癒しの長野さん *
終礼を終わり大神殿の自室に戻ってベッドに横になっていると、石川の友達がやって来て談笑を始める。
石川と香川ちゃんは今まで有った事を面白おかしく話している。
俺はベッドから抜け出して顔を見せるとまた石川に何か言われるんじゃないかと思ってしまい顔を出すのは控えておいた。
あの初日の石川の冷たい目がトラウマになってるな。
石川たちと友達の楽しそうな会話が聞こえてくる。
「石川さん、凄く強いのね。隅田を倒しちゃうなんて凄いよ!」
「だよね! 私、Bランクの格闘家だけど男の子を天井にぶつける程殴り飛ばせないよ」
「隅田は引っ掛かったジャンデリアから落っこちて全身複雑骨折だって。いい気味ね!」
「本気で石川さんの事を殺そうとしてたし、いい気味だったね。あははは!」
「死んで日本に戻ればいいのにね! あははは!」
負けた上に大怪我まで負ったのに、女の子達に笑われる隅田にちょっと同情するわ。
死に戻りすればいいのにと言う話を聞いて石川の表情が一瞬で真顔に戻った。
石川は死に戻りが存在しない事を知ってるから当然だ。
「いい? 美弥もなっちゃんも絶対死んだらダメよ!」
「死んでも日本に戻るだけでしょ?」
「いいから聞いて! 絶対に死んじゃダメ! 私に約束してくれる?」
「うん」
「どんなに仲間が危ない目に遭ってても、自分を犠牲にして死ぬとか考えちゃダメ! いい?」
「うん、わかった」
急に真顔になった石川を見てちょっと怯えた表情を見せた二人だけど、場の雰囲気を盛り上げようと別の話題を振り始めた。
「石川さんがあんなに強くなったのって、どんな訓練してたの?」
「…………」
考え事をして黙っていた石川の代わりに香川ちゃんが答えた。
「冒険者の先生に特訓してもらったんですぅ」
「騎士さんじゃないんだ」
ハッとした表情をして考え事を止めた石川が話し始める。
「それがさー、私達には訓練の騎士を付けられないって神官のおっさんが言い出してね。冒険者ギルドの冒険者さんに特訓してもらう事になったんだけど、それがねー、厳しいのなんのって! 死にたくなる程の特訓をさせられたんだよ!」
「あれは酷かったですぅ。先生がちょっとの間だけ熱くならない薬を私達に飲ませると、私達を溶岩の煮えたぎる火口に突き落とすんですよぅ」
「死にたくなければ、薬が切れて火傷する前に火口からよじ登って来なさいとか言うんです!」
「でもね、さすがに煮えたぎる溶岩の中じゃ薬の効き目が無いみたいで、熱いのなんの! そりゃ溶岩の池の中のだもんね。服も一瞬で燃えて灰になるぐらいだから! 物凄く熱くて、なんて言うの? 熱湯風呂に突き落とされたみたいな感じだったわ! ほんと酷かったわよね!」
「そんなとんでもない特訓してたの?」
「そうよ! 大変だったんだから! 死ぬかと思ったわ」
「危うく死ぬとこでしたぁ」
「その後、火傷を魔法と薬で直してくれたんですけどね」
そんな感じで辛い特訓を楽しそうに話していた。
俺はそんな彼女達の会話を聞きながらベッドの上でうつらうつらしていたが、気が付くと長野さんが俺のベッドの横に立っていた。
木の間仕切りで隔離された部屋の隅で一人寂しく横になっている俺を気遣って来てくれたみたいだ。
「一人寂しくどうしたんですか? 皆さんと一緒にお話しましょうよ」
「あ、長野さん。お話か。俺の部屋から出ると石川にまたなんか言われそうだから止めとくよ」
「石川さんは高山さんの事をもう悪く言わないと思いますよ。だって石川さんは高山さんの事が大好きになったみたいですし」
「そっか。でもさ石川は久しぶりに友達と会った事だし俺が邪魔しちゃ悪いかなと」
「石川さんに気を使ってくれてるんですね」
「まあ、そんなとこかな。俺、石川との話に混じるよりここで長野さんと二人で話出来る方が嬉しいかも。俺、長野さんの事が好きなんだ」
