俺の相棒
「んー、そっちの意味じゃないんだけど。わかんないならいいや。ただエンが考えているより利用価値があるってだけ。……ああ、だから地図職人はひとつの勢力につくことをしない。を方針にしてるのか。職人保護ね」
一人納得したのか、ヒロインが何度か勝手に頷いている。
「専門職は時に他に疎くなるもんねぇ。でもさ、エンの場合それで大丈夫?」
「なにが!?」
「だーかーらー、私たちと別行動をする時、周りに対して注意深く警戒することができるの?」
余裕ないでしょとチラ見された。その後はそんなことよりもとばかりに柔軟体操をはじめて迷宮探索再開に備えていた。
そこを言われれば確かに納得できるし、危惧していくべきことなんだと思う。少し安心すると警戒が抜けやすいのは悪い癖だともわかっている。
「あー、たぶん、今は余裕ないから無理かな。すぐ忘れてるし。なんつーかうん。サンキュ」
時々こうやって思い出させてくれるのは助かる。
「知り合ったんだから、アンタになんかあってもおにーちゃん心配しちゃうし! それだけなんだから!」
ぴたりと柔軟運動をとめていうセリフがソレ。
ツンデレ?
「誰が、ツンデレよ! 私がデレたいのはおにーちゃん相手にだけなんですからね!」
ひとしきり騒いだ後、プイッとむこうをむいて乱暴な動きで柔軟を再開するヒロイン。
知ってる。おにーちゃんに対してはヒロインどっちかというとヤンデレ入ってると思うけどな。
声に出てたか。気をつけよう。
「まぁだから本音を言えば戦闘はソナーに任せるつもりで、できるだけの体力とか温存できる魔力とかを自己管理出来ないかなと思ってるんだ」
ソナーが協力してくれると嬉しいと見上げてみた。
ヒロインたちと別行動するまでには体力魔力の配分をなじませたい。だから、
「いこうか。ソナー」
なぜか迷うような視線を俺に落とすソナーに手を差し出す。
「俺の目指すところは地図職人だから、戦闘はソナーをアテにしてるんだ。ソナーに出会えてよかったと思ってる」
できればこれからはこっちの都合もいいように配分して欲しいところだけど、期待できないだろうなぁ。どう対策しようか?
『ワタクシは戦う武器です。滅するべきを滅することが存在意義です。ワタクシは地図の一部ではないはずなのです』
無地というには裾に模様の入ったコート。きっと模様はこれからひろがっていく。ソナーの聖剣としての機能と覆う外装に過ぎない地図保管筒の機能はケンカするんだろうか?
「鞘みたいなものじゃないのか?」
『そう、ではないと感じるのです』
あえていうなら困惑顔。それはなにかを怖がっている表情だった。
俺はその恐怖に対する答えを持たない。
わからないことは多いけれど、そこだけは確かで。その恐怖をわかるとも言えない。わからない。先が見えない恐怖は走るしかないと考えているだけだ。それが正解かどうかなんてわからないけれど。
「ま、一緒にいこうぜ」
戦闘に関しては命を俺はソナーに預ける。危険の多い世界で危険なことは変わらないなら俺は知り得たものに賭けるしか知らない。
『ですが!』
「すぐに、戦えなくなるわけじゃないだろ?」
壊れ折れても構わないと動くくせに何を恐れるのかが俺にはわからない。
ソナーは強い。
『ワタクシは折れぬ武器です』
キュッと決意の表情で俺を見返したソナーが俺の手にその手を重ねる。接近する圧迫感が消えうせ、槍の姿のソナーが手の中で馴染む。
「お。期待してる」
『はい!』
そして俺は宿の一室で起きた時に古戦場が吹っ飛んだことと時空軸が歪んだことをヒロインたちから叱られるのであった。
元凶でもある力を使い果たしたソナーはしばらく腕輪状態のまま答えることはなかったこともあり、ひたすら俺が怒られた。
そして、地図のリンクは途切れ、無事よろず屋のもとに帰れたとしてもよろず屋が俺たちを覚えてる範囲の時間軸かどうかが心配だとミルドレッド女史が怖いことを語っていた。
腕輪をぶんぶん振ってソナーを呼び出したかったが、当然のごとく応答はなかった。
「こんな状況は期待してねぇよ!」
鬼畜か、俺の相棒は!




