分配
「おそい! 分配するって言ったよね?」
靴を脱いでたら叱られた。
そういえばそうだったなと思う。ミルドレッド女史も出掛けることは推奨していなかった。
「悪い。少しでも地図の範囲を広げていく下準備しときたくてさ」
周囲に本当に導石がない。もしくは不活性だ。
「範囲今までになく狭かったから? ここが時空間が少しねじれた場所なのはわかっているけど、他の地図職人の人も旅をしているんでしょ?」
導石は職人の相性によって導石から引き出せる能力が変わる。アクセスリンクできるできないも。
「リンクできる範囲にある導石の仕様がたぶん、俺が作った導石とリンクシステムが違うんだと思う。あと、他の地図職人がこの辺りの導石に魔力を通していない期間が本当に長いんだと思う」
「思うばっかりね。まぁいいわ。ミルドレッドは特別に必要なものはないって言ったし、私は必要なものは目星つけたし、おにーちゃんは私に任せるって言ってくれたしぃ」
最後ヒロインがデレた。
「はじめるわね」
そう言ってヒロインは敷物を敷いて分配物を並べはじめる。
「武器は魔剣とか結構あったけれど、私もミルドレッドも使わないわ。おにーちゃんと相性が良いものもないし、エンも武器はソナーがいるでしょ。武器を引き取ってもらえる街でそれなりの貯蓄換金対象だと思ってるんだけど、問題ない?」
つまり、現金化対象。
「問題ないかな」
「そう、なら良かったわ。はぐれた時用に一応財源として一振り持ってるといいと思うの。好きなの選んで」
ざらりと無造作に並べられた刀剣や異様な形状の武器はどこに入ってたというくらい大量だった。
「この量だから売り捌くだけでひと財産だけど、一気に卸せないのが難点よね。この数じゃ値下がりしちゃう」
ヒロインの収納袋どうなってるの?
「それから魔具神具のたぐい。ここからはいくつか欲しいのがあるの。エンは?」
新たにざらりと広げられたものは小さいものから大きいものまで様々だ。特になんとも思っていなかった。そのはずなのに俺の手は赤い蝶が翅を広げた金具に吸い寄せられていた。
「それ? 魔力補助補正具だからちょうどいいの選ぶのね。じゃあ、私はコレ貰うわね」
適当な分配。それでもおおまかな価値は考慮に入れて欲しいもの優先で。袋に入れれる数がそれほどないと知ってるからか小さくて価値の高い物を優先的に俺に分配してくれる。
「物の価値はわかるようにしないと騙されるわよ。私には後ろ盾あるけど」
「でもさ。確か流動するんだろ?」
物の価値が種族差あることもあるんだし。
「環境によって違うでしょうね。食べ物は価値が高めだけど、私達にだって必要だし。食料に困ってない地域なら宝飾品や武器はそこそこ必要とされて価値があるでしょう。でも、戦争にむかっている土地で武器を販売するのは危険よ。管理者が税をかけてるでしょうし、私達はそれを知らないでいるんだから。基本足元見られるのよ」
え、あ、その情報に種族による価値観も足されるってこんがらがってくるんだけど?
「いいこと。私はね、元の世界に帰ろうが、帰るまいがおにーちゃんを養って幸せな家庭を築くのよ! そのための財源を確保するのは私の責務なの!」
燃えてるね。ヒロイン。にーちゃん相手だと有効そうな手だよなぁ。
「ヘボい職人のままで受け入れてくれるパートナーもいるでしょうけど、金銭面生活面で頼れる方が一般的にはいいと思うのよね。ま、相手いないから仮定しかできないでしょうけど」
わざわざチラ見してない胸そらして見下してくるヒロイン、ムカつく。
「ハイハイ。そのへんで見苦しい口論はやめなさい」
ミルドレッド女史。これは口論と言わない。一方的なんだから。悔しくてムカつくけど、反論するネタがないのがまたムカつく。助かってるのがわかるだけに!
「実際こっちの世界なら地図職人でやっていけるとしても希望通り戻れたとして違う世界を知った存在であることを隠してうまく馴染めるの?」
「な、なんとかなるんじゃないか?」
そう言ったらヒロインはムッとした表情で沈黙し、もういいと分配速度を上げた。
「あ、このあたりの未分配品は換金交渉して分配するか、共益費にまわすから。荷物増え過ぎても困るでしょ」
「ああ、ありがとう」
戻れたらなんとかなるのか。
そんなことを考えたことはなかった。無事帰ったことで発生する弊害?
行方不明を叱られる?
帰ったら、間をおかずに追試!?
「追試かぁ」
ため息混じりに吐き出すとヒロインが時間は有り余ってるんだから予習復習しておけばいいのよ。と言うが、教材は手元にない。それならその時間を導石作成にかける!
というか、試験対策とかしてんの?
余暇があれば教科書や授業ノートを思い出しながら書き出してるとか変態か。ヒロイン。




