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迷宮と導石

 ゆっくりと呼吸を整える。

 そんな時間がとれるのはヒロインが迷宮強度に関わる周囲の魔力値が安定していないと移動を渋ったからだ。ついでに俺も回復薬で無理に魔力を回復させている分馴染みが悪い。このまま攻撃魔法などの放出系を使えば(使うのはソナーだが使用される魔力は俺のもの)調子を崩すこと請け合いとミルドレッド女史の診断ももらった。


 ゆっくりと呼吸を整えて意識を集中させる。


 収集集積修正接続読取書換分析分類魔力吸引。


 大雑把に組んで、そこにより精密さを求める。

 そこに高低差はあるか、空間があればそこに水はあるか、生きていける空気はあるか、生物がいるなら大きさはどうなのか。他の導石の形式をどこまで引き継げるのか。魔力濃度も調べられる?

 構築する素養をアレもコレもと詰め込む。それでも調査すべき情報種はまだ足りていない。


 形成された導石はいつも通り変わらない外観。馴染みきれない魔力を使い過ぎたのか指先から逃げるようにころりと落ち迷宮の床に沈んだ。


構築(ゼ・ナン)

探査(ス・ティク)

展開(ス・ファト)

 脳内を反射的に走る魔力流を「『定着(セ・タナ)』」咄嗟に掴んだのはソナーの服に情報という模様が描かれていく。

 それは迷宮地図だった。


「歩いたコースだけね。これ、エンの知覚と認識が影響している感じかしら?」

 ヒロイン、冷静に分析しないでくれる?


複写(ゲネ・ヴァ)


 ふわりとコピーが物質化する。

 いくつかの分かれ道、真っ白な通路。薄まった赤黒い色は本来の魔力性質な気がする。

 白はソナーの魔力。そう魔力には色のイメージがつきまとう。

 ミルドレッド女史の魔力は薄く透き通った赤い魔力。ヒロインは煌めきを帯びた深い緑。にーちゃんはぼんやりした空色。自分の色はよくわからない。


 やりとげた安堵にふぅと息を吐いたら視界の端でそわそわしているソナーが目につく。

「ソナー?」

 どうかした? と声をかければ、『ワタクシは邪霊死霊を滅する為に生み出されし霊槍。地図との関わりなどありませんわ!』とよくわからない声をあげられた。

 ただ、その服は図布だし、輝く飾りは導石だし、師匠がくれた図布入れを取り込んだのはお前の勝手だけど、おまえ、俺が地図職人だっていうこと舐めてた?


「ただの機能統合でしょ。便利よね」

 ヒロインがなんでもない事のように言いながら軽食の残骸を袋に無造作に突っ込みながら立ち上がる。

「なによ。効率って大事なのよ。もちろん扱いやすいコンパクトさもね。導石って解析出来なさそうだけど小さいのに集積できる情報量多そうだから私も作れたら良かったのにって思うし」

 もちろん使い方は地図とは無縁だけどと導石に粘つくような視線をおくられた。見てんじゃねぇ。

「地図に使わない導石なんてどうするんだよ」

 地図を作るための道具だぞ?

「なに言ってるの。導石というのは聞いている限り情報管理媒体よ。使い道なんてそれこそ多様にあるに決まってるじゃない。むしろ地図にしか使ってないのが無駄だと思うわよ」

「地図が無駄だって言うのかよ?」

 イラッとする。

「違うわ。地図は有用よ。地理関係は大事だし、植生分布もその地図は反映されているわよね。とても有益。だから、もっと使えるはずなの。変動の激しい世界で大きくアドバンテージを取れるのよ?」

 えっと?

 もっと、使えるって、地図は地図だろ?

 世界であどばんてーじ?


「ああ、もうなんでもいいけどさ、俺は地図を作りあげたいだけなんだよ!」

「思ってたけど、エンって頭悪い方よね?」

 ちょっと沈黙したヒロインに暴言を吐かれた。

 どうせ追試確定なくらいに頭悪いよ。ほっといてくれ!

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