、聞いて無いわよ! この結婚詐欺師!」
なんだよ、詐欺師って!
石川、お前が言ってる事が訳わかんないよ。
まあ、これで愛想尽かして嫌ってくれたらそれはそれで助かる。
「絶対に負けないから!」
あ、逆に石川のやる気に火をつけてしまった。
そんな石川を他所に、ミドリアはのろけ話を始める。
「我が君とわたくしは以前の召喚で既に夫婦の契りを交わしていたのです。あの時の初夜は激しかったです……っ、ぽっ!」
顔を爆発しそうなぐらいに赤らめるミドリア。
「おい、こら! 初夜ってなんだよ! 俺はそんなことしてないぞ!」
「してたじゃないですか。二人で同じベッドの中で抱き合って……」
「たしかに同じベッドでは寝てたけど、手を繋ぎ合って添い寝するだけでそれ以上の事は一切してなかったぞ。おまけに手を繋いでるだけで事が始まる前に俺は日本に帰還したじゃないか」
「な、なんでバラすんです? 我が君はわたくしの事が嫌いなんですか? 我が君がわたくしの事を嫌いと言うならば、わたくしは生きる意味がありません。この場でわたくしの心臓に杭を突き立てて殺してください」
「ちょっ! ミドリア! 急に何を言い出すんだよ!」
「じゃあ、抱いてください! 今すぐに!」
「おい! こんなとこで出来る訳ないだろ!」
「やはり、私の事は好きでないのですね。我が君はわたくしに死ねとおっしゃるんですね!」
「いや、そんな事は言ってないから! 死ねなんて一言も言ってないから!」
「わたくしの事は嫌いですか?」
「いや、嫌いじゃないよ」
「じゃあ、なんで抱いてくれないんです?」
「それは……ごめん、聞いて気を悪くしないでくれよ?」
「はい。我が君の言葉は全て受け入れます」
「俺、尻尾がダメなんだ」
「尻尾? ですか?」
「うん、尻尾がお尻から生えてるのを見ると、獣を見てるみたいでどうしても抱く気になれないんだ。ごめん、お前たちが嫌いなわけじゃないんだが、その尻尾がどうしても生理的に受け入れられないんだ」
「もしかしてわらわの尻尾も同じように感じてるのか?」
「うん。あ、二人とも尻尾を無理やり引き千切ったりしないでくれよ」
「どきっ!」「うぐっ!」
それを聞いてドヤ顔をする石川。
「ふふふ。私の勝ちね! 私には尻尾生えて無いもん!」
「ぐるるる」「くっ!」
「あ、石川とはエッチしないから」
「なんでよ!」
「だってお前は高校生だろ? エッチして妊娠でもしたら高校即退学だぞ!」
「高山と結婚するなら高校の卒業なんてどうでもいいじゃない。わたし、高山に一生面倒見て貰うんだから!」
「中卒のお嫁さんはちょっと……」
「くーっ! この学歴社会の豚め!」
「という事で、石川。ごめん!」
「一人脱落だな。ぐるる」
「永遠のライバルと思っていたあなたが脱落してしまって残念ですわ」
「で、でも! 私達、絶対に日本に戻れないし!」
「召喚の目的を達成すれば帰れるだろ」
「その目的は魔王を倒すことよ。タカヤマはエリザベスさんを殺せるの? 今こうやって仲良く同じベッドで横になって楽しく話してる子を殺せるわけないよね?」
俺は頷いた。
それを見てエリザベスがほっとした顔をした。
「うん……殺せない。エリザベスと話す前だったら殺せたかもしれないけど、ここまでエリザベスを知ってしまった後だと殺すことは出来ないな」
「タカヤマ……わらわの事を……」
「だから、召喚の目的を達成することは永遠に出来ないから私たちは日本に戻れるわけも無くて、こっちの世界で暮らすしかないの。高校とかもう関係ないから!」
「そう言われるとそうだな」
それを聞いたミドリアが石川に聞く。
「イシカワさんは元居た国に帰りたいのですか?」
