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下準備

「ひといっぱい、だよね?」


 ゆうべの席に招かれた。と伝えるとにーちゃんは思いっきり動揺した。


「もうおひとかたもと招待されたしねぇ。子供たちも参加する場みたいだから気楽でいいと思うわよ?」


 ミルドレッド女史がどうでも良さそうにフォローを入れる。にーちゃんはヒトは苦手だが、小さな子供には好意的だし、子供たちにも好かれる。ただし、ヒロインが嫉妬する。


「エンはゆうべの時間まで導石増やしておいたら? この場所に長期逗留が好まれないのって別の神の寵児がいるからだし、早く移動できる方が私としてもありがたいわ」


 珍しくにーちゃんに甘えようとせず、すたすたと個室の方へ足を向けるヒロインは出入り口のあたりで振り返って「あとで地下迷宮の分け前はあげるからちゃんと覚えておきなさいよ!」と怒鳴ってきた。にーちゃんはしっかり別のことに気をとられてる。


 え?

 分け前なんてあるの?

 ポカーンと見送る俺がよっぽど間抜けに見えたのか、ミルドレッド女史が咳払いをして注意を引く。


「迷宮探索で得たものの分配は当然の事よ。私たちは同じ方向へ向かっているとはいっても全部において同意をおいた同行者ではないの。いざとなればお互いに別行動をとる事もあるでしょう。だからこそ同じ行動での報酬は公平でなければいけないの。もちろん、帰還場所を守っていたユーキにも分配はあるの。わかる? わかってないわね」


 最後はにーちゃんに向けてのため息だった。

 ソナーはエンの武器扱いだけど不満ないわよね?と確認された。問題は、ない。

 想定していなかった臨時収入に喜んでいるとにーちゃんが申し訳なさげに自分がなにもしてないと言おうとしてミルドレッド女史に遮られていた。

 最終的に分配は有り、それを受け取る義務があるからにーちゃんの考えは不要であるという極端な意見でまとまった。(ミルドレッド女史が押し切った)

 確かに拠点確保があるから迷宮探索に行けた。食事の支度や飲料水は任せっきり。気がつけば狩ってきた獣の解体作業をミルドレッド女史から引き受けていた。報酬分配に不満はない。むしろ迷宮崩壊に導いた俺が報酬貰っていいのか悩むぐらいだけど、きっとなんか言ったらミルドレッド女史に噛みつかれる恐れがあった。

 ゆうべまで時間がありそうだと判断した俺は靴を履きなおして外に出た。

 甘く干した肉を齧りながら地図の境界だと思えた場所に足をむける。

 寝泊まりにあてがわれた家は里の外れで境界には近いと読んだのだ。ただ、そこは雑木林が広がり、かつ目印になり得るモノがほとんどない場所だった。つまり測れる範疇ほぼ森って事だよな!?

 泊まっている建物の裏に導石をふたつほど埋めることにした。小さな里は住民こそ少ないものの施設などは広範囲に点在しているようだった。

 軽く魔力を通して導石のリンクを強化する。

 さっき地図を織った時より範囲が僅かに広がり、情報密度が上がっている。


「導石がうまく活性化した?」


 ついでに魔力不足で自壊しかけていた可能性があるかと考えるけれど、土地の魔力が少なければ土地は流動するはずだし。よくわからない。ただ多少意図的に魔力を通しておけば導石は確かに反応を返しはじめた。


「それは、なにをしているのかな?」


 灰色の髪に薄茶色の目。昼間会ったジンの父親だ。確か自分も余所者だと言ってたっけ。


「地図を広げるた……」


 彼の状態は結構ぼろぼろだった。


「大丈夫っすか?」

「ん? ああ、いやぁノグマの狩り出しの手伝いをしていたんだけどね、邪魔だと奥さんに追い払われてしまったよ」


 どこまでも朗らかな声だった。奥さんの方が強いんですかい。


「それで、……職業上の守秘情報かい?」


 そういうわけでもないし、彼に悪い印象はない。


「地図を広げるための下準備です」


 手のひらに導石を載せて見せる。彼は興味深げに手を伸ばしかけて、「触ってもかまわないかな?」と聞いてきた。


「もちろん、どうぞ」

「ありがとう」


 機嫌良く導石を取り、光に晒したり影を透かしみたり、導石をなんだと思っているんだろうと思いつつ気分はひどく高揚してくる。


「綺麗だねぇ」


 にっこり笑顔で導石を返されて妙に照れる。


「魔力を織って固体化させているのに破壊力はなくて防御と調査に魔力の割合を特化させてるんだね。そんなことを可能にする媒体があるだなんて世の中広いなぁ。あ、媒体は守秘だよね。っていうか、誰かに言っちゃダメだよ」


 すごいなぁ。綺麗だなぁと言いながら忠告をくれる。言っちゃダメだよと言いながら口元で指を交差させる仕草が自然である。


「あ。忘れるところだった」


 なにを?

「明日、うちの奥さんが里の外周を案内しますって。生き物に騎乗したことある?」

 狩りの役に立たないから伝言役で、すんでで伝言すら忘れるとこだったと?

 俺が胡乱な表情を浮かべてしまったのか、天然なのか、彼は笑っている。


「私も馬には乗れるんだけどシャドリは苦手でねぇ。明日は頑張ってくださいね」

 それじゃあ後で。と言い残して彼は去っていく。



 生き物に乗ったのはサカナぐらいだけど、シャドリってナニ!?


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