古戦場の迷宮
日が沈んだ頃柔軟運動をする。
古戦場の地下迷宮、入口がいくつあるか距離はとかの計測は終わった。迷宮の情報はブラックボックスのように在るという事しかわからない。
図布を納めた筒を掴もうとしてない事に気がつく。
『ワタクシを持つのに邪魔ですからワタクシが保管致しますわ』
ご安心をとソナーが微笑む。黒に赤の散った水着風衣装の上にゆったりとしたコートを羽織っている。所々を飾る煌めきは導石だろうか?
「勝手に取り込むな!」
でも露出は減って少し視界に優しい。武器形態に変化したソナーを握り外観変化が重さにも握り心地にも変化がないのを確かめる。変わらない。
「準備オーケー?」
ヒロインが聞いてくるからちょっと待ってもらって目隠しをしてしまう。
「俺はソナーに振り回される役だからな。見えてると俺の躊躇いがソナーの邪魔をするんだよ」
それが後でむちゃくちゃ体の負担になる。
吹っ飛ばされる体感からの受け身は師匠のおかげである程度できるし。とりあえず、ソナーの動きのクセを俺が覚えなければ状況は変わらないんだ。
「慣れ方はそれぞれだし、いろいろ試してみるのは悪くないと思うわ。今日は様子見でもあるしね」
ミルドレッド女史の声には微妙な呆れと笑いが感じられる。とりあえず、実地で学ぶんだよ!
勢いの良さと緩急で酔った。
叱られたのはソナーだった。
「ソナー、貴女ちょっと全開で飛ばし過ぎ。過剰な浄化力が迷宮の維持魔力まで削っているわ。殲滅と同時に生埋めなんて困るんだから!」
『でも、敵は全力で殲滅すべきです』
「あのね、ソナー。神聖武器としての貴女の矜持もわからないではないわ。でもね、貴女を振るうことの出来るエンは脆弱な魔力と体力しか保持していないの。使い捨てを望んで次の使用者をまた待つつもりなら止めないけどね。使い方は大切だと思うのよ?」
ヒロイン、にーちゃんがいないとざくざく人を人とも思わない発言してくれるよな。使い捨てを容認するなと切に思う。
はい。ヒロインは神の加護を得た主人公クラスだもんな。ああ、格差社会。
「ねえ、相性の良いエンに決めるまでどのくらいの時間がかかったのかしら? それとねぇ貴女が滅するべき邪悪はここだけなのかしら?」
穏やかな微笑みを浮かべながら告げているに違いない言葉。まるで悪魔だ。魔女がここにいる。
『次に出会うまで同じ時間……他にもはびこっている?』
「同じというかここで力尽きたなら、私もノゾミも拾うことはないからもっと長い時間になるんじゃないかしらね」
埋まっちゃうでしょうしとミルドレッド女史が楽しげに笑う。その時は俺も一緒だからやーめーてー。見捨てられるであろう事は知ってたけどさ。
『困る。エンがいないと困るじゃないか』
いや、ソナー今、気がついたの?
俺はミルドレッドに差し出された魔力回復薬(常温でも不味い)をようやく治った吐き気のあとへと流し込んだ。
「ぅええええまっずいい」
というか吐きそう。
じんわりと回復する魔力を待ちながらヒロインとミルドレッド女史も軽食を口にする。
「おにーちゃんがノゾミのために作ってくれたお夜食ぅ」などと四人前(ソナーの分も用意してくれたらしい)のお弁当を広げている。
「エンは食べれそう? 吐くんならもったいないから分けてあげないけど?」
ヒロインがご機嫌なままこっちに振ってきたのでとりあえずいらないと手を振っておいたらせっかくおにーちゃんが準備してくれたのにと口に押し込まれた。
おまっ、いったい俺にどう反応してほしいんだよ!?