「そりゃ、帰りたいわよ。街の外を歩いているだけで魔物に襲われるような命の危険のある世界とか、嫌だもん」
「なら帰りますか?」
「帰れるの?」
「ええ。確か元の世界へ帰る条件は魔王の討伐ですよね?」
「うん。魔王を倒せば日本に帰れるんだ」
「じゃあ、魔王を倒しましょう」
それを聞いて自らの身の危険を感じて身構えるエリザベス。
「や、やるのか? ま、まさか、タカヤマとミドリアで組んでわらわを倒すのか!?」
「倒さない、倒さない。エリザベスは倒さないから安心しろ。ミドリアはエリザベスを倒さずに日本へ石川を返す策が有るんだろ?」
「はい。エリザベスさんを倒さなくても召喚の依頼を満たす方法があります。我が君、申し訳ないのですが、ゴブリンを一匹出してくれますか?」
「ゴブリン?をか?」
「はい」
笑顔で答えるミドリア。
俺はミドリアが何をしようとしてるのか解らなかったがとりあえずゴブリンをアイテムボックスから取り出す。
ミドリアは俺が出したゴブリンを魔法を使ってロープみたいなものでぐるぐる巻きにして拘束をする。
ゴブリンは逃げ出そうとジタバタしているが、ミドリアの拘束がきつく身動き一つ取れない様だ。
「さあ、エリザベスさん。このゴブリンに魔王の権限を委譲するのです」
「ああ、なるほどな」
エリザベスは指輪を外すとゴブリンに指輪を嵌める。
エリザベスによると、この指輪は魔王の証となる物で、強大な魔力を秘めているらしい。
「汝、現魔王エリザベスの後継として、新たな闇の王としてこの世界を統べよ!」
するとゴブリンは指輪から強大な魔力を得て身長2メートルほどの巨大なゴブリンへと変貌した。
拘束していたローブが引き千切れ弾き飛ぶ。
あまりに巨大なので座っていても天井に頭が当たって首を傾げているのでなんとも間抜けな姿だ。
「ぐぐぐ、愚かな人間共よ! 我を魔王としたことを後悔させてやる! 最初の生贄はだれだ? 先代魔王が生贄と言うのも一興だな。がははは!」
ゴブリン大魔王の笑い声を無視して、ミドリアは話を進める。
「我が君、このゴブリンを退治してください。このゴブリンを倒せば魔王討伐の依頼を解決したという事で、召喚契約は満了。元の世界に戻れるはずです」
「おう」
俺は部屋を汚さない様にゴブリンの首を捻って退治した。
ゴブリンの腕から指輪を抜くと、エリザベスへと返す。
「これで零時を迎え日替わりとなれば、イシカワさん達は元の世界へと戻れるはずです」
「日本に帰れるの?」
「はい。帰れますよ」
「じゃあ、戻ったら高山はうちの両親に挨拶よ」
「何の挨拶だよ?」
「そりゃ、結婚よ!」
「はあ?」
「ほら、結婚前に子供作るのって出来ちゃった婚みたいですごく嫌じゃない? だから手順はちゃんと踏まないとね」
「はあ? 俺達高校生なんだから、結婚とかしねーし! そんなの出来る年齢じゃねーし!」
「バッカだなー。結婚は16歳から出来るんですからね!」
「男が結婚出来るのは18歳からだよ」
「え? うそ! まじ? 16からじゃないの?」
「お前、それ何処情報だよ? 女は16で結婚出来るけど、男が結婚できるのは18からなんだ」
「ええー! なにそれ! なんで男女で結婚できる年齢が違うのよ! 男女差別よ!」
「俺もおかしいと思うが法律でそう決まってるんだから仕方ない」
「それにイシカワさんは我が君と結婚できませんよ」
「なんでよ?」
「イシカワさんは元の世界に戻りますが、我が君はこの世界に残りますから」
「えー! なんでタカヤマはこの世界に残るのよ!」
「我が君はわたくしの旦那様ですから、二人の愛を召喚契約如きが裂くことは出来ないのです。おひとりでご帰還してください」