「わ、私なんにも面白い事を話せないつまらない女ですよ?」
顔を真っ赤にしてオロオロしだす長野さん。
「わ、私と話して楽しいですか?」
「うん、凄く楽しい。あ、正確に言うと、長野さんと一緒にいると落ち着くというか癒されるという方が正しいかな?」
「わ、私と話して癒される……私、別にこれと言って趣味もない本当につまらない女ですよ?」
「そこがいいんだよ。すごく普通な女の子の感じがたまらなく好きなんだ」
「そんな事言われるとすごく嬉しいな。高山さん……私との出会い覚えてますか? わたしはナ……いえ何でも有りません」
「ん? どうした?」
「い、いえ、何でもないです」
「ちょっと俺の横に座ってて何でもいいから話してくれないか?」
「どんな事話せばいいです?」
「うーん、そうだな。正直長野さんの事あんまり知らないからクラブ活動とかその辺りから知りたいな」
「はい! えーっとですねクラブは料理クラブで、」
その時、廊下からドタドタと下品な足音がした。
見なくても解る。
魔王様御一行だ。
「タカヤマ戻って来たぞ! わさびをたくさん買って来たぞ!」
「我が君、戻りましたよ! エリザベスさんにいきなり拉致されて散々な目に遭いました。わたくしの心を癒してください!」
「ちょっ! お前ら! なんでここに来る?」
「それはお前の嫁だからだぞ! 嫁なんだから旦那のとこに戻ったらダメなのか?」
「ここは勇者がいっぱい居る大神殿だぞ! 見つかったら大騒ぎになるだろ!」
騒がしいのが気になったのか、石川達がやって来た。
石川の友達が見かけない顔を見たので不思議な顔をする。
「見た事ない顔なんだけど、この人誰?」
「魔王さんだよ。魔王さん」
石川が得意げな顔をして答えた。
すると冗談と思ったのか、石川の友達が笑いながらエリザベスに話しかけた。
そりゃ魔王討伐隊の総本山に本物の魔王が来るとは思えないもんな。
「こんな可愛い子が魔王さんなのね、ふふふ」
「可愛いいだと! お前見る目が有るな! 部下にしてやるぞ」
「ありがとうね。可愛い魔王さん」
またまた可愛いと言われて顔をほころばせるエリザベス。
石川の友達がエリザベスを抱きしめて胸に埋めていた。
エリザベスも抱きしめられて嫌な気分はしてなさそうなので俺はそのまま見ていた。
「聞いたかタカヤマ! 私は可愛いそうだ。良かったな! 喜べ!」
「なんで俺が喜ばんといかんのだ?」
「それは、妻が美しいと言われれば旦那も喜ぶものだろ」
「美しいとは一言も言われてないし、まだ妻でもないし」
「なに照れてるんだよ!」
「照れてねーって!」
「まあいい。知らない奴が居るからタカヤマは恥ずかしがってるんだろ。まあ、その事は置いといてと……今からマグロ食べに行くぞ!」
「今から? 今はもう夜だぞ? 明日まで我慢しろよ」
「嫌だ! 今すぐ食べたい!」
「俺はもう寝るから一人で行って来いよ。海に行けばマグロはいっぱいいるから、大口開けて海に飛び込めば何匹でも好きなだけ食えるぞ。じゃあ、おやすみ」
「ぐるるる。おいタカヤマ! 寝た振りするな。起きろよ! 早く行こう!」
「俺疲れたから、寝るから」
「そうですわ、エリザベスさん。我が君はお疲れなのです。一人でお行きになりなさい。私は我が君と寝床を共にしますわ」
早速俺と添い寝を始めるミドリア。
「ならばわらわも添い寝するぞ!」
服を床に脱ぎ散らしてベッドに入ってくるエリザベス。
それを見ていた女の子達から悲鳴が上がり、部屋から飛んで逃げた。
「おい止めろ! エリザベス! 女の子達が見ているだろ?」
「見られながら添い寝するのも一興だな」
「ちょ! おま!」
一〇分間の協議の結果、服を着て普通に川の字になって寝る事で決着した。