「きーっ! その為にゴブリンを魔王にして倒させたのね!」
「ふふふふ」
「ミドリアさんが最初のお嫁さんと言うのも解った。私が高山を独占しようとも思わない。だから、ここの世界にわたしも残してお嫁さんにして!」
「残りたいですか?」
「高山と別れたくない」
「みんなで我が君と結婚しますか? うふふふ」
「いや、そうとは言ってもさすがに重婚はちょっとマズいよな。誰を選ぶかもう少し時間をくれないか? もう少ししたらダンジョン踏破コンテストが有るだろ? それが終われば俺達は勇者の任を解かれて、自由の身になれるんだから。それまで決断を待って欲しい」
「コンテストが終わったら誰をお嫁さんにするか決めてくれるの?」
「ああ。そうする」
「解ったわ、そこまで待つから! 私を選びなさいよ!」
「いいだろう、もう少しだけ待ってやる。選ぶのはわらわになるがな」
「いいえ。我が君が選ぶのは私です」
という事で、結論を出すまでの猶予を貰えた。
『ふー、これでしばらくは安泰だな』
『勇者様。勇者様って本当にゲスいですね』
『システムちゃん、いきなり何言い出すの? 俺は女の子には誰一人として手を出してないし、第一付き合っても無いんだからゲスでも三股でもないぞ』
『女の子が勇者様の子を産みたいと言ってるんだから、素直にその思いを受け入れてあげたらどうです?』
『さすがに三人と結婚するのは無理だろう。きっと俺の取り合いで喧嘩が始まるぞ』
『こっちの世界じゃ重婚は罪じゃないんですよ。三人の思いに答えてあげましょうよ』
『少し考えさせてくれよ。俺、結婚ていうのは慕われてる人とするものでは無くて、俺が好きな人とするものと思ってるから、もう少し考えたいんだ。今この三人と結婚したら全員を等しく同じように愛せなくて俺が絶対に後悔する気がするんだ』
『あくまでも自分基準なんですね』
『結婚なんてそんなもんだろう』
俺がシステムちゃんと話してると、機嫌が悪くなって無口にしてるように見えたのかもしれない。
エリザベスが俺の顔を伺いながら話し掛けて来た。
「なあ、タカヤマ。わらわの事は尻尾以外に嫌いなとこあるか?」
「うーん。その太い尻尾は正直生理的に受け入れられないんだが、エリザベス自身の事は好きとか嫌いとか言えるほど知らないからな。身体つきはロリっぽくていいとは思うけど、エリザベスの中身と言うか心まではほとんど知らないから、好きとか嫌いとか言えるほどじゃ無いんだ」
「そうか……」
「ミドリアとは少しだけ付き合っていたから三人の中では一番知ってるけど、そうはいっても殆ど話した事なくて、正直どんな人なのかあんまり知らない」
「タカヤマはそんな人と結婚してエッチしようとしてたの?」
「仕方ないだろ? 俺、魔王だったしミドリアは前王の娘だったから、周囲の期待度的に自然と結婚と言う流れになったんだ」
「そうだったんだ」
「石川もつい最近まで俺を汚物を見るような目で見てたぐらいだから、正直今は恋愛対象としてはあんまり見えてないんだ」
「ごめんなさい」
「だからコンテストが終わるまで時間をくれ。それまでにお前たちの事を見るようにするから。自由の身になったら必ず誰かを選ぶから、それまで待ってくれ!」
「うん。解った」
俺はコンテストが終わったら嫁を選ぶことにすると言って、その日は寝る事にした。
その後、零時の日替わりになっても召喚依頼の魔王を倒したはずなのに石川達はこの世界に残ったまま。
どうやら召喚契約の願いは魔王討伐では無かったようだ。
ではどの様な条件で契約されたのか?
俺は今回の召喚契約に激しい不安を感じた。
アルトが尻尾になんでそこまでこだわるかは後ほど……語られるかもしれないし、語られないかもしれない。




